第三章 最悪の出会い
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小説とあわせて、ぜひビジュアルでも『心技戦隊ドライブレンジャー』をお楽しみください。
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角を曲がったところで、赤井は誰かと正面からぶつかった。衝撃で視界が揺れ、彼だけが派手に尻餅をつく。相手は片足を半歩引いただけで踏みとどまり、すぐに赤井の後ろへ視線を送った。
「悪い、怪我は――って、お前、肩から血が出てるじゃねえか。追われてるのか?」
低く太い声だった。見上げると、日に焼けた肌の背の高い男がいた。シャツの袖口は裂け、左の頬には浅い爪痕らしい赤い線が三本走っている。整った顔立ちなのに、今は額に汗を浮かべ、呼吸も少し速い。
「す、すみません。ぶつかってしまって……それより、猫耳の女の子たちが、ものすごい速さで追ってきています。爪が伸びる手袋と靴をつけていて、人を本気で傷つけて――」
「説明は分かった。俺もさっき一人にやられかけた。あれを『女の子たち』で済ませるのは無理があるぞ。見た目がどうだろうと、動きは完全に兵隊だ」
男は赤井へ手を差し出した。赤井が掴むと、一気に引き起こされる。
「立てるか? 右腕は動くか?」
「痛いですけど、たぶん大丈夫です。……あなたは、怖くないんですか? さっきから周りを見ていて、僕よりずっと落ち着いているように見えるので」
「落ち着いて見えるだけだ。怖いに決まってる。俺だって、猫耳の子供に壁走られて爪で顔を狙われる人生なんか想定してねえよ。ただ、怖いからってその場で止まったら、次の一撃を避けられないだろ。だから出口と障害物を探してる。それだけだ」
赤井は、その答えが意外だった。強い人間というものは、そもそも恐怖を感じないのだと勝手に思っていた。しかし、目の前の男は汗をかき、呼吸を乱し、それでも恐怖の中で考えることをやめていない。
「僕は、怖くなると頭まで止まってしまうんです。さっきも店員さんが倒された時、逃げないといけないのに身体が動かなくて……」
「だったら今は、止まりそうになったら俺が引っ張る。代わりに、お前が見たことは全部言え。俺一人じゃ情報が足りねえ。逃げるのも二人の方が多少マシだ」
「……ありがとうございます。あ、僕、赤井満です」
「黒井菊。二十五。自己紹介してる場合じゃないのは分かってるが、ずっと『お前』で呼ぶよりはマシだろ」
「黒井さん……菊って、ずいぶん柔らかい名前なんですね。見た目との印象が違ったので、ちょっと意外でした」
「今、名前に引っかかったよな?」
「いえ、あの、思っていたより可愛い名前だなと……すみません」
「命狙われながら初対面の男の名前を評価できるなら、意外と余裕あるじゃねえか。あと、お前は謝りすぎだ。謝ってる時間があるなら走れ」
黒井の言い方は乱暴だったが、不思議と悪意を感じなかった。赤井はこんな状況で笑っていいのか分からないまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。それだけで、呼吸が一度深く入った。
二人はバックヤードへ走った。非常口の電子錠は反応せず、黒井は周囲を見回しながら、壁際に置かれたリネンワゴンへ目を止める。
「このワゴンだけ妙に壁から離してある。床もここだけ傷が多い。何かあるかもしれねえ」
「そんなの、よく気づきますね」
「仕事で人の姿勢や足元ばかり見てるからな。違和感があると目につく」
黒井がワゴンを動かすと、その下から床と同色に塗られた金属の取っ手が現れた。引き上げると、細い階段が下へ続いている。
「地下……勝手に入って大丈夫なんでしょうか」
赤井が反射的に口にすると、黒井は二秒ほど無言で彼を見た。
「お前、さっき肩を爪で切られたんだよな?」
「はい。まだ動かせますけど、肩から腕にかけてずっと熱いような痛みがあります」
「上には、その爪を何本も出せる奴が五人いる。だったら今は、不法侵入を心配するより生存率を心配しろ。あとで怒られたら俺も一緒に謝ってやる」
「黒井さんが謝るところ、あまり想像できないです」
「俺だって必要なら謝る。必要ならな」
二人が階段へ足を掛けたところで、上から甲高い声が飛んできた。
「ちょっと、そこ閉めないで! 私も入るから!」
小柄な女性がヒールを鳴らしながら駆け込んでくる。店のスタッフ用名札が胸元で揺れ、髪も乱れていた。勢い余って階段を踏み外しかけたところを、黒井が腕を伸ばして支える。
「危ねえぞ。ちゃんと足元見ろ」
「いきなり知らない男に抱えられたんだけど。誰?」
「落ちるところを助けられた奴の最初の一言がそれか?」
「助けたなら礼くらい言うけど、だからって馴れ馴れしく触っていい理由にはならないでしょ。はい、ありがと。これで貸し借りなし」
「助けた相手への礼を一息で帳消しにできるの、なかなか性格悪いな、お前」
「初対面の女に『落ちろ』って言いかけた顔してる男よりはマシだと思うけど?」
赤井は二人の間へ割って入るように手を上げた。
「あの、自己紹介と喧嘩は下へ降りてからにしませんか。さっきの人たち、本当にすぐ追いつきます。僕の肩も、こんな感じなので……」
女性は赤井の肩の血を見ると、ほんの一瞬だけ表情を変えた。しかし心配の言葉を口にする代わりに、階段の下へ先に視線を向けた。
「それ、すぐ死ぬ傷じゃないわよね? だったら走れるうちに走りましょう。ここで全員捕まったら助けるも何もないし」
「言い方、もう少しありませんか?」
「結果が同じなら短い方がいいでしょ。私は桃野みるく、二十。ついこの前二十歳になったばかり。ここのスタッフ。以上。続きは逃げながら」
彼女はそう言って、誰より先に地下へ降りていった。




