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心技戦隊ドライブレンジャー  作者: 4代目ている
第3話 出頭命令!暴れるチャオと三尾の姉妹!!

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第五章 地底の巨大蜘蛛

キャラクターイラスト・設定画・キービジュアルはpixivで公開しています。

小説とあわせて、ぜひビジュアルでも『心技戦隊ドライブレンジャー』をお楽しみください。

リンクは下部にあります。

 王立科学開発局の認証紋が、軍用通信器の表示板いっぱいに広がった。


 コロが認証欄へ指を置くと、短い確認音のあとで画面が切り替わる。最初に現れたのは、王国の生活圏から大きく離れた地下深層の地図だった。居住区も輸送路もない、複雑な自然洞窟の一角だけが赤く囲われている。


「任務通知ね」


 コロが表示を読み上げる。


「王立科学開発局から王国軍への素材回収要請。対象は、指定洞窟の最深部に巣を作っている大型蜘蛛型モンスター一体」


「蜘蛛?」


 ピョンがすぐに通信器へ寄った。


「大きいの?」


「偵察記録があるわ」


「見たい!」


 コロが添付映像を開く。


 画面に映ったのは観測機ではなかった。


 フェリディウム繊維製の軍用軽装を着け、肉球グローブと肉球ブーツを装備した五匹のキャレット兵が、鉱石灯だけを頼りに洞窟を進んでいる。映像は彼女たちの記録装置から回収された複数の視点を、時系列に沿ってつなぎ合わせたものだった。


『第五偵察班、指定深度へ到達したにゃ。これより奥を確認するにゃ』


 先頭の一匹が小声で告げる。


 そのすぐ後ろで、別の兵が壁を見上げた。


『糸が増えてるにゃ……』


 鉱石灯が揺れる。


 白い糸が、洞窟の天井から何本も垂れていた。細いものでもキャレット兵の腕ほどあり、太い束は岩柱のように壁から壁へ張られている。


『糸、踏むにゃよ。足を取られたら動けにゃくにゃるぞ』


『分かってるにゃ』


 返事をした兵の猫耳は、ぺたりと伏せていた。


 映像の中の五匹は、まだ敵を見つけていない。それでも全員の一本尻尾が身体へ寄せられ、肉球ブーツの爪が岩へ食い込んでいる。


 やがて、先頭の灯りが黒い塊を照らした。


 一瞬、岩壁に見えた。


 その岩が動く。


 節のある巨大な脚が持ち上がり、先端が地面へ降りただけで映像が激しく揺れた。


『……にゃに、これ』


 誰かの声が震える。


 もう一本。


 さらに一本。


 闇の中から脚が現れ、奥で赤い眼がいくつも開いた。


『後退するにゃ! 記録は取れたにゃ!』


 班長らしい声が飛ぶ。


 五匹が一斉に向きを変えた。


 その瞬間、白いものが画面を横切った。


『にゃっ!?』


 一匹の両脚へ蜘蛛糸が巻きつき、身体が後ろへ引き倒された。肉球ブーツの爪が岩を削る。別の兵が駆け戻り、グローブの爪で糸を切ろうとする。


『待ってろにゃ! 今――』


 巨大な脚が上から降った。


 助けに入った兵のすぐ横で岩床が砕け、二匹が跳ねるように離される。倒れていた兵の身体が糸ごと持ち上がった。


『やだ、やだにゃ! 助けてにゃ!』


 画面の奥から、蜘蛛の頭部が降りてくる。


 大きな顎のような口器が開いた。


『いやああああっ!』


 白い糸に包まれた兵は、そのまま口器の奥へ引き込まれた。肉球ブーツを履いた両脚が激しく蹴り続け、やがてそれも見えなくなる。硬いものを噛み砕くような鈍い音が、記録装置へ残った。


『一匹やられたにゃ! 走るにゃ!』


 残る四匹が散る。


 壁を駆けようとした一匹が、肉球ブーツの爪を岩へ食い込ませて跳んだ。だが空中で背中へ糸が絡みつく。


『尻尾! 尻尾に絡んだにゃ! 切って、切ってにゃ!』


 仲間が手を伸ばすより早く、身体が天井近くまで引き上げられた。


『ママ――』


 声は途中で途切れた。


 暗闇から伸びた巨大な口器がその身体を捕らえ、糸ごと奥へ運び去る。


 別の視点へ切り替わった。


 三匹。


 荒い呼吸だけが聞こえる。


『出口まで戻るにゃ! みにゃ、離れるにゃ!』


 しかし、洞窟の出口側にはすでに新しい糸が張られていた。


 一匹が止まりきれず胸から粘着糸へ突っ込み、身体を捻っても離れない。もう一匹が爪で糸を裂こうとする。


『動くにゃ! 今外すにゃ!』


『早く、早くにゃ!』


 背後の闇から二本の脚が伸びた。


 助けていた兵が横から弾き飛ばされ、記録映像が回転する。糸に捕まった兵は動けないまま、巨大蜘蛛の頭部へ引き寄せられた。


『嫌にゃ……帰りたいにゃ……』


 その顔が暗闇へ消えた。


 次の瞬間、口器が閉じる。


 残った二匹のうち、一匹は立ち上がれなかった。脚を強く打ったのか、這いながら後退している。


『班長、置いてってにゃ! 記録だけ持って帰ってにゃ!』


『黙るにゃ! 五匹で来たにゃら五匹で――』


 班長が腕を掴んだ瞬間、蜘蛛糸が二匹まとめて覆った。


 映像が白く染まる。


 悲鳴。


 爪が岩を掻く音。


 身体が引きずられる音。


 そして、片方の記録装置が床へ落ちた。


 傾いた映像の向こうで、糸に包まれた一匹が先に巨大蜘蛛の口元まで運ばれていく。班長は片腕だけを糸から出し、仲間を掴もうと必死に伸ばしていた。


『待ってにゃ! そっちは駄目にゃ!』


 届かなかった。


 仲間は蜘蛛の口器の奥へ消えた。


 班長の身体もすぐに持ち上がる。


『任務記録……送信するにゃ……対象、大型蜘蛛……五匹、全員――』


 そこで声が崩れた。


『やだにゃ……死にたくにゃい……』


 巨大な黒い影が画面を覆う。


 最後に見えたのは、床へ向かって伸ばされた肉球グローブの手と、岩を引っ掻く爪だった。


 次の瞬間、映像が切れた。


 居間が静かになった。


 ピョンは何度か瞬きをしてから、止まった画面を見る。


「にゃんこ、五匹ともやられちゃったね」


「そうね」


 コロは記録欄を確認した。


「偵察班五匹、全滅。記録装置の遠隔送信だけは成功しているわ」


 死者を悼む言葉ではなかった。任務成果の確認だった。


 チャオはむしろ、巨大蜘蛛が映った最後の静止画を見て口元を上げていた。


「いいじゃねえか。これくらいでけえ方が殴り甲斐がある」


 地底世界でモンスター討伐そのものは珍しくない。巨大昆虫、洞窟獣、魔力変異生物への対処は、地上侵攻が始まるより以前から王国軍が続けてきた仕事だった。


 ただし、今回の蜘蛛は王国へ攻め込んできたわけではない。


 巣があるのは生活圏から離れた地下深層で、放置しても直ちに居住区へ被害が出る状況ではなかった。王立科学開発局が深層調査で特殊な生体反応を発見し、研究対象として価値があると判断したため、偵察兵を送り込んだのである。


「つまり、こっちから蜘蛛の巣へ行くんだ?」


 ピョンが聞く。


「そうよ。科学開発局が欲しいものを取りにね」


「蜘蛛が来るんじゃなくて?」


「こちらから行きます」


「ふうん」


 ピョンはもう一度、五匹が消えた暗い画面を見た。


「にゃんこ五匹全滅してまで欲しいものって、何だろう」


 コロが次の項目を開く。


 討伐対象の簡易図の横に、任務条件が表示された。


 一、指定の巨大蜘蛛型モンスターを討伐すること。


 二、個体内部に存在するDNAコアを損傷させず、無傷で回収すること。


「DNAコア?」


「一部の大型モンスターや特殊個体から採取できる研究素材よ。遺伝情報、生体特性、魔力特性を高密度で保持する中枢物質、とあるわ」


「宝石みたいなもの?」


「見た目までは書いていないわ。ただし破損した場合、研究価値が大きく失われる。今回の最優先回収物よ」


「じゃあ蜘蛛を全部消したら駄目?」


 ピョンがマジカルテイルステッキを持ち上げる。


「駄目」


「足だけなら?」


「状況を見てから」


「はーい!」


 ピョンは杖を下ろした。


 チャオだけが表示板を睨んでいる。


「討伐して、コアは壊すなって?」


「そういう任務ね」


「蜘蛛は殺せ。でも中の大事なもんは残せ?」


「ええ」


「面倒くせえな!」


 ハンマーへ伸びかけた手が止まった。


 頭の中に、朝の静かな声が蘇る。


 ――あなたには力があります。ならば、壊すことだけでなく、必要なものを残すことも覚えてください。


 チャオは舌打ちした。


「……分かったよ。探してから殴りゃいいんだろ」


「少し進歩したわね」


「褒めんな!」


 ピョンが楽しそうに笑う。


 コロはさらに資料を送った。


「それから、今回の編成が指定されているわ」


「編成?」


「キャレット兵一個大隊。総勢百匹」


 チャオの眉が動いた。


「百匹?」


「大隊指揮はキャレットリーダー一匹。その配下に九十九匹」


 キャレットリーダーとは、一尾兵の中で部隊運用を任される指揮役である。あくまで軍務上の役職であり、一本尻尾の平民という身分そのものが上がるわけではない。


「百匹もいらねえだろ。オレ一人で潰せる」


「続きがあるわ」


 コロの視線が一段下へ落ちた。


「九十九匹は、訓練所を出たばかりの若い新兵。今回は大型モンスター討伐と同時に、新兵の実地訓練を兼ねるそうよ」


 数秒、チャオが固まった。


「……は?」


「実戦での隊列維持、洞窟内機動、蜘蛛糸への対処、負傷者回収、上位指揮官の命令下での集団戦闘。評価項目まで付いているわね」


「ふざけんな!」


 チャオの三本の尻尾が一気に膨らんだ。


「オレはでけえ蜘蛛をぶっ殺しに行くんだぞ! 訓練所出たばっかの新兵を九十九匹も連れてけって、子守りじゃねえか!」


 超巨大ハンマーの柄を掴む。


 そのまま床へ叩きつけかけて、コロの視線に気づき、ぎりぎりで止めた。


「……チッ!」


 槌頭を持ち上げたまま、何もない場所へ置き直す。


 ピョンが笑った。


「チャオ姉、ちゃんと床壊さなかった!」


「今そこ褒めんな!」


「でも百匹のにゃんこと一緒なんだ。楽しそう!」


「どこがだよ! 蜘蛛より先に新兵どもが糸に引っかかるだろ!」


「だから訓練するのでしょう」


 コロは平然としている。


「それに、ティーダ将軍閣下から何を命じられたか忘れてはいないでしょうね」


 チャオの口が閉じた。


「……兵を無駄に減らすな、だろ」


「ええ。しかも今回は新兵訓練。蜘蛛を倒してDNAコアを持ち帰っても、大隊を全滅させたら訓練任務としては失敗よ」


「面倒くせえええ!」


 今度は叫ぶだけで床は壊さなかった。


 ピョンが腹を抱えて笑っている。


「チャオ姉、今日は壊しちゃ駄目なものばっかりだね!」


「お前も増やすな!」


 コロは表示板へ戻る。


「ピョンも同行します」


「やった!」


「待て。こいつまで連れてくのかよ」


「蜘蛛糸の除去にはピョンの部分消滅が有効です。新兵が大量に同行する以上、退路確保にも使える」


 ピョンは得意そうにステッキを掲げた。


「糸だけならきれいに消せるよ!」


 コロの目が向く。


「侍女まで一緒に消した人が言うと不安ね」


「今度は間違えないよ!」


「巨大蜘蛛本体への全体消滅は禁止。DNAコアの位置が確認できるまで胴体も撃たない。基本は蜘蛛糸の除去と、新兵の退路確保。私が止めたら必ず止めること」


「分かった!」


「面白そうだから勝手に撃たない」


「……分かった!」


「今、一拍あったわね」


「ちゃんと分かったって!」


 チャオが鼻を鳴らす。


「オレは新兵の面倒なんか見ねえぞ」


「見るの」


「何でだよ!」


「あなたが今回の主力だからよ。キャレットリーダーは大隊をまとめる。私は全体状況とコア回収を管理する。ピョンは糸と退路。巨大蜘蛛へ直接圧力をかけるのはあなた」


「だったらオレだけ蜘蛛のとこまで先に行けば――」


「駄目」


「まだ最後まで言ってねえ!」


「言わなくても分かります」


 チャオの三本の尻尾が苛立たしげに床を叩いた。


 それでも、ハンマーは振らなかった。


 コロは正式な任務受領欄を開く。


「出発は明朝。キャレット大隊とは洞窟外の集結地点で合流。今夜のうちに偵察記録を全員分確認します。五匹がどこで捕まり、どの糸が退路を塞ぎ、蜘蛛がどの順番で獲物を狙ったかまで洗い出すわ」


「死に方まで見るの?」


 ピョンが聞いた。


「新兵を同じ場所で同じように食べさせないためよ」


「なるほど!」


 チャオは表示板の停止映像を見る。


 巨大蜘蛛の口元へ引きずられていく偵察兵。その奥に、何本もの脚。


「……百匹か」


「ええ」


「九十九匹が新兵」


「ええ」


「コアは壊すな」


「ええ」


「蜘蛛はぶっ殺せ」


「それは合っています」


 チャオは深く息を吸った。


「今度の任務、条件多すぎだろ!」


 壊れた居間に、ピョンの笑い声が響いた。


 同じ頃。


 王国の生活圏から遠く離れた、深い洞窟の奥。


 偵察班が最後に残した記録装置の一つが、蜘蛛糸に半ば埋まっていた。


 その周囲には、小さな装備片がいくつも白い糸へ絡め取られている。肉球グローブ。片方だけのブーツ。千切れた記録帯。


 そして、そのさらに上。


 洞窟の天井近くから垂れた太い糸の先に、白い繭のような塊が一つぶら下がっていた。


 よく見れば、それは全身を蜘蛛糸で幾重にも巻かれたキャレット兵だった。


 小さな身体は腕ごと胴へ縛りつけられ、両脚もほとんど動かせないほど糸に埋まっている。猫耳の先と、フェリディウム繊維製の軍用軽装の一部、そして一本尻尾の先だけが白い糸の隙間から覗いていた。


 映像の最後、巨大な黒い影に覆われて消息を絶った偵察班の班長だった。


 王国側の記録では、第五偵察班は五匹とも全滅。


 それでも巨大蜘蛛は、この一匹だけを食べ尽くさず、巣の奥まで運んでいた。


 兵はぴくりとも動かない。呼吸らしい動きも見えない。


 なぜ一匹だけ残されたのか、その理由を知る者はいなかった。


 風はない。


 それでも、繭を吊るす糸がかすかに震えた。


 続いて、キャレット兵の胴を覆う白い糸が、ごくわずかに内側から押されたように膨らみ、すぐ元へ戻る。


 何かが動いたのか。


 それとも、巨大蜘蛛が歩いた振動が伝わっただけなのか。


 暗闇の中で、岩山の一部に見えていたものが動く。


 長い節。


 硬い外殻。


 先端が地面へ降りるたび、重い振動が洞窟の奥へ伝わった。


 一本。


 さらに一本。


 巨大な脚が闇の中から姿を現していく。


 黒い巨体の奥で、小さな赤い光が一つ灯った。


 二つ。


 三つ。


 その隣にも。


 複数の眼が一斉に開く。


 白い蜘蛛糸が、洞窟全体で震え始めた。


 天井から吊られたキャレット兵の身体も、その振動に合わせてゆっくり揺れる。


 明日、百を超える獲物がやって来ることなど知る由もなく、巨大蜘蛛は静かに身体を起こした。


 第3話 了

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