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心技戦隊ドライブレンジャー  作者: 4代目ている
第3話 出頭命令!暴れるチャオと三尾の姉妹!!

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第三章 長女コロ

キャラクターイラスト・設定画・キービジュアルはpixivで公開しています。

小説とあわせて、ぜひビジュアルでも『心技戦隊ドライブレンジャー』をお楽しみください。

リンクは下部にあります。

 横殴りの風が、居間を貫いた。


 チャオの超巨大ハンマーは、座り込んだ侍女の頭上でわずかに軌道を変え、横に転がっていた小卓の残骸ごと石床へ激突した。屋敷全体が持ち上がったような轟音が響き、床石が蜘蛛の巣状に裂ける。飛び散った石片が侍女の頬を掠めたが、巨大な槌頭は顔のすぐ横にめり込み、辛うじて命だけは残した。


 侍女は何が起きたのか理解できず、額を床につけたまま震えていた。残る二匹も悲鳴を飲み込み、側廊の入口へ視線だけを向ける。


 そこに、鮮烈な赤を基調とした戦闘用レオタードをまとった女が立っていた。衣装はチャオの青い戦闘服と同系統で、機動性を優先して布地はかなり少ない。腰骨の高い位置まで大胆に切り上げられ、背面の生地も尻に深く食い込むほど細く切り込まれている。露出の多い装いではあるが、これは彼女が実戦で着用する正規の戦闘服だった。立ち姿には乱れ一つなく、鮮烈な赤がかえって冷静さと威圧感を際立たせている。


 腰から伸びるのは、オセロットの毛並みを思わせる斑紋の三本の尻尾。右手には閉じた鉄扇があり、扇面の縁には風の魔力がまだ細く渦巻いている。たった今、そのひと振りで槌頭の側面を正確に打ち、チャオの怪力そのものとは競わず、力の向かう先だけを半歩ずらしたのだ。


 女は少し前まで別室で、屋敷の物資と侍女の配置記録を確認していた。最初の轟音では席を立たず、二度目で侍女を様子見に向かわせ、三度目には鉄扇を手にした。青ざめた侍女から「居間付きが何匹も返事をしない」と聞き、四度目の衝撃が響いてから走ったのは最後の十歩だけだった。


「そこまでよ、チャオ」


 声は大きくない。それでも、槌頭が床へめり込んだ轟音の余韻を、きれいに断ち切った。


 チャオがゆっくり振り返る。


「……コロ姉」


 そこで初めて、三本尻尾の女――オセロット族の長女コロは鉄扇を開いた。


 コロは返事をせず、居間を見渡す。壁の血痕、茶に濡れた絨毯、折れた小卓、潰れた彫刻机、割れた茶器。動かない侍女が四匹。そして、生き残った三匹。


 その三匹はいずれも、まともに立っていられる状態ではなかった。脚は震え、呼吸は浅く、恐怖に耐えきれず失禁した跡が制服の裾と足元に残っている。誰もそれを隠そうとはしなかった。勝手に姿勢を変えれば、それだけでチャオを怒らせるかもしれないからだ。


 チャオも気づいた。


「……お前ら」


 三匹の猫耳が一斉に伏せる。


「漏らしてんじゃねえぞ」


「も、申し訳ございませんにゃ……!」

「申し訳ございませんにゃ……!」

「お許しくださいにゃ……!」


 謝罪が重なった瞬間、チャオの顔が引きつった。


「きったねえんだよ! 三匹まとめて消えろ!」


 床へめり込んでいた槌頭が跳ね上がる。五匹がかりでようやく運べる重量が、チャオの片腕だけで横薙ぎに加速した。生き残った三匹は逃げることもできず、互いにぶつかりながら身を縮める。


 鉄扇が鋭く開いた。


 二度目の風圧が槌の柄とチャオの手首の間を横から叩き、超巨大ハンマーは三匹の頭上を逸れて側壁の石柱へ激突した。重い音とともに表面が砕け、粉塵が落ちる。


「やめなさい、チャオ」


「何で止めんだよ!」


「これ以上、屋敷の侍女を減らされたら困るからよ」


「こいつら今、漏らしやがったんだぞ!」


「見れば分かります」


「だったら――」


「恐怖で身体の制御を失った侍女を三匹殺して、その代わりを三匹申請する。新しく来た者が、この部屋と死体を見て同じことになったら、また殺すの?」


 チャオが口を閉じた。


 コロは三匹へ鉄扇の先を向ける。


「あなたたちは側廊へ。走らなくていい。転んで怪我をしたら、治療と後始末まで増えるでしょう」


「は、はいにゃ……!」


 三匹は動こうとしたが、先ほど槌頭の下にいた一匹は腰が抜けたままだった。残る二匹も支えに入ろうとして、チャオの前を許可なく横切ってよいのか迷い、一歩目で固まる。


「両脇を支えて。私が許可します」


「承知いたしましたにゃ!」


 二匹が仲間を抱え、三匹で側廊へ下がる。足元を気にする余裕もない。それを見たチャオの眉が再び動いたが、コロが鉄扇を閉じる音が先に響いた。


「今は私を見なさい」


「……チッ」


 同じ三本尻尾である以上、五本の尾を持つ将軍を前にした時のような絶対服従ではない。それでもチャオは姉を殴らなかった。力比べなら負ける気はなくても、現存する三人だけのオセロット族を事実上取りまとめてきた長女が、ただの説教のために鉄扇を抜かないことは知っていた。


 コロは床の損傷を一瞥し、倒れた侍女たちを扇骨で順に示した。


「死亡四匹。生存三匹。給仕卓一つ、予備の小卓一つ、彫刻机一つ、飾り棚一基。壁面二か所、床石は複数交換。絨毯は廃棄ね」


「だから何だよ」


「地上任務で兵を減らしたばかりなのに、今度はオセロット族の屋敷の侍女まで減らしている。あなたは今日、何を増やしたの?」


「知るか」


「欠員と修理費と、家令の仕事よ」


 コロの声には皮肉らしい抑揚すらなかった。


「侍女は補充できます。でも、訓練所で選抜された者を三匹、四匹と入れ替えるたび、再配置、制服、寝台、引き継ぎ、警備区画の再登録が必要になる。あなたが癇癪を起こすたびに、申請書だけが立派に育つわ」


 側廊の奥で、誰かが息を呑んだ。


 チャオがそちらを睨もうとするより先に、コロの鉄扇がぱちんと閉じる。


「よそを見ないで」


「……うるせえな」


「それで。何があったの?」


 チャオはすぐには答えなかった。


 怒りに任せて平民を殺すことはできても、今日、上級指揮区画で受けた命令を好き勝手な言葉に変えることはできない。三本の尻尾が落ち着かなく揺れた末、ようやく口を開く。


「……ティーダ将軍閣下から、独断で地上へ出ることを当面禁じられた」


 さっきまでの怒鳴り声とは違い、将軍の名を口にした瞬間だけ声が低くなった。


「それと、今後部隊を動かす時は、任務に必要のない平民兵の損耗を抑えろと仰せだった」


「そう」


「ご命令は理解してる。逆らう気もねえ」


「なら、それ以上は言わないことね」


 チャオが眉を寄せる。


「悪口なんか言ってねえだろ」


「言っていなくても、聞いた者が勝手に意味を足すことはあるわ」


 コロの目が細くなった。


 ティーダ将軍は王国への忠義に厚く、戦場では冷静な判断力と高い戦闘能力を示し、軍内だけでなく大貴族からの信頼も厚い。しかも一本尻尾の平民に対して例外的な慈悲を見せるため、キャレットたちからも慕われている。


 そんな人物への不満を匂わせた、と誰かに受け取られるだけでも危険だった。


「私たちは、もう三人しかいないのよ」


 コロは静かに言った。


 オセロットを思わせる特徴を持つ獣人、オセロット族。三本の斑紋ある尾を持つその種族は、今やコロ、チャオ、そして末妹のピョンを残すだけだった。


「もし将軍閣下への不敬だと告発され、最悪の処分になれば、私たち三人を処断するだけでオセロット族は終わる。不敬罪を軽く考える余裕なんて、今の私たちにはないわ」


「……分かってる」


 今度の返事には、先ほどまでの反抗的な響きがなかった。


「だったら、将軍閣下のご命令そのものに腹を立てたような言い方もしないこと。あなたが何に苛立っているかは、私だけ分かればいい」


 チャオはハンマーの柄を強く握った。


「オレが弱いって言われたわけじゃねえ」


「もちろん」


「地上の尾無しより、オレの方が強い」


「それも疑っていないわ」


「だったら……」


 続きが出ない。将軍が間違っている、とは言えない。自分なら勝てるから命令を無視してよい、とも言えない。


 コロはそこで初めて、少しだけ声を柔らげた。


「あなたが強いかどうかと、命じられた条件どおりに結果を出せるかは別の話よ」


「どう違うんだよ」


「兵を率いるなら、任務に必要な結果を持ち帰る。生かして帰せる兵は帰す。独断で出るなと命じられたなら出ない。強いからといって、自分の都合で任務の条件まで変えていいわけではないわ」


 チャオの目が細くなる。


「じゃあ、オレは任務で潰す必要がある奴だけ潰せってことか」


「そう。必要のないものまで壊すな、と言っているのよ」


 チャオは黙った。


 ティーダ将軍から受けた言葉を侮辱することはできない。だが納得しきれてもいない。その中間で燻っていた苛立ちを、コロは慈悲ではなく、任務条件と結果の話へ置き換えていた。


「壊すだけなら、力のある者ならできます」


 鉄扇の先が、石柱へ食い込んだ巨大槌を示す。


「壊す場所を選べるから、戦力として使えるの」


 チャオの腕から、ほんの少し力が抜けた。


「……じゃあ、どうしろってんだよ」


「まず、そのハンマーを下ろしなさい。今度は何も壊さずに」


 舌打ちしながらも、チャオは槌頭を持ち上げ、無傷の床を探して柄を横に寝かせた。金属が石へ触れる直前だけ速度を落としたので、今度は床が割れない。


「次に、生きている侍女を殺さない」


「漏らした奴らまでかよ」


「床の汚れは掃除をすれば済むでしょう。侍女を三匹殺せば、補充申請が三枚増える」


「そこ基準かよ」


「あなたに通じる基準を選んでいるの」


 チャオは言い返しかけたが、結局何も言わなかった。


 コロは側廊へ声を掛ける。


「三匹とも、まず侍女区画で身体を洗って制服を替えなさい。その状態で屋敷中を歩けば、清掃箇所まで増えます」


「か、かしこまりましたにゃ……!」


「着替えたら二匹は戻って片づけを。歩けない一匹は医療担当へ。家令には居間付き四匹の欠員と、今夜の配置変更を伝えて」


「承知いたしましたにゃ!」


 返事だけは訓練どおりに揃った。チャオはまた眉を動かしたが、今度はハンマーへ手を伸ばさない。


 コロは懐から記録板を取り出し、損傷した資産を確認していく。壁面補修、床石、絨毯、給仕卓、飾り棚。数字が並ぶにつれ、鉄扇でチャオを止めた時より表情が険しくなった。


「何だよ」


「修理費を見ているの」


「直せばいいだろ」


「ええ。直せるものならね」


 最後に彫刻机の記録を開いたところで、コロの指が止まった。


「チャオ」


「何だよ」


「あの机、私たちの曽祖母がモンスター討伐を成功させた時、その功績への褒美として贈られたものよ」


「だから?」


「あれはオセロット族の武勲を示す品よ。修復できる職人を呼ぶだけでも、金貨二千枚ほどは見ておく必要があるでしょうね。でも問題は金額じゃない。壊れたから同じ値段の机を買って置けば済む、というものではないわ」


 四匹の死体を見ても変わらなかったチャオの顔が、初めて引きつった。


「……は?」


「床と壁と絨毯まで合わせれば、今回の修復費は少なく見積もって金貨三千枚。侍女の補充費用は別よ」


「待て。あの机、そんな大事なもんだったのかよ」


「あなたが壊す前に、『一族の武勲品につき殴打禁止』と札でも下げておくべきだったわね」


 やがて、着替えを終えた三匹とは別の侍女たちが、動かない四匹を運び出し始めた。


 チャオは死体には目を向けず、半分に割れた彫刻机だけを凝視する。


「……直せねえのか、それ」


「修復できる職人を探させます。金貨の問題ではないわ。あれは曽祖母が残した、オセロット族の武勲の証なの」


 コロが鉄扇を閉じる。


「侍女の欠員なら訓練所から補充できる。でも、オセロット族の誇りまで補充はできないのよ。次からは、壊す前に何を壊そうとしているのか見なさい」


 チャオは何も答えなかった。


 ただ、三本の尻尾だけが、今日初めて力なく垂れた。

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『心技戦隊ドライブレンジャー』を読んでいただきありがとうございます。 レッド、ブラック、ピンクをはじめ、登場キャラクターのイラスト、設定画、キービジュアルなどをpixivで公開しています。 小説だけでは分かりにくいキャラクターの外見や装備、フェリディアの世界観もビジュアルで楽しめます。 リンクはココをクリック→pixiv:4代目ている 今後も物語の進行に合わせてイラストを追加していく予定です。
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