表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/23

第19話 裏ルール

 店の中から、ピュモッカの花束を持ったティアが現れる。

 ティアの姿を見るや否や、金髪の青年はミーナに案内されたベンチから立ち上がった。

 どこか緊張した面持ちをしている青年へ、ティアはピュモッカの花束を見せた。


「お待たせいたしました! こちらが、できあがった花束になります!」

「……ああ、最高の仕上がりだ。どうもありがとう」

「いえいえ、とんでもございません! お気持ち、伝わるといいですね!」


 ティアは笑顔で告げながら、青年へとピュモッカの花束を手渡す。

 お支払いは店内でお願いしますと伝えようとしたところで、青年はティアへと花束を差し出した。


(え……? ……もしかして、どこかまずいところがあったかな!?)


 あたふたし始めるティアを真っ直ぐに見据えて、青年は告げる。


「――この花束を、貰ってはくれないか」

「……ふぇ!?」

「以前、肩を怪我して……そうしたら妹が、この花屋で買ったという花束を贈ってくれた」


(……もしかして、アリシアさんのお兄さん……!?)


 確かに青年とアリシアの髪の色は、どちらも眩しい金色だった。

 点と点が線で結ばれたような心地になるティアへ、青年は話し続ける。


「その花束が、余りにも美しく……花束を作ってくれた亜麻色の髪を持つ店員の方に、感謝の花束を贈ろうと思いここを訪れた」

「……なるほど、つまりこれは感謝の花束――」

「だが、気が変わってしまった。貴女の花への深い愛情、熱意、優しさ……側で見ていたら、感謝とは違う感情を抱いた。……俺は貴女に、恋をしたのだと思う」

「……え、えええ、ええっ!?」


 青年の衝撃的な発言に、ティアは目を剥く。


「自己紹介が遅れたな。俺はロイ。メーシュエスト伯爵家の長男であり、王国直属騎士団に所属している。……よければ貴女の名前を、聞かせてくれないか」

「え、えっと……私は、ティア=ルビュロサムといいまして……」

「ティアというのか。貴女にぴったりの可憐で麗しい名前だ」

「そ、そうですかね……?」


 顔を真っ赤にして視線を逸らすティアを、青年――ロイはずいと覗き込む。


「ティア。今、お付き合いしている方はいるのか」

「え、ええっと……人間に限れば、特にいないですけれど……」

「そうか、ならよかった。ティア、ぜひ俺と結婚を前提とした――」



 ――ティアの身体が、後ろへと抱き寄せられる。



 ティアが驚いて振り向くと、そこには笑顔のルラが立っていた。笑ってはいるけれど、青い瞳は確かな冷たさを孕みながら、ロイを見据えている。

 ルラはティアを抱き寄せたまま、口を開いた。


「――俺の店で、俺の大事な女の子を口説くのはやめてくれる?」


 ルラの言葉に、ロイはぴくりと眉根を寄せた。


「……貴方は、ティアの何なんだ?」

「俺? んー、まあ、保護者みたいな感じかな?」

「保護者か。…………。……お義父さん、娘さんを俺にください」

「いやティアちゃんの父親じゃねえから、俺!」

「保護者と言ったではないか」

「血の繋がりがなくても保護者にはなれるんだけど?」


 明らかに剣呑な様子のルラとロイに、ティアはどうすればと思って、またしてもあたふたし始める。

 そんな三人へ、笑顔のミーナが近付いてきた。


「……すみません、お支払いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「……ああ、そうだったな」


 ミーナの持っている羊皮紙に記されているぴったりの金額を、ロイは支払う。

 ミーナは「ありがとうございます」と柔らかく笑ってから、ティアへと喋りかけた。


「ティアちゃん、そろそろ休憩の時間よね?」

「え?」

「開店準備から働き詰めでしょう? そろそろ休まないと倒れちゃうわ」


 ミーナの言葉に、ロイは寂しそうに「そうか……」と頷いた。


「……そうしたら、ティア。せめて今日は、花束だけでも受け取ってくれ」

「……は、はい! いただきます! どうもありがとうございます」

「また、仕事の暇を見つけて訪れる。――そのときに、また正式に伝えさせてくれ」

「は、はい……!」


 ロイは薄く微笑んで、ミスリ=ルリスミから去っていく。

 彼の背中が見えなくなった辺りで、ルラとミーナが同時に口を開いた。


「「あいつ、出禁だな」」

「で、出禁なんですかー!?」


 目を剥くティアに、ルラは笑う。


「いい、ティアちゃん? 俺たちは店の人で、あいつは客。あいつに限らず、店の人と客の恋愛をミスリ=ルリスミでは全く推奨していないね」

「そんな『裏ルール』が……!?」


 驚愕するティアに、ミーナも微笑んだ。


「逆に、店の人同士の恋愛はしっかり推奨していく――それが、ミスリ=ルリスミよ」

「そうだったんですかー!? そ、それって人間関係がややこしくなりませんか!?」

「ふふ、大丈夫よ」


 くすくすと笑うミーナに、ティアは(もしかしたらここは、やばい花屋だったんでしょうか……)と遠い目をする。


「ところでその花束、どうしよっか?」

「そうね……わたしが貰っておこうかしら」

「何故ミーナさんが!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ