第18話 ピュモッカの花束
翌日。ミスリ=ルリスミのエプロンを纏ったティアは、ミーナの隣で店頭に立っていた。
振り向いて店内の壁かけ時計を確認すると、そろそろ開店時間の午前九時になりそうだった。
そわそわした様子のティアに、ミーナがくすりと笑う。
「今日も素敵なお客さんに巡り会えるといいわね、ティアちゃん」
「はい! 本日も素晴らしい接客ができるように頑張りたいと思います!」
「ふふ、その意気だわ」
ティアはふと、眩しい金色の髪の青年がこちらを見ているのに気が付いた。ティアと青年の視線が重なり合う。
(お客さんかな……?)
青年が近付いてきて、ティアは(やっぱりお客さんだ)と確信する。以前ミーナから習った「挨拶は心地よさを作る鍵」という言葉を思い出しながら、青年へと笑いかけた。
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ」
ティアの挨拶の少しあとで、ミーナの挨拶が優しく響く。
青年は足を止めると、ティアへ話しかけた。
「その……貴女に、花束を作っていただきたいのだが」
(私に……?)
ミーナではなく自分にお願いされた理由を考えて、「ミーナは高身長で美しいお姉さんなので、低身長でぽわぽわした雰囲気の自分の方が話しかけやすかった」という結論に至る。
「承知いたしました! どのような花束にいたしましょうか」
「……おすすめの花とか、あるのか?」
青年は戸惑ったように、店頭の花々へと視線を彷徨わせている。
(もしかしたら、花屋に初めて訪れてくださったのかな……?)
(何にせよ、何かの切っかけで花に興味を持ってもらえたというのが嬉しすぎます!)
ティアはきらきらとした笑顔を浮かべて、桜色の唇を開く。
「そうしたら、幾つかお花をご紹介させていただきますね! まずは、こちらのミスリの花。『太陽の花』という別名があり、このお店の名前にも使われているんです! 花言葉は『太陽を想わせる笑顔』。笑顔でいてほしい、そんな大切な相手に贈るのにぴったりの花ですね」
優しい微笑を湛えながら、ティアはすらすらと説明する。そんな彼女に、青年は空色の目を淡く見開いて、それから「……なるほど」と頷いた。
「続いて、こちらのカレンツェーラの花! 大きな花弁と小さな花弁を同時に咲かせるこの花は、どこか寄り添う親子を想わせることから、『家族の絆はいつまでも続く』という花言葉を持つんです。きっとご家族に贈れば、とっても喜んでもらえるんじゃないかなって思います」
ティアは前世の家族を思い出しながら、どこか儚げな微笑みを浮かべて語る。
青年はまた空色の目を微かに見張って、そして「……そうなんだな」と相槌を打った。
「最後に、こちらのピュモッカの花。桃色のハートの形をした可愛らしい花弁を付けるんです。花言葉は『あなたのことを好ましく思っています』。なので、好きな人に告白するのにぴったりの花と言われているんです。……えへへ、説明していると少し照れてしまいますね」
顔をほんのりと赤くしながら、恥ずかしそうな微笑と共にティアは話し終える。
青年は暫し無言だった。澄んだ空のような瞳で、ティアとピュモッカの花を交互に映す。
それから、少し掠れた声でティアへと尋ねる。
「……花束とは、一種類の花でも大丈夫なのだろうか」
「はい、勿論大丈夫ですよ! とても素敵だと思います」
「そうか。……なら、こちらのピュモッカの花をふんだんに使った花束を作っていただきたい」
青年の言葉に、ティアは少し驚いた。
(すごい……クールな方に見えて、アプローチの方法はすごく情熱的なんだ……!)
(この方の恋が実るように、頑張って花束を作らなきゃ!)
決意に満ちた眼差しで、ティアは力強く頷いた。
「承知いたしました! リクエスト、ありがとうございます!」




