第15話 ルラの誘い
温かいふわふわのパンを咀嚼して、ほんのりとした砂糖の甘さに浸ってから、ごくんと飲み込む。
ティアは向かい側の椅子に座って書物を読んでいるルラへ、笑顔で話しかけた。
「ルラさん……! このパン、すっっっごく美味しいです!」
「ほんと? それはよかった。焼いた甲斐があったよ」
ルラは書物から顔を上げて、嬉しそうに笑う。組んだ脚の太ももの上で開かれた分厚い書物が、ティアの目に留まった。
(確か、一昨日も読んでいたような……何の本なんだろう?)
聞いた方が早そうだったので、ティアはルラへと尋ねてみることにした。
「……そういえばルラさん、何を読んでいるんですか?」
「ああ、これ? 何だと思う?」
「……花の図鑑、ですかね?」
「残念、不正解。花の本も時々読むけどね……これは魔法に関する本だよ」
「魔導書、ですか」
「そうそう。俺、こう見えて勉強熱心なんだよね」
「…………! つまり、『ギャップ萌え』ということですね!?」
「え? もえ……って何?」
きょとんとした顔をするルラに、ティアは(しまった)と思う。前世の日本で使っていた言葉をこっちの世界の言語に当て嵌めて使うと、時折こうして伝わらないことがある。気を付けなければ、と反省した。転生者であることを隠しているわけではないけれど、混乱させてしまうだろうから進んで話すつもりはないし、だとしたら余計な違和感を相手に抱かせない方がいいだろう。
「えーと……方言、みたいなものです! 方言!」
「ティアちゃんって方言令嬢だったんだ」
「そうです! ちなみに意味は、うーんと……『心に刺さる』的な感じです! なので『ギャップ萌え』とは、『ギャップが心に刺さる』みたいな意味だと思っていただけると!」
「……俺が真面目だと、ティアちゃんに刺さるってこと?」
「うーん、まあ、そうなるんですかね……?」
「そ。……なら、もっと真面目になろうかな」
ルラはどこか呟くように言う。
(私に刺さりたい……?)
その理由をティアはもそもそパンを咀嚼しながら考えて、導き出した答えを笑顔で口にした。
「――つまりルラさんは、私に刺さるかどうかで女心を勉強して、花屋の仕事に活かしていきたいってことですね!?」
「ん、どうしてそうなったの?」
「だって昨日、ユランカディアで仰っていたじゃないですか! 女心を知りたいとか何とか!」
にこにこしながら言うティアに、ルラははあーと大きな溜め息をつく。
「むむっ、どうして溜め息つくんですか!」
「いや……鈍感なのにどうして記憶力はいいのかなって思って」
「け、喧嘩を売られていますか、私!?」
ぷくーと頬を膨らませたティアへ、ルラは「売ってない、売ってない」と否定する。
「ただ……もうちょっと、ちゃんとアプローチしてかないと、だめかなとは感じた」
「アプローチ……?」
ルラの言葉の意味がよくわからず、ティアは首を傾げる。
「まあだから、つまりさ、俺と……デデデ……」
「デデデ……?」
「デー……」
「デー……?」
「……デーンジャラスなお出かけでも、しない?」
「ルラさんと危険なお出かけを!?」
目を丸くするティアに、ルラはテーブルに頭だけ突っ伏しながら「うー、むず……」と小声で呟いた。
「危険なお出かけってことは、つまり……『凶暴な魔物の尻尾の上で反復横跳びをする』とか、そういうお出かけプランですか!?」
「いや危険すぎるでしょ」
ルラは顔を上げておかしそうに笑う。それから、覚悟を決めたように真っ直ぐにティアを見つめた。
「……ほんとは、デーンジャラスなお出かけでは、なく」
「違うんですね!?」
「うん。――俺とデートしてよ、ティアちゃん」
ルラの提案に、ティアはぱちぱちと瞬きを繰り返して。
それから、にこやかに笑う。
「勿論いいですよ! ルラさんは私とのデートで女心を勉強して、花屋の仕事に活かしていきたいんですよね?」
「……はあ。ほんと、鈍感子犬令嬢」
「むむっ、何故変なあだ名をつけるんですか!」




