第13話 恋人にしたいタイプ
やがて、三人分の料理が運ばれてくる。
テーブルの上に置かれた〈菫色の牛〉のステーキを目にして、ティアは表情を煌めかせた。
(すっごく美味しそう……! 香りもとってもよくて……!)
そんなティアを青色の瞳に映しながら、ルラが微笑う。
「それじゃ、食べよっか?」
「はい! いただきます!」
一枚肉にそのまま齧り付きたい気持ちを抑えながら、ティアはルビュロサム子爵家にいた頃に学んだテーブルマナーを思い出しつつ、丁寧にナイフとフォークでステーキを切っていく。
それから一口サイズのお肉をぱくっと頬張って、余りの美味しさに目を丸くした。
ごくんと飲み込んでから、感動をルラとミーナへ伝える。
「やばいです……! ミーナさんが仰っていた通り、ほっぺたが落ちちゃいそうな美味しさです!」
「そうよね!? わかってもらえて嬉しいわ」
「俺も、二人が嬉しそうで何より」
ティアはこくこくと頷いてから、再びステーキに舌鼓を打ち始める。
「うう、どんどん食べていたらすぐになくなっちゃいそうです……」
「ふふ、わかるわ、その気持ち。そうしたら、のんびり雑談でもしながら食べるのはどう?」
「それ、いいですね!」
「そうでしょう? そうしたらお題は――折角だし、『恋バナ』にしましょうか?」
「こ、恋バナ……!?」
『好きな花ランキング』とか『花との思い出を語ろう』といった話題が来ると思っていたティアは、提示された斜め上の話題に目を見開いた。
「……どうして、急に」
若干動揺した様子のルラの言葉に、ミーナは柔らかく微笑む。
「ルラは気にならないの? わたしとティアちゃんが、どんな人を恋人にしたいと思うか」
「…………! ……あー、まあ確かにね? 女心を知れば、花屋の仕事にも活かせるかもだもんね?」
「そうよ。好きな人に花束を贈りたいなんてリクエスト、ありがちでしょう? なので、ルラはわたしとティアちゃんから、しっかり学ぶべきだわ」
「うんうん、その通りだね! 流石ミーナ!」
何故か握手を始めたルラとミーナを見つめながら、ティアはもぐもぐとステーキを食べ進める。
「それじゃ、まずはティアちゃんね。わたし、ティアちゃんが恋人にしたいタイプ、とっても気になるわ」
「もぐもぐ、ごくん……えっとですね、恋人にしたいタイプは――」
「「……ごくり」」
「――悩ましいですが、やっぱりスティムリアの花ですかね!」
「「……ん!?」」
「子爵領で育てていた思い出の花なんです。黄金に煌めく花々が開花すると、まるで花壇が星空みたいになるんですよ!」
にこにこしながら花への愛を語るティアに、ルラとミーナは顔を見合わせて、代表するようにミーナが質問を投げかけた。
「えっと……つまりティアちゃんは、『スティムリアの花のような人』――星のように綺麗な心を持った人が、タイプってことかしら?」
「ああいや、違くて……私、今は恋愛より花が大事なので! だから、花が恋人? みたいな感じかなと思いまして!」
ティアの言葉に、ルラとミーナは再び顔を見合わせる。
ミーナは明らかに悲しそうな目をしているルラの銀色の髪へ、手を伸ばした。
「よしよし……」
「いや撫でないでくれる!? 俺もう十九歳だからさ!」
「わたしにとって弟みたいな存在だということは変わらないわ。よしよし……」
「流石に拒否!」
ルラは頭を横に動かしてミーナの手から逃れる。
その様子を見ていたティアが、笑顔で口を開いた。
「頭を撫でられるルラさん、子猫みたいですね!」
「……ふうん、ティアちゃん、俺のこと煽ってる?」
「煽っています! いつも子犬って言われるので意趣返しというわけです! お花屋さんに採用された今、お花屋さん不採用スペースに連れて行かれる危険性もなくなりましたし!」
「……確かにお花屋さん不採用スペースは消失した。でもねティアちゃん、他にもお花屋さん解雇スペースっていうのがあって……」
「ま、まじですか!? ひゃあああああ!」
頭を抱えたティアに、ルラはふふっと笑う。
「冗談だよ、冗談」
「本当ですか!? ほっ」
「一割冗談」
「九割本気じゃないですか!」
愕然とするティアに、ルラはまたふふっと笑う。
「……あ、そういえば、ルラさんとミーナさんが恋人にしたいタイプはどんな方なんですか?」
元の話題を思い出して、ティアは二人へとそう問いかける。
「わたしのタイプ? ダンディなおじさまよ」
「まさかの答えが返ってきちゃいました……」
「歳は最低でも十五歳離れててほしいわね。つまり三十五歳以上?」
「三十五歳以上ですか……」
知らない世界を覗いた心地になって、ティアは少しどきどきしながら頷いた。
それから、ルラへと笑いかける。
「ルラさんはどうなんですか?」
「……俺?」
「はい! 気になります!」
ティアの真っ直ぐな視線から目を逸らして、ルラはグラスに入っている冷水に口を付ける。
それから、少し小さな声で告げた。
「…………微笑みが、綺麗な人」




