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第11話 初恋の輪郭

「できた……!」


 達成感を覚えながら、ティアはできあがった花束を見つめた。

 使ったのは三種類の花。燃ゆる炎のように美しい赤さのルルヴィーナの花、快活という言葉が相応しい橙色のクミュランスの花、夜空で一際目立つ星のような黄色のマネニネの花――寒色ではなく暖色の花々を使うことで、見ているだけで元気が貰えるような花束に仕上がった。


 そして、こだわったのは色だけではない。

 それぞれの花が持つ意味――花言葉までを考えて、ティアは花束を紡いだ。


「お、いい感じじゃん」


 いつの間にか後ろに立っていたルラが、ティアの作った花束を見てそんな感想を口にする。


「ほ、本当にそう思いますか……!?」

「うん、めっちゃ思う。スパイラル、うまくいった?」

「はい、ルラさんがさっき実演してくださったので以前やったときよりもうまくいきました!」


 スパイラルとは花束を綺麗に作るのに役立つ、花の茎を螺旋状に束ねていく手法だ。慣れていないと螺旋状に配置するのが難しく、会得するには相応の努力が必要である。

 ルラは柔らかく笑う。


「俺がやったのを一回見ただけでうまくできるなら、それはティアちゃんが元からうまかったんだよ」

「えへへ、褒めてくださっているんですか? ありがとうございます! そうしたらアリシアさんに花束、渡してきます!」

「うん、いってらっしゃい」


 ひらひらと手を振るルラに見送られながら、花束を丁寧に持って颯爽と店の外へ飛び出した。アリシアはベンチに腰掛けながら、ミーナと何やら会話に興じているようだった。


「お待たせいたしました、アリシアさん!」


 声をかけると、アリシアはティアの方を向いてくれる。そして、ティアが持っている鮮やかな花束を見ると、嬉しそうに口角を上げた。


「すごいですわ……! イメージぴったりですの!」

「本当ですか? よかったです!」

「見ているだけで笑顔が貰えるような色合いですわ。ありがとうございますわ! わたくしの気持ちを汲んで、色彩で花々を選んでくださったの?」


 アリシアの質問に、ティアは笑顔で答える。


「勿論、色彩もそうですが……花言葉も重視してみたんです!」

「花言葉、ですの?」

「はい! 赤色のルルヴィーナの花の花言葉は、『温かな命の煌めき』。橙色のクミュランスの花の花言葉は、『あなたの健康を心から祈ります』。黄色のマネニネの花の花言葉は、『傷から守られる』。どれもアリシアさんのお兄様に対する〝 ずっと元気でいてほしい〟という思いに、ぴったり合うんじゃないかなと感じたんです!」


 笑顔ですらすらと説明するティアに、アリシアは深いグリーンの目を見張る。


「すごすぎますわ……確か花言葉って、同じ花でも違う色であれば変わってきますわよね!? 全部記憶してらっしゃいますの!?」

「はい! 私、花が大好きなので……この世界の花々には、この世界ならではの固有性や美しさがあって。なので、一つも知識から取り零したくないんです」


 そう告げるティアは、余りにも優しい微笑を湛えていて。

 アリシアはそんな彼女を見つめてから、ふわりと笑う。


「……本当に、花がお好きなのですわね」

「勿論です!」

「とっても素敵ですわ。またわたくしが花束を買うことがあったら、次も作ってくれますこと?」


 アリシアの言葉に、ティアは目を見開いて。

 それから、満面の笑顔で答えた。


「――ぜひとも、喜んで!」




 アリシアの背中が見えなくなるまで、ティアは彼女を見守っていた。


「すごいじゃない、ティアちゃん。いきなりリピーター獲得ね」


 ミーナにそう声をかけられて、ティアはくるりと振り向きながら照れくさそうに笑う。


「ありがとうございます、ミーナさん……! 優しい方が初めてのお客さんでよかったです!」

「確かにそうね……もしかしたら、今日のティアちゃんは強運かも!」

「やっぱり! どこかのお店でくじ引きをやっていたら、積極的に挑戦すべき日かもしれません!」

「いいわね、それ!」


 店頭で盛り上がるティアとミーナの会話は、店内にいるルラにも聞こえてくる。今でこそ帳簿をつけているルラも、ティアがアリシアに花束を渡すときはこっそり物陰から様子を窺っていた。


 ――そうしていたら、また見惚れてしまった。花への愛を語る、ティアの美しい微笑に。


「……どうしちゃったんだろ、俺」


 ルラは、はあ、と深い溜め息をつく。

 恋などしたことがなかった彼は、生まれて初めて触れる初恋の輪郭に、両手を花の棘に刺されたような心地でいた。

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