第54話:過剰なる忠誠 — 古城と『愉快?』な仲間たち —【後編】
上層階に保管されていたヴェノン自慢の17世紀のアンティーク家具が、ガシャガシャと音を立てて降ってきた。
「……マスター、報告です」
隣を歩くリナが、ホログラムモニターを指先で弾きながら、どこか楽しそうに告げた。
「七極による過剰な破壊活動の影響で、城の構造強度がすでに30%低下。計算上、このままのペースで進むと、最上階に辿り着く頃にはこの城、自重で物理的に崩壊する可能性があります」
「やっぱりぃぃ! ねえ、止めて! 誰かあの人たちを止めて!」
「いやあ師匠、流石は七極ですな!」
ルッツが感銘を受けたように拳を握り、鼻息を荒くしていた。
「師匠への忠誠心が拳に乗り、攻撃に迷いがない。武人として、私も負けてはいられません! よし、私も壁の一枚や二枚……!」
「ルッツまで張り合わないで! みんな、お願いだから普通に歩いて、普通にドアを開けてぇぇ!」
セイマは半泣きになりながら、瓦礫の山と化した廊下を駆け抜けていた。
本来、彼の「先天的賢者」としての能力は、迫りくる危険(因果の糸)を読み取り、それを最小限の動きで回避することにある。
だが、今の状況は異常だった。
(糸が……糸が全部火花を散らしてる……!)
セイマの視界に映る「因果の糸」は、通常なら優雅な軌跡を描くはずのもの。
しかし、七極が「原因(トラップの発動)」が発生する前に「現物(壁や床そのもの)」を物理的に粉砕してしまうため、因果律が処理落ちを起こしていた。
右から来るはずの矢の糸が、壁ごと粉砕されて消える……。
左から来るはずの火炎の糸が、壁ごと粉砕されて消える……。
行き場を失った因果の糸が、セイマの周囲でパチパチとショートし、静電気のように彼の髪を逆立たせていた。
「おお……セイマ様の髪が! なんという神々しさ!」
「全員、セイマ様のために更なる出力を出せ! 城の土台まるごとぶち壊せ!」
「「「オォォォォォォーーー!!」」」
「違う! 逆! 出力下げて! 0にして! みんな、お願いだから一回落ち着いて!!」
セイマの声は、城の崩壊音にかき消されて届かなかった。
一方、古城の最上階。
贅を尽くした執務室。
ドクター・ヴェノンは、並べられたモニターの前に立ち尽くしていた。
仮面の奥の瞳は、激しく見開かれている。
「……何をしているんだ、あいつらは。一体、何が起きている……?」
モニターには、かつて彼が「最強」と誇った七極たちが、狂ったように自らの城を解体していく光景が映し出されていた。
侵入者を迎撃するためのトラップが、発動する前に壁ごと引き抜かれる。
迷路のような回廊が、直線距離で突き進むタイガのハンマーによってただの広場と化す。そして、彼が数十年かけて集めた17世紀の絵画が、ミカのレーザーで無惨にも灰となっていた。
「私のコレクションが……私の城が……。侵入者を防ぐためのシステムを、なぜ奴らが粉砕している……!?」
中央のモニターには、瓦礫の雨の中を、涙を流しながら全力疾走するセイマの姿が映っていた。
「……神月木セイマ。君は……君という男は、これほどまでなのか……」
ヴェノンの声が震えた。
「戦わずして部下を心酔させ、私の野望の象徴であるこの城を、物理的に、かつ概念的に瓦解させる……。直接手を下さず、部下の『忠誠心』という名の狂気を使って、私を精神的に追い詰めるというのか……!」
ヴェノンは、自らの計算を遥かに超えた「聖者の策略(※違います)」に、生まれて初めての恐怖を感じていた。
「君の慈悲は……破壊そのもの。恐ろしい男だ、神月木セイマ……!」
そして一行は、最上階へと続く最後の大扉の前に辿り着いた。
後ろを振り返れば、そこにはもはや「城」と呼べる構造物は残っていない。
辛うじて中心の柱が支えているだけの、巨大な廃材置き場であった。
セナフィアが、一歩前に出る。
「セイマ様、お待たせいたしました。この扉の向こうに、元凶ヴェノンがおります」
そんな彼女の背後では、七極の六人が最終奥義の構えをとっていた。
「この扉は、ヴェノンが特注で作らせた『絶対不可侵のオリハルコン合金』。
だが、俺たちならやれる!」
アリアの鞭からは稲妻がほとばしり、カイトの振動ナイフからは青い波動が、ルイの拳には闘気が宿る。そして、エレナ、タイガ、ミカも同じく必殺を繰り出す前の構えをとっていた。
「聖者様の『対話』を邪魔するものを、消すことが我らの務め!」
「あ、待っ――」
セイマが制止の声を上げようとするも――
「「「最大奥義―― 一極六技ッ!!!」」」
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
――かつてない衝撃波。
オリハルコンの扉は「開く」というプロセスを飛ばして、文字通り霧散した。
扉があった場所には巨大な穴が開き、その向こう側では瓦礫の山に押しつぶされているドクター・ヴェノンの姿が露わになった。
ヴェノンがいた部屋の光景、それはちょっとしたカオスであった。
崩れゆく天井、火花を散らす精密機械、そして瓦礫の下敷きとなっているヴェノン。
そんな中、セイマは砂埃を払いながら、申し訳なさそうにヴェノンに話しかけた。
「……ヴェノンさん、初めまして……。私は、神月木セイマというものです。あの、よかったら今から少しお話させてもらいたいのですが……、よろしいでしょうか? あっ、それと、その前に……。この城のことなんですけど、あと一時間ほどで完全に崩壊するって仲間が言ってました……」
「…………………」
セイマの「平和的な話し合い」への道は、高く積み上がった瓦礫によって塞がれたのであった。
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