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第42話:影の執事の不条理な献身 — 掃除される日常 —【後編】

「……あれ? おかしいな」


公園にたどり着いたセイマが、眉をひそめて立ち止まる。


「コテン、ここ、確か昨日まで大きなひび割れがあったよね? お年寄りがつまずかないかなって心配してたんだけど……。いつの間にか、アスファルトが完璧に修復されてる」


「きゅぅん?」


(……市役所の仕事が早すぎる。日本ってこんなにインフラ整備が神がかってたっけ?)



その背後、十メートル離れた電柱の影。

影そのものと同化したシャドが熱くささやいた。


「……流石はぼっちゃん。単なる補修だけでなく、地下の配管の歪みによる地盤沈下の修正まで、一目で見抜かれるとは」


「(……ん? 今、どこからか低い声が聞こえたような……。ひいっ!? また襲撃!?)」


少しパニック気味のセイマは、コテンを小脇に抱えると全力疾走で家へと帰り始めた。


その速度は、隠れ里での「夜の真剣鬼ごっこ」によって鍛え上げられた、まさに「残像」を置き去りにする異次元の移動――

それを見たシャドは、物陰で熱い涙を流し拳を握りしめた。


「……おお! あえて『怯える凡人』を完璧に演じつつ、その脚力は人の概念を無視している! 鉄真様……ぼっちゃんは、貴方様が到達された『無』の境地を超え、さらにその先へと向かっておられます!」


シャドの脳内では、セイマのパニック走りが「敵の観測を混乱させるための超次元歩法」へと華麗に変換されていた。



「はぁ、はぁ……。怖かった、なんか絶対誰かに見られてた気がする……」


やっとのことで自宅の庭に滑り込んだセイマを、「待ってました」と言わんばかりの咆哮が迎えた。


「師匠! お戻りですか! さあ、本日の特訓を開始しましょう! 私を、全力で叩き伏せてください!」


上半身裸のルッツが、庭のど真ん中で木刀を構えている。

セイマは情けなく肩を落とした。


「ルッツ……もう勘弁してよ。散歩だけで疲れちゃったんだ……」


ルッツが「甘えは禁物です!」と一歩踏み出そうとした――その瞬間。

ルッツの喉元に、どこからともなく現れた「割り箸」が、まるで名刀の切っ先のような鋭さで突きつけられた。


「……止まれ、野蛮な軍人の小僧。ぼっちゃんに、その薄汚い汗と殺気を散らすな」


「なっ……!?」


ルッツの歴戦の勘が、最大級のアラートを鳴らす。

目の前には、銀のトレイを片手に持ち、もう片方の手で「割り箸」を構えた執事姿の男が立っていた。


「いつの間に……! 貴様、何者だ! 師匠に仇なす刺客か!」


シャドが冷徹な眼差しでルッツを射抜く。


「私は神月木家の執事……いや、影の掃除人だ。小僧、ぼっちゃんに指南を乞いたいのであれば、まずは私の掃除(攻撃)をすべて避けてみろ。塵を払うついでに、貴様の存在も歴史から抹消してやろう」


「面白い! 師匠の執事を名乗るなら、その実力、試させてもらう!」


ルッツが木刀を振り上げ、シャドがポケットから取り出した「テーブルナイフ」を構えた。


「やめてぇぇぇ!!」


セイマが庭の真ん中で絶叫した。


「ルッツ、母さんの大事な植木が折れちゃうから、庭で戦うのは禁止!!」


セイマの悲鳴(命令)に、シャドは瞬時にナイフを収め、直立不動で深く一礼する。


「……失礼いたしました。ぼっちゃんが『植木のために、もっと静かに消せ』と仰せならば、承知いたしました。次からは、音も振動も、そして分子さえも残さず、この小僧を『無』へと還しましょう」


「違います! 戦わないでくださいって言っているんです! 仲良くしてください! あと、そもそもあなたは誰なんですか? 父さんの知り合いの方ですか?」


「……。鉄真様の影として、今日からはぼっちゃんの影として……。それでは、お茶をお淹れいたしましょう。最高級のダージリンを最も香りが引き立つ温度で抽出してございます」


「(……ダメだ、話が通じない人がまた増えた……)」


挿絵(By みてみん)



その夜。


セイマが自室で、「ふぅ、今日もなんとか終わった。シャドさんは変わった人けど、お茶は美味しかったしなぁ……」と、コテンにブラッシングをしている裏で――


世界の裏社会では、激震が走っていた。


「……聞いたか? 先日、神月木セイマを狙った武装組織『ブラック・タンク』が、一晩で本部ごと消滅したらしい」


「死体一つ残っていない。ただ、本部のあったビルが異常に綺麗に清掃され、全ての機密書類がシュレッダーにかけられた後、リサイクルに出されていたそうだ……」


闇の情報屋たちは、震える声で情報を交換する。


「間違いねえ。奴の背後には、あの伝説のスパイ組織『サイレント・ベル』をも凌駕する、正体不明の掃除人集団がついている……。神月木セイマ……奴はただの学生じゃねえ。この世界を『制圧』しようとしているのか……!」



一方、神月木家の茂みの中。


シャドは暗視ゴーグル越しに、部屋で呑気にプリンを食べているセイマを見守っていた。


「ぼっちゃん……。世界を平らげるその日まで、このシャド、影となって貴方様の道を掃き清めましょう」


セイマの「平穏な日常」は、影の執事の過剰すぎる献身によって、「不条理な聖域」へと変貌していくのであった。

お読みいただき、ありがとうございます!


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