無縁ピラミッド 最終話
真司の指が、ゆっくりと向けられる。
全員が息を止めた。
「……お前だ」
その指は――圭太を指していた。
「は?」
圭太の顔が引きつる。
「ふざけんなよ……なんで俺なんだよ」
真司は一歩も引かない。
「お前が運転してた」
「だから何だよ!」
「轢いたのは、お前だろ」
その言葉で、空気が凍りつく。
「……違う」
圭太が首を振る。
「俺じゃない……あれは……事故で……」
「でも、お前がハンドル握ってた」
冷たい声だった。
「責任はある」
「そんなの……」
圭太の目が揺れる。
「そんなの、ここで関係あるかよ……!」
「あるだろ」
真司は即答した。
「ここは“余ったやつ”が入る場所なんだろ?」
ちらりと、“余り”を見る。
そいつは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、一番“外れるべきやつ”を入れるのが筋だ」
「ふざけんな!!」
圭太が叫ぶ。
「なんで俺だけが……! 俺だって死にたくねえよ」
真司の声は、低く、重かった。
「でもな」
一歩、近づく。
「お前はもう、一回“外してる”」
圭太の顔が、凍りつく。
「見なかったことにしただろ」
「……っ」
「一人、消した」
誰も、否定できない。
「だから、次はお前だ」
その言葉は、あまりにもまっすぐだった。
「……嫌だ」
圭太が後ずさる。
「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ……!」
足元の穴が、じわじわと広がる。
無数の手が、這い上がってくる。
「決まりだね」
“余り”が笑う。
「四つ目、埋まる」
「やめろ……!」
圭太が逃げようとする。
だが、その瞬間。
――ガシッ
足を掴まれた。
「うわああああ!!」
手が、腕に、足に、体に絡みつく。
「助けろ!! 悠真!! 拓海!!」
叫び声が、夜に響く。
俺は動けなかった。
拓海も。
真司も。
誰も、手を伸ばさなかった。
ただ、見ていた。圭太が引きずり込まれていくのを。
「嫌だあああああああ!!」
最後の叫びが、闇に消える。
そして――穴が、ゆっくりと閉じる。
何もなかったかのように。
その場所に、ひとつの墓石が現れた。
「圭太」
誰も、声を出さない。出せない。終わったはずだった。
だが。
「……あれ?」
拓海が呟く。
「まだ……足りなくね?」
その一言で、全員が凍りつく。
墓の山を見る。
一段。
四つの枠。
そこにある墓石は――
一つ。
二つ。
三つ。
三つしかない。
「……なんでだよ」
真司の声が震える。
「一人、入れたろ……?」
「うん」
“余り”が頷く。
にこり、と笑う。
「一つ、埋まった」
「じゃあなんで……!」
「だって」
そいつは、当然のように言った。
「“二人分”空いてたから」
全身の血が凍る。
「……は?」
声が出ない。
「最初から、五人だったでしょ?」
指を折るように数える。
「一人死んで、忘れて」
「一人混ざって」
「そして一人、落とした」
にやりと笑う。
「まだ、足りないよ」
その瞬間。
真司の顔色が変わった。
「……待て」
何かに気づいたように、俺を見る。
「悠真」
「……なんだよ」
「お前、本当に“さっき死んだやつ”か?」
心臓が止まりそうになる。
「……は?」
「思い出せ」
真司が詰め寄る。
「事故の瞬間、お前どこにいた」
「俺は……後ろに……」
「本当に?」
頭の中が揺れる。
記憶が、ぐちゃぐちゃに混ざる。
――助手席
――ハンドル
――ブレーキ
――衝突
「……あ」
気づく。
違う。俺は――
「運転……してた……?」
その瞬間。
世界が、反転した。
圭太の笑顔。
「ちょっと代わってくれよ」という声。
軽い気持ちで握ったハンドル。
そして――あの衝撃。
「……俺だ」
声が、かすれる。
「轢いたの……俺だ……」
沈黙。
真司が、ゆっくりと笑った。
「やっぱりな」
その目は、冷たかった。
「じゃあ決まりだ」
「待てよ……!」
後ずさる。
「さっき圭太が入っただろ……!」
「一人じゃ足りないんだろ」
淡々と言う。
「だったら、もう一人」
拓海が目を逸らす。
助けを求めるが、視線は合わない。
誰も、味方じゃない。
「なあ……やめろよ……」
「悪いな」
真司が一歩近づく。
「ここは、そういう場所だ」
その瞬間。
足元が崩れた。
「っ……!」
落ちる。
暗い穴の中へ。
無数の手が、体を掴む。
「やめろ……!!」
必死に抵抗する。
だが、引きずり込まれる。
上を見る。
真司と拓海が、小さくなっていく。
その向こうで――“余り”が、笑っていた。
「これで、四つ」
その声を最後に、意識が闇に沈む。
♢♢♢
――どれくらい経ったのか。
目を開ける。体が動かない。
いや、違う。動かす必要がない。
視界が、固定されている。
目の前には、夜の空。その下で。真司と拓海が、震えながら立っている。
「……終わったのか?」
拓海が呟く。
「多分な……」
真司が答える。
その声に、安堵が混ざる。
「帰れる……よな……?」
「……ああ」
二人は、ゆっくりと歩き出す。
振り返ることもなく。その背中を、俺は見ていた。
いや。“俺たち”は、見ていた。
動けないまま。声も出せず。
ただ、見ていることしかできない。
気づく。自分が、どこにいるのか。
俺は――墓石の中にいる。
四つ並んだ、その一つ。
視界の端に、名前が見える。
「悠真」
その隣に――
「圭太」
そして、もう一つ。
名前の読めない墓。
――あれが、最初の一人。
最後の一つは――
まだ、空いている。
その空白を見た瞬間、理解してしまった。
ここは、終わらない。
四つで完成するたびに、また一つ空く。誰かが来る。また、埋める。
それを繰り返す。永遠に。
そして――遠くで、車の音がした。
誰かが来る。
新しい、“四人”。
いや。今度は――何人だ?
その時。視界の端で、何かが動いた。
隣の空白。そこに、うっすらと影が浮かぶ。
まだ形にならない“何か”。
だが、それは確実に――
こちらを見ていた。
そして、囁く。
――「足りない」
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