無縁ピラミッド 第4話
――もう一人、“いないやつ”がいる。
真司の言葉が、頭の中で何度も反響する。
「……は?」
圭太が引きつった声を出す。
「何言ってんだよ……そんなわけ――」
「あるだろ」
真司は静かに言った。
その目は、さっきまでとは違う。冷静すぎる。
「影が三つしかないってことは、最低でも一人は“最初からいない”」
俺の喉が鳴る。
「でも……俺は影がなくて……」
「だから一人目だって思い込まされてるだけだ」
言葉が刺さる。
思い込み。誘導。
「……じゃあ、誰だよ」
拓海が低く問う。
沈黙が落ちる。
誰も答えない。答えられない。全員が、互いを疑っている。
その時だった。
――コツン
また、音。
全員が振り向く。墓の山の上。
さっき“何か”がいた場所に――
新しい墓石が、ひとつ増えていた。
「……増えた……」
圭太の声が震える。
そして、その墓石の表面に、じわじわと文字が浮かび上がる。
誰も近づこうとしない。
なのに、読めてしまう。
「???」
「名前が……ない?」
拓海が呟く。
「いや……違う」
真司が首を振る。
「“読めない”だけだ」
その瞬間。頭に、妙な違和感が走る。
記憶の奥。何かが引っかかる。思い出せそうで、思い出せない。
「なあ……」
圭太が言う。
「俺たち……本当に四人で来たか?」
心臓が、強く跳ねた。
「……は?」
「いや……なんか……」
圭太は頭を押さえる。
「もう一人……いた気がするんだよ」
空気が、一気に冷えた。
「ふざけんなよ……」
拓海が笑う。
だが、引きつっている。
「そんなわけねえだろ……俺ら、いつも四人で……」
「“いつも”?本当に?」
真司が食い気味に返す。
「高校入ってから、ずっとか?」
「それは……」
言葉に詰まる。
思い出そうとする。
だが――曖昧だ。
確かに四人でいる記憶はある。
でも、その中に“違和感”が混ざっている誰かがいたような。
でも、顔が思い出せない。名前も、声も。何もかも。
「……思い出せない」
俺は呟いた。
その瞬間。
――ギギ……
あの棺が、また軋んだ。
全員がビクッとする。
割れたはずの蓋が、内側からさらに押し広げられる。
そして、中からゆっくりと“それ”が起き上がった。
さっきの“俺”じゃない。別の何か。体が歪んでいる。腕が一本多い。首が、不自然に曲がっている。
そして顔は――ぼやけている。
まるで、見えないようにされているみたいに。
「……ああ」
そいつが、嬉しそうに声を漏らす。
「やっと、思い出し始めた」
頭の奥がズキズキする。
「お前……誰だ……」
俺が絞り出すように聞く。
そいつは、ゆっくりとこちらを見た。
「僕?」
にたり、と笑う。
「君たちの“余り”だよ」
意味がわからない。
だが、直感だけは拒絶する。
「最初は、五人だった」
その言葉で、世界が歪んだ。
――放課後
――笑い声
――教室
――四人と、もう一人
「……あ」
思い出しかける。
でも、同時に消えていく。
「でもね」
そいつは続ける。
「一人、いらなくなった」
心臓が、嫌な音を立てる。
「だから、“外した”」
「外した……?」
「そう」
首を傾げる。
「覚えてないでしょ?」
その言葉と同時に――
フラッシュバック。
――山道
――笑いながら運転する圭太
――助手席の拓海
――後ろに、俺と真司
そして、その“隣”。
誰かが、いた。顔は見えない。
でも、確かにいた。
そして――
――ガンッ
衝撃。
車が大きく揺れる。
「うわっ! 何か轢いた!」
圭太の声。
ブレーキ。
止まる車。
「鹿か……?」
誰かが言う。
「……いや」
ドアを開ける音。
外に出る。ライトに照らされた地面。
そこにあったのは――人だった。
「……え?」
誰かが呟く。
倒れている人影。動かない。血が、広がっていく。
「……やばい……」
「どうする……?」
沈黙。
そして。
「……行こう」
誰かが言った。
その声が、誰のものかはわからない。
「見なかったことにしよう」
その一言で、全員が何も言わなくなった。
記憶が、そこで途切れる。
現実に引き戻される。
「……あ……ああ……」
膝が崩れる。
「俺たち……」
圭太が、震えながら言う。
「人、轢いて……そのまま……」
「違うよ」
ぼやけた顔の“それ”が、優しく言った。
「轢いたのは、君たちじゃない」
全員が顔を上げる。
「じゃあ……誰が……」
そいつは、ゆっくりと笑った。
そして。俺たちの中の一人を、指差した。
「――“こいつ”だよ」
空気が凍りつく。
指された“そいつ”は、ゆっくりと顔を上げた。
その目は――
どこか、最初からおかしかった。
「……やっと思い出したか」
そいつが、呟く。
低い声。
聞いたことがあるはずなのに、思い出せなかった声。
「俺は最初から、五人目だったんだよ」
全員が、後ずさる。
「でも、お前らが“忘れた”から」
にやりと笑う。
「代わりに、“こいつ”が入った」
ゆっくりと、俺を見る。
血の気が引く。
「つまり」
そいつは続ける。
「最初からいらなかったのは――」
間。
静寂。
そして。
「どっちだと思う?」
その瞬間。
墓石が、一斉に崩れ始めた。
山が、形を変える。
四つの枠が、三つに、そしてまた四つに組み替えられていく。
「時間切れ」
ぼやけた“余り”が言う。
「一人、決めないと」
地面が割れる。
足元に、黒い穴が開く。
その中から、無数の手が伸びてくる。
「選べ」
もう一人の“俺”が囁く。
「お前が入るか」
五人目が笑う。
「それとも――」
三人の視線が、一斉にぶつかる。
友情なんて、もう残っていない。
あるのは、生き残りたい本能だけ。
「――誰かを落とすか」
その時、真司が一歩前に出た。
「……俺が決める」
全員が息を呑む。
真司は、ゆっくりと周りを見渡した。
そして――ある一人を、指差した。
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