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いつものとおりにセシリアとリタさんが僕の手を取る。
少し待っとけ、とヨシュアさんが部屋を出て行き、エリザ様は使用人を呼び街に出ると伝え着替えを用意するように伝えた。
「みんなで行くの?」
「「当たり前でしょ。」」
「わたくしが選んで差し上げます。」
「パレントさんの選ぶ服、おしゃれじゃないのよね。」
「エクシルは何でも似合うと思うよ。」
エリザ様の着替えが始まり、色々している間にヨシュアさんが帰ってきた。
「待たせたな。」
装備を全て外して普段着、だろうか、筋肉質な体を惜しげもなく露出した服、全部なんて言うのかわからないけど、袖のない白のシャツ?胸は隠れてるけどお腹が出てるやつ、黒い半ズボンという兵の時とだいぶ印象が違う格好だ。
靴は兵の時の靴と同じ?
「さあ終わりました。行きましょうか。」
ちょっと控え目になったくらいの感じで、王妃であると主張する感じは抜けていない。
葬儀を行った日ということもありあまり派手な色ではない、濃い青のドレスのような服だ。
これで行って大丈夫かな。
「エリザ様の護衛、他につけた方が。」
「私だけでは不安か?」
「あ、いや、人だかりができちゃうんじゃ?エリザ様ってすぐわかるでしょ?」
「それの何がいけないのでしょう?」
ああ、そんな感じね。
リュックの中にある財布を確認して、セシリアに確認する。
「服を買うのに使っていいかな。」
「うん、いいよ!新しい服、私も欲しいな。エクシルに服を選んでもらおうかな。」
セシリア、不用意なことを言うんじゃない。
みんなの目の色が変わったじゃないか。
もう一度財布の中身を確認してみるけど足りるかどうかわからない。
小銭を数えている僕の後ろから、肩を叩かれると同時に耳元で囁かれた。
「そのような心配は無用です。」
王様に外出の許可をもらいに部屋へと向かい、おう行ってこい、と二つ返事で許可をもらえた。
「王宮の解放も使用人たちに応対を任せている。陛下からの許可も得たし、行くか。」
王宮から出て、僕としては初めて落ち着いて王都の街並みを見ることとなる。
人の往来が激しく、やっぱりエリザ様に多くの人が気がついて進路を塞ぐ。
日傘?だいぶ目立つやつを差してるもんね。
ヨシュアさんが先頭に立ち、人はらいを率先してやってくれている。
結局エリザ様の四方を囲むように、王宮でパーティを組んだあの陣形で街中を進むことになった。
観光どころじゃないな。
でも周りの人たちからしたらこんな機会ないから寄ってくる気持ちもわかる。
「もうすぐで衣類を取り扱う店に着くぞ。」
人だかりを避けて店内に僕たちがなだれ込むと、店員さんだかお客の人だかがこちらを見て悲鳴のような声を上げた。
それはエリザ様を見てあげた悲鳴だったのか僕を見て騒いだのかわからないけど、ついた先は女性の下着専門店だった。
「着いたぞ。」
「うん、そうだね・・・。」
どうしてこうなった。
カーテンが閉められ少し暗くなった店内で、僕の前に下着を持ち寄りながらどれが良いか4人の婦女子がかわるがわるやってきては聞いてくる。
お店の人その他大勢の視線がとても痛い。
「全部良いって言ってたけど、結局どれがいいのよ。」
リタさんの買い物かごには山積みにされた下着が、それは他の3人も同じだけど、僕が生返事したものを全部入れていったみたいだ。
「こんなにはいらないよね。ここからまたエクシルの好きな下着を、うーん、5着決めてもらお♪」
こうなるとセシリアは行動が素早い。
僕の前にかごを置いて品評会を始めた。
ふりふりのついたものが大半を占めているのがわかり、上下同じ種類になるようわけていくとちょうど5セットできてこのセットで買うこととなった。
「レギンスも買わなきゃ。白ー白ー。」
手際良く仕分けていったことが、店員から僕への不信感をより一層募らせることとなったのを感じた。
早くここから出なければ。
次がリタさんだった。
「今後見てもらうんだから、好きなのちゃんと選んでよね。」
無言でセシリアと同じようにして分けて行く。
10セット・・・、色が濃淡明暗いろいろある、が全部透けてる。
黒、ピンク、ベージュ、空、紫、これだ!
「エクシルったらエッチね。こんな下着をつけて欲しいなんて。ストッキングも買っていこ。」
こんのー。
僕が腹を立てる間も無くヨシュアさんがかごを前に置いた。
白い色のものが多い気がする。
「普段からあまりこういうランジェリーというものを付けなくてな。どうしても鎧をつけた時に邪魔にならないようにとこういうものをつけている。良い機会だから選んでくれ。」
なるほど、お悩み相談みたいな感じになってる。
セシリアとリタさんのを仕分けたあとだ、いつものやつというやつを除いて普段つけなさそうなフリフリだったりスケスケだったりのやつだけ残せばいい。
5着!できた!
「これ、透けないか?服から下着の形が浮いたり透けるのは良いんだが、肌から透けるのは、見られると恥ずかしいな。」
こっちをチラチラ見ながら言うんじゃない。
裸で体拭いた間柄なのに何言ってんだい。
でもまあ、裸を見られるより下着姿を見られる方が恥ずかしい時もあるか。
腹決めた時とそうじゃないときみたいに。
えっと、エリザ様は。
「これ、全ていただけるかしら。」
うわあ・・・。
店員さんも驚いてる。
「な、何でそんなに?」
思わず聞いてしまった。
「エクシルも見ていたでしょうが、事あるごとにわたくしは着替えをしなければなりません。上に着る服に合わせて下着も変えることだってあります。これでも少し足りないかと思うくらいです。」
そう言われればそうだけど。
てこらこらセシリアもリタさんもどさくさに紛れて自分のを出すんじゃない、あ、ヨシュアさんもだ・・・。
「こ、こちら全て今日お持ち帰りされますか?あとでお届けに参りますか?」
「持ち帰るわ。」
その量、誰が持つの?
「それぞれ包んでくださる?あとは収納いたしますので。」
セシリアたちが袋に詰められた下着を収納魔法でしまい込んだ。
ああそうだ、便利魔法があった。
カーテンが開かれると、男女が入り乱れて店の窓に張り付いていた。
慌てて窓から離れようにも人がたくさんいてどうにも動けないようだ。
閉められたドアを開けてもらい店を出ると、女の人たちがなだれ込むように店に入って行く。
大きな声で、王妃殿下は何を買われたのか、と聞こえて来る。
すごい人気だ。
「次はそこにしましょう。」
ああ、店頭に並んでいる服でわかる。
女の人の服だ。
周りに人がごった返すのではなく、進路を塞がないようにみんなエリザ様の後方に移動する。
次はあそこの店だ、よし彼女のプレゼントはそこだ、ねえあそこの店で買ってよぉ、なんだそこのチビのガキは、一緒に店から出てきたぞ、そんな声が後ろから聞こえてくる。
肩身が狭い。
がっくり肩を落として次の店へと移動して、カーテンを閉めて人はらいをしてもらった。
また次から次へと服を選んではかごに入れを繰り返す。
「セシリア、ここではどのくらい買うの?」
「うーんとね、さっき下着いっぱい買ったけど、ここではそんなに買わないかな。可愛いってエクシルが言ってくれたらいっぱい買っちゃう。」
どこからそんなお金が出てくるんだ。
さっきも全部エリザ様が王宮に請求書を回すように手配してたんだぞ。
あとで王様に少しでもお金を受け取ってもらえるようにしないと・・・。
持ってくる服全部同じに見えるんだけどな。
「それじゃあ私からね。こっちとこっち、どっちにしようか迷ってるんだけど、どっちが可愛い?」
間違い探しか何かか?!どこがどう違うんだ?
いつも着てる服と違うのはわかる。
持ってきたのはワンピースで股下が短く、白の布の下に青い布が当てられている。
肩は見せるようになっていて長い手袋?アームカバーって書いてある、それがひと組、手首のところで折り返すようになってる。
帽子は小さくて青い生地を縁取るように白いつばの部分が立って折り返されてる。
両方とも全く同じじゃないか。
「ねえエクシルぅ。どっちが良い?」
違いを指摘してちゃんと選ばないと、後ろに控えている人たちにはちゃんと選んであげたのに、と根に持つかもしれない。
うゔゔゔん、あ、こっちはアームカバーが手袋になっててこっちはなってない!
「せ、セシリアは杖を持つ時は素手だよね?」
「うん、そう、こっちは手袋になっててこっちはなってないの。どっちも可愛いから迷ってて。」
「それならいつも通りに手袋じゃない方がいいと思う。」
「そっかー。ありがと!こっちにするね!」
・・・これがあと何回続くの?
様子を見ていたリタさんがやってきた。
「あたしのはそんなに難しくないから。今着てるのとどっちがいい?」
全然違うね。
何でこんなに違うのかな、逆に不信感が募るよ。
もしかして服試着したうえで聞いてる?
そうだと思うとセシリアよりも難しいかも。
今着てる服は紫色で胸のところを押さえているくらいのものでこれじゃ下着が丸見え、ん、丸見え?それじゃまずいんじゃない?
「手に持ってる方。」
「なんで?」
「今着てるの、さっき買った下着が丸見えになりそう。」
「ふふん、じゃあこっちにしよ。」
手に持ってるのは胸のところが白くて他は紫色で所々に刺繍がされてる。
白いところと紫は繋がってるのかな。
帽子はいつも通りのつば広でとんがった帽子だ。
これで下着が絶対に見えない、というわけじゃなさそうな感じだけど。
「次は私だ。試着しているのだが、どうだろうか。」
ん?もう着てる?え?どう違うの?リタさんより難しいんだけど?!
袖のない白い服!へそが出てる!半ズボン!靴!
せめて何を試着しているか教えて。
「やっぱり、恥ずかしいなこれ。」
シャツをめくると買った下着をつけていた。
そういうのは前のお店でやってよ・・・。
「どうした?エクシル。」
「ヨシュアさんはここの服買わないの?」
「ん?ああ、この身長とこの筋肉だ、合うものがなくてな。今身につけているのは男物なのさ。」
・・・それでいいのだろうか。
「あの、店員さん、あの人に合う大きさ服ありませんか?」
ヒソヒソと店員さんに声をかけると、頷いて店の奥へと入って行った。
しばらくして戻ってくると、手に少しだけ持ってきた。
ヨシュアさんの見た目からこれというものを選んできてくれたらしい。
「ヨシュアさん、これ、来てみて。」
「ん?これをか?わかった着てみよう。」
ヨシュアさんが奥にあるカーテンで仕切られた場所に入って行った。
さて問題のエリザ様だ。
あれ?選んでない?
「エリザ様は何か着ないの?」
「うん?ああエクシルですか。これはいかがでしょうか?」
おお、珍しい。
ズボンだ、白いズボン。
でもなんか小さい?伸び縮みするのか。
エリザ様がビヨンビヨンやってる。
セシリアみたいにアームカバーもついていて、上に着る服もズボンと同じでピッタリする服みたいだ。
肩のところには生地はなくて、これも胸が強調される服だ。
肩を覆うくらいの、先端から二つに割れてて、ちょうど腰のところかな一つになってる少し細めのマントがついている。
でもなんでだ?
「なんでこれを選んだの?」
「前の老婆との戦闘の時です。わたくしは服を焼いてしまいました。服が焼けたくらいいいのですが、そのせいで消火をしたりとセシリアとリタに迷惑を。ですからこのような服を着られればもっとお役に立てるかと。」
エリザ様なりに悩んでたのか。
でももう戦闘になるようなことあるかな?
「良いと思うよ。」
着てみたら?とは簡単に言えない。
今着ているドレスだって着付けるのが大変だった。
脱ぐのも着るのもここじゃ難しいだろうな。
「そこの者、これを試着する。」
店員さんがカウンターのひとりを残してエリザ様を連れて全員で奥に行ってしまった。
服を売ってるところだから着付けくらいできるか。
入れ替わりにヨシュアさんが出てきた。
「どうだろうか。」
見違えた。
太ももの真ん中くらいまである赤い薄手の靴下?胸の高さまである半ズボン。
半ズボンというか、太ももの付け根が隠れるギリギリしかない。
靴下とズボンの間に少し素足が見える。
白のシャツはそのまま、少し小さめの赤いジャケットを着てる。
「すごくいいと思うよ。可愛い。」
素直な感想が口から出た。
「そうか。」
ヨシュアさんの顔がジャケットと同じくらい赤くなった。
エリザ様の着替えが終わったみたいでこちらにやってきた。
店員さんがお辞儀をしている。
さっきまで編み込んだ髪をしてたのに全部解いて後ろで縛るだけにしてある。
これは、おはなしに出てくる聖騎士か何かかな?出会っただけで浄化されそうだ。
「かっこいい・・・。」
「そうかしら?ではこれを。其方らも良いか?」
「ええ、でも同じものをもう一つ欲しいわね。」
「やっぱりいくら魔法で体を守ってて服も魔力で覆ってても破けちゃったり燃えちゃったり溶けちゃったりするから、予備が欲しいです。」
「それもそうですね。そこの。これらと同じものはあるか?」
あります、ということなので全部エリザ様が買い上げた。
請求は王様。
気がつけばセシリアもリタさんも新しい服に着替えてる。
リタさんの服、股の前を隠すだけの面積の布が膝まで伸びてるだけで、太腿が丸見えだ。
マントがなかったらお尻も丸見えだろうな。
カーテンが開けられ、見慣れた光景が窓の外に映る。
「ドレスは?」
「不本意ですが、収納しています。」
不本意なんだ。
男の人たちがエリザ様、いや、ここにいる婦女子に目が釘付けのようだ。
一緒にいる女の人のビンタにも動じないほどに。
また人が店になだれ込む。
次は何だろうな。
ヨシュアさんが指さす先は靴屋かな。
男物はあるかな。
店に入るとこれまたいろいろな靴が並んでいる。
ん?あれはどこかで見た・・・、ニルスの道具屋のお婆さん?
「ボク、どうしたんだい?私に何かようかい?」
しわがれた声、やっぱりそっくりだ。
「ニルスの道具屋の?」
「ああ、ほっほっほっ、姉のことかい?ボクのその靴は、姉の店で買ったんだね?」
「うん。」
姉?じゃあこの人は妹?
「ちょっと見せてごらん。だいぶ傷んでいるようだね。ちょっと脱いでここで待っていなさい。」
靴を脱いでそばにあった椅子に腰をかけた。
「エクシルの靴、ニルスで買ったんだ。」
「うん、戦闘に不利にならないような靴を選んでくれたんだ。履き心地もすごくいいよ。」
「はい、お待ちどうさま。」
え?新しくなってる?
「どうしたんだい?ボクの靴だよ。さあ受け取って。少しばかり直させてもらったよ。直し方は秘密だがね。」
すごい、キマイラやサラマンダーで焼けたところが綺麗に直ってる。
擦り減った靴底も新しい。
履き心地も、最高だ。
「店主、私たちに合う靴はあるか?」
ヨシュアさんがお婆さんに尋ねると、ゆっくりと顔、体、足の順にひとりずつ入念に見ていく。
「ほっほっほっ、ボク、なかなかやるじゃないか。考えていることも皆、ボクのことだね。ボクの時がそうだったように店主に選んで欲しいときたもんだ。罪な男だね。皆の合う靴は、そうだね。そこの大きな赤いお嬢さん、これを。白のお嬢ちゃんにはこれ、紫の嬢ちゃんはこれだね。最後、殿下さまはこれだねえ。」
セシリアには編み上げの白い、裏地が青の靴。
リタさんは踵の高い黒の靴。
ヨシュアさんとエリザ様は白のブーツでヨシュアさんのは膝まであって、エリザ様は膝下のちょうど脛が全部隠れるくらいのもの。
「お嬢様方、どうでしょうか?」
「ここまでサイズがピッタリだとは・・・。」
「すごいすごい!履きやすい!可愛い!」
「ヒールもここまで高いのに、思うように動けるわ。」
「ふむ、確かに履きやすいですわ。」
ニルスのお婆さんも凄かったけど、ここの妹さんもすごい人だ。
あ、これマジックバッグだ。
「ボク、欲しいかい?それは一番容量の小さなものでかなり年季が入っているが、100ガルドするよ。買えるかい?」
やっぱり高い。
ボクも収納魔法のようなものが欲しいけど、まだ手の届く代物じゃないや。
「これが欲しいのですか?」
「うん、欲しい。」
「では。」
僕はエリザ様の手を掴んだ。
「いいよ。これは僕の力で手に入れたいんだ。」
「しかし。」
首を横に振る。
僕には収納魔法はない。
みんなと同じようになるにはちゃんと努力しなきゃいけないんだ。
今ここで買ってもらったら、ずっとエリザ様に甘えてしまうから。
「また今度にする。」
「そうかい。良い子だね。ただ、甘える時は甘えるんだよ。」
「ここにくる前に、もう甘えたから。」
「ほっほっ、そうかいそうかい。姉がボクを見染めたのはそういうことだね。それじゃあまたおいで。それとこの靴はこの店で処分させてもらうよ。殿下様のはどうするかねえ。」
「僕が預かるよ。」
「そんな、いけません!」
「ボク、目上の人の靴を預かるのは奴隷や使用人の仕事だよ。ボクは見た限りそうじゃない。ならばこれは渡せないね。殿下様、ここでお預かりしますから、後で遣いのものをここへ出していただけますか?」
「え、ええ、わかりましたわ。」
ああ、やっちゃった。
知らなかったとはいえ、みんなに恥かかせちゃった。
「ここに来て日も浅いですし、徐々に覚えていきましょう。わたくしと一緒に。」
「ありがとう。エリザ様。」
「え、ええ、構いません。またその顔を見せていただけるのであればいくらでも。」
赤くなるエリザ様を見て、愉快と笑うお婆さん。
「ボクの将来が楽しみだね。殿下様、良い御人とまた巡り会えたようで何よりでございます。」
「ふふ、そうでしょう。ではお代を。」
また王様が払ったことになった。
お婆さんも突っ込まないところを見ると、これで良いんだろうな。
「ボク、お嬢様方、またおいでください。」
そう言って店を閉じてしまった。
次はどこにいくのかな。
「エクシル、男物の店はユニオンの近くにあるぞ。ここから少し歩くが向かうか?」
どういうことだろう。
何で確認を?
「何でそんなことを?」
「ならず者、規律正しいもの、日々の生計を立てるために必死な者、様々な事情を抱えた者がいる場所だ。当然、我々のようなうら若き乙女の集団がユニオンに行けば絡まれることは至極当然。おい、エクシル、聞いてるか?」
うら、うら?年齢は僕と同じ歳のセシリアと16歳のリタさんしか知らない。
服装のせいで余計年齢がわからない、うん、知らない。
「もしかして年齢のことか?王妃殿下は知ってのとおりスカイル殿下の年齢からわかるだろうが、私は18だ。」
うら若かった。
「ヨシュア、他人の年齢をあまりそのようにいうものではありません。はあ、若返りの薬でもあれば其方たちなど・・・。」
エリザ様の年齢を考えたことなかったな。
魔法で不老長寿について書かれたページがあって、これも実現不可だった。
若返りの薬、迷宮から出そうなものだ。
女の人は喉から手が出るほど欲しい物なんだろうけど、僕は普通に生きて普通に死ねたらそれでいいかな。
「わたくしは少しでもエクシルと長くいられたらそれで良いのです!」
気恥ずかしいけど、嬉しい。
あまりにも周囲の視線を集めるこの一団に場違いだなとは思うけど。
ユニオン前について、ずらっと防具やら武器やら男物の商店が並んでいることに気がつく。
前に連れてこられた時は全然、気にもしなかった。
「これはこれは麗しき王妃殿下。街中の噂になっておりますよ?麗しき乙女と小汚い男子を連れていると。おっと失礼、申し遅れました。俺は階級は金、ここ王都のユニオンにてその名を知らぬものはいない、ムルチという者です。どうぞお見知り置きを。」
男の、煌びやかな装備をつけた人がエリザ様に挨拶をした。
「ヨシュア、其方の行きつけの店は何処ですか?」
「はっ、こちらです。」
「ちょ、ちょっとちょっと、俺を無視するのかい?いくら王妃殿下でも許せないなぁ。とても美人で誰もが振り向く貴方様でも、俺の実力を見ればきっと惚れてしまいますよ。そうですね、麗しき乙女に剣を向けるのは俺の信条に反する。そこの小汚いガキ、良い機会だ。俺と立ち合え。」
僕を使って自分の実力を見てもらうってことかな。
別に良いけど、エリザ様の前でそんなこと言って良いのかな。
「其方、我ら王族が平和と安寧を守るこの王都でつまらぬいざこざにわたくしを巻き込むおつもりか?」
「いくら王妃殿下の言葉とは言え、ここまで多くのギャラリーがいてはもう引き下がれませんよ。さあ、出てこいよそこの奴隷のガキ。」
「おい、やめろ。今の無礼、見過ごせるものではないぞ。」
「んだあ?・・・、なんと!まさか近衛騎士団のヨシュア様か!姿が全く違うのでどなたかわかりませんでしたぞ。そのような姿も全く麗しい。」
ヨシュアさん引いてるな。
あの男、まあ顔もそんな悪くないし、有名な人なんだろう。
「せっかくのお祭りデートが台無しよあんた、金が何?その程度でカッコつけないでくれる?」
リタさんがミスリルのプレートをひらひらさせる。
「何この人、カッコ悪くて気持ち悪い。」
セシリアがさらに煽る。
「みんなを変な目で見るな。」
「!んだと?!敬語も使えないガキが。俺の剣の錆となれ!」
やっぱりリュックは奴隷の道具としてこの街では認識されてるみたいだ。
僕目掛けて突っ込んでくるが、遅い。
今まで戦ったどの敵よりも遅い。
上から下へと大振りに振り下ろされ剣を横に避けて地面に剣がぶつかり乾いた金属音が響く。
「よくこの腕でそこまで行けたものだ。」
ヨシュアさんの手刀が首を捉えてムルチとか言った男がまた地面に崩れた。
「そこの者、街中で武器を振り回すならず者を処理した。ユニオンに身柄を引き渡してくれ。」
指示の後で歓声がわき、人だかりは増える一方だ。
ヨシュアさんが男を兵に渡し、歩き出すと人がヨシュアさんを避けて道が開いていく。
店の前に着き中に入ると、そこは男物の服が並んでいた。
みんな我先にと服を物色し始める。
目が血走ってる?なんだか怖い。
僕もなるべく地味な服を探して服の前に立った。
パレントさんの買ってくれた練習着はここには置いていないみたいだ。
値札が付いてる、いくらだか参考に見てみよう。
・・・高っ!!え?他の服も?!
なんとなく手に取った服は全て50ガルドを超えている。
高くても10ガルドと思っていた僕の金銭感覚が狂っているのだろうか。
店主に話しかけ一番安い服を教えてもらうと、店の外に置かれたワゴンに乗った、太陽の光で色褪せた服が数点盛られていた。
金額は5ガルドと安いのだけど、サイズが大きかったり、さっきの男の服みたいだったりしていいと思うものがない。
気を落として店内に戻ると、目を爛々と光らせた人たちが僕を待っていた。
「これ着て。」
「いやあたしの。」
「私のはどうだ。」
「さあこれを着てわたくしの目を癒してください。」
怒涛の勢いで服が押し寄せてくる。
これ、全部着ないと後で誰のが選ばれて誰のがダメだったってなるんじゃ。
ふう、これ全部買うつもりで着てみよう。
まずはセシリアの。
黒い帽子、ベレー帽って書いてある、白い半袖のシャツに茶色のベスト、オレンジの膝丈のズボン。
試着は、あっちか。
これ戦う時の服じゃないような。
「どう?」
セシリアの目がキラキラしてる。
他の3人も、ありだな、とか言って頷いてる。
「次!あたしのー。」
着替えを受け取ってカーテンを閉める。
これは、露出が多いな。
濃い茶色の上下でズボンは装備を当てやすそう。
上が、へそが出る半袖のシャツかな?背中も半分丸見えだ。
同じ色のグラブは付けてみると手に馴染む。
「はい。」
今度はリタさんの目が輝く。
「あたしの服とよく合うでしょ。」
これは戦う時にも使えそうだ。
胸当てとの相性も良さそう。
「ほら、私のはどうだ?」
これ、この広い店の中からこれを選んでくるなんて。
「・・・。」
「いやあ、似合ってるじゃないか!私もこう見えていたのか!」
「・・・。」
喜んでるのヨシュアさんだけだよ。
さっき自分で同じ格好してたじゃん。
「さあ、早くわたくしに。」
服を持たされて試着室に押し込められてしまった。
黒いな。
黒のブレザーに黒のズボン、白い長袖のシャツ、黒のグラブ。
ブレザーにいろいろゴツゴツしたのがついてるけど普通だ。
普通がこんなに怖いなんて。
値札だ。
!300ガルド!!マジックバックより!
こ、こ、こんなものを、着てしまった。
これから大きくなるからすぐ着られなくなったら、どどどどうしよう。
ガタガタ震えながら試着室を出ると、エリザ様の不敵な微笑みがボクをさらに怯えさせた。
「これをもらうわ。」
言っちゃったー!
こんなの着て戦えるわけないよ!
店員も驚いてるよ。
「わたくしたちの時と同じで2着必要かしら?」
「いや!大丈夫!僕みんなの4着あるから!」
「そうかしら。わたくしのこの服に合わせて選びましたから、サイズが変わればまた買い直しましょう。」
大人用も、あ、ある。
ろ、600ガルド・・・。
早く自分で選んで買わなきゃ!どれだ!会計が、袋詰めが終わってしまうその前に!
あ、これ。
カウンターの近くに行くと店員が僕を蔑むような目で見て袋を渡してきた。
収納魔法がないとこういうところではすぐに僕がなんなのかわかるな。
「これ、ください。」
まだ買うの?みたいな顔でカウンターの中に入っていく。
「5ガルドになります。」
練習着、見つけた。
これに着替えてっと、よし。
「自分で選んだ服ですから、仕方ないですわね。しかし、わたくしたちの選んだ服も必ず来てくださいね。」
誰のを着るのか論争に巻き込まれずに済んだ。
男物の服屋を後にした。
エクシル(所持金:77ガルド500ジルバ)
エリザ(今回の購入費用:国防費として精算)




