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眩しい光が王宮を照らしている。
朝食の後、葬儀に参列するため僕たちは着付けをしている最中だ。
ヨシュアさんは鎧を脱いで、インシグニアをつけた黒目の上着に同じ色の長いスカートを穿いてる。
エリザ様、セシリアは、リタさんは昨日着付けた服だ。
僕も昨日来た服に着替えさせてもらってた。
もう護衛じゃないからエリザ様の近くにいなくてもいいんだけど、エリザ様が僕を手放さない。
部屋から出て王様と合流。
王様も黒を基調とした、重そうな服を着てる、いや背負ってる。
スカイル様とロビンは僕と同じような服。
マリー様はやっぱりエリザ様と服が似てる。
パレントさんと村長は上下黒のよく見るも喪服だ。
僕がエリザ様と一緒に部屋から出てきても、王様もスカイル様ももう慣れたみたいで何も言ってこない、むしろ、エリザの我儘に付き合わせて申し訳ない、て王様から言われたから、どんな顔してどんな言葉を返せばいいかわからない。
王宮の修繕も始まった。
外の焼けて崩れた部分、廊下の剣がつけた斬り傷、石を新調や削るなどして体裁を整えていく。
石工、大工など職人さんが廊下を右往左往して作業を手早く進めていく姿はかっこいいし、みるみるうちに王宮が直っていくのも気持ちがいい。
王様やエリザ様が通ると作業の手を止めて跪いて敬意を示す。
その姿も王様が街の人たちに愛されているんだなと思わせる瞬間でもあった。
王様だもんね。
もう親戚とかそんな近しい人の感じがしていまいち実感わかないけど、すごい人と一緒にいるんだよね。
僕ら冒険者は、ロビンを除いて兵、ヨシュアさんたちの後ろから並んで廊下を歩いてる。
王族が横を通り過ぎると立ち上がって作業を再開するんだけど、僕の姿を見てまた跪く人が何人かいた。
ロビンと同じような服だからかな。
葬儀は王宮の隣にある教会のような場所で行われる。
街にも教会はあるけど、王宮の教会でやるんだって、王宮で命を落とした者へのせめてもの手向けだ、て王様が言ってた。
外の光が眩しい。
大きな庭の奥に石造りの古そうな建物が見えてきた。
花の香りがする。
教会の前や横に白い花が咲いている。
いや、咲いてるんじゃない、束ねて置かれてるんだ。
事前にこの葬儀のために用意されたものだろう。
もう何人もの人が花を置いて行ったみたいだ。
強い風が吹くと花を揺らして、花びらを連れて去って行く。
花に埋もれるように安置された兵の近くに行くと、廊下で見た人の顔があった。
綺麗に傷口は塞がれて、今にも動き出しそうな顔で寝てる。
死んでしまっている人は何をしても、もう共には戻らない。
セシリアの持っている魔術書にも死者蘇生のページがあるけど、魔法の名前や方法は載ってない。
難しい論述と、実現不可の文字だけ。
どんな病気も治せて、失われた体の一部も治せるほどの魔法は載っているのに。
セシリアはそれらの魔法を使うことができるらしいけど、熟練すればリカバーでも大概のケガは治せるようになると言っていた。
熟練の進み具合も才能のおかげで早いみたいだ。
死者の前で話をしている人はほとんどいなくて、遺族の人たちが王様と話しているくらい。
感情もそれぞれ。
今にも王様に掴みかかりそうな人、泣いて感謝をしている人、ただ死んだ人の顔を見つめる人。
生きている人は、この目を瞑って動かない人たちの分まで生きなきゃいけない。
教会から司祭と呼ばれる人が出てきた。
気がつけば教会の周りにたくさんの人が集まっている。
司祭の言葉にみんな耳を傾けて、遺族の人たちは漏れなく自分たちの家族の前に行き涙を流した。
目を瞑り、安らかな眠りを祈る。
僕は兵の祈りもほどほどに、無属性の人たちが眠る、人が集まっていない場所にひとり向かって祈った。
ただの捨て駒、軽んじられた命、いくら一緒の弔いをするといっても、やっぱりこうなってしまう。
人はこちら無属性の方に流れて来ない。
また強い風が吹く。
僕の足元に一輪の白い花が飛んできた。
この花の名前はわからない。
目の前に眠る、名前もわからない無属性の人にたむけた。
物思いに耽っていたらしく、みんな僕のことを見ていることに気がつかなかった。
それこそこちらに興味もなくただ兵の弔いにきただろう人たちまで僕の方を見ている。
少し目線が怖い。
遺族のさっきまで眠る兵の前で泣いていた人が僕の方にやってきた。
「君に弔われたこの人たちは幸せ者だな。」
そう言って教会の方に歩いて行ってしまった。
ただ僕はその後ろ姿を見つめるだけだった。
その後に続くように王様たちも教会へと足を向けて歩き始めた。
なぜだろう、足が動かない。
あちら側とこちら側を急に意識してしまったからだろうか。
誰かが僕の方に走ってくる。
「エクシル、行こうぜ。」
ロビンが僕を連れて行った。
ここに眠る人たちは墓地に運ばれて、花と共に火葬される。
墓地は教会の裏、兵はよく陽の当たる青々と草が茂って管理が行き届いたところに名名の穴を掘り、火葬のあとに埋葬される。
無属性は管理はされているけど日陰の場所で、大きな穴の中に一緒くたにされて火葬、埋葬となる。
司祭が祭壇に立ち、この教会にいる人たちに話しかけるように長い最期の言葉を綴った。
司祭が教会の裏口に行き、みんなもその後に続く。
眠りについた人全員、教会の前から墓地へと移動されていて、所縁のある人たちが穴の前に散って行く。
ここまでくる街の人は少ない、ほとんど遺族か生前親しかった友人だけのようだ。
無属性は、石碑の奥に敷き詰められた、用意された花の上に整然と横たえられているのが見える。
兵も無属性も、どちらもそんなに親しいわけじゃない。
ふと、無属性に知った顔があるのが見えた。
マリー様が爺と呼んだ使用人と、首飾りを下げた無口のメイドが目を瞑っている。
僕が会った格好のままだ。
死装束も兵とは違い、無属性は仕えていた時の服が一番の正装なんだろう。
差は歴然、葬儀をしてもらえるだけマシ。
遺族たちが魔法で火をつける。
火を扱えない者は司祭が火の付いた松明を渡して火をくべるように促す。
嗚咽と慟哭が響く一方で、とても静かに、風の音と火が燃える音だけの火葬が行われている。
やっぱり、自然と彼らの方に足が向いてしまう。
ただ運が良かっただけ。
いつそっちに寝ることになるかわからない。
だからそれまでは、生きていこうと思う、この人たちのために。
僕は大きく燃える火にお辞儀をして兵の墓地に向かった。
墓標から少し離れた場所にみんなが遺族の様子を見ながら立っている。
ひとつの遺族の集団がみんなへの道を遮って僕に怒鳴りこんだ。
「お前、さっきからうろうろしているな!あっちは犯罪者だろう!私の大事な家族を殺した!なぜそっちに行く!」
「僕は無属性だから。」
「!なら、ならお前も犯罪者じゃないか!何故ここにいる!人を呼べ!殺せ!今なら一緒に弔ってやる!」
この人たちは、さっき王様に掴みかかろうとした人たちだ。
大切な家族。
失った思いはひとしお。
僕は反論せず、彼らの罵声を浴び続けた。
今反論しては余計に焚き付けてしまうと思ったのか、パレントさんたちも黙ったままだ。
他の遺族の人たちも加わり声が強く大きくなる。
「貴殿らは陛下の話を聞いておられたのか?今回の首謀者は王族の血縁者、王族の争いに巻き込んでしまったこと、落命するに至ったことを深く詫びた。無属性たちも首謀者の手により操られその命を落とした者たちだ。両者とも被害者であることに変わりはない。それに、兵の道を選んだ時からこうなることを自ら承諾し、貴殿らも本人の意思を尊重していたはずだ。彼らをこれ以上侮辱するな!」
スカイル様が大きな声を出した。
震える手を抑え唇を噛み締め、ひとり、またひとりと燃える墓標に戻っていく。
「ありがとう、スカイル様。」
「なに、礼には及ばな・・・。」
僕の頬に温かな流れを感じる。
「泣くな。今のようなことがあれば全力で私が守ってやる。だから、泣くな。」
スカイル様と手を繋ぎ、引かれて王様のところに戻る。
火が落ち着き、焼けた花に蓋がされ上から土が盛られていく。
埋葬が終わり全ての葬儀が終了したのは、日差しの強い午後のことだった。
王宮へと戻った僕は、まだスカイル様の手を繋いでいる。
「スカイル様。」
「何だ。」
「行かなくていいの?」
「お前を置いてか。」
「うん。」
「泣いている子どもを置いて自分の都合を優先するなど私はしない。」
「僕は大丈夫だよ。」
「嘘をつくな。」
「でも。」
「貴様に救われた命であるのに貴様に何もできない私に本当に腹が立つ。この世界が貴様の敵となっても、私だけは貴様の味方だ。陛下も母上もどうだか知らんが、私はエクシルの味方だ。そのエクシルが泣いている。看過できん。泣き止むまで、笑顔を取り戻すまで手を繋いでてやる。」
スカイル様を見上げた。
真っ直ぐに見つめるその先に、どんな世界が映っているのだろうか。
信用するに足りないと言った時に比べて、僕はスカイル様の信用に足る人間になったんだね。
心が少しだけ安らぐ。
王宮の玄関ホールにまで戻ってきた。
それまでずっとスカイル様と手を繋いだままだった。
「スカイル。」
「王妃殿下、いかがされましたでしょうか。」
エリザ様の手がスカイル様と繋いでる僕の手をひったくる。
「あとはわたくしたちに任せなさい。スカイル、其方はもう少し周りに頼ることを知りなさい。其方が思っている以上にみな優秀です。ですが、先程は素晴らしい言葉でした。礼を言います。」
姿勢を正し、ノーラさんの横に行くと手を繋いで凛々しく振る舞う。
「では、エクシルのことよろしくお願いします。行ってまいります。ノーラ行けるか?」
ええ、と答えを聞くと同時にスカイル様は魔法を唱え、消えた。
「いつの間にか成長をしているものですね。」
「ああ、そうだな。」
各々部屋に戻って着替えを済ます。
葬儀のことが気になるのか、皆優しく接してくれたが、僕にはそれがいたたまれない気持ちにさせた。
「王宮の外に出ていい?」
「何故ですか?どこに行くのです。」
エリザ様があからさまに慌てる。
いつもなら抱きついてきたりするセシリアやリタさんも今日は困ったような顔をして寄ってこない。
「エクシル、私もついて行っていい?」
セシリアが珍しく僕に問いかけた。
いつもならついて行くって言うのに。
「エクシル、お前は気づいていないかもしれないが、今こっちにくるな、という意識がこちらに伝わってくる。怒っているというよりとても寂しげだ。さっきの遺族の言葉を気にしているのか?自分といたら一緒にいてくれる人まで攻撃される、そう思っているのか?」
そうかもしれない。
スカイル様にはああ言ってもらったけど、すぐに吹っ切れるものではない。
大好きな人まで嫌われてしまうのは怖い。
「違うぞ、殻に閉じこもるなよ。今私たちはエクシル、お前に嫌われることを恐れている。他人のことなど、言ったことなど関係ない。お前さえ近くにいてくれれば他に何もいらんのだ。私たちの契約を忘れたのか?反故にするのか?」
はっとした。
みんなそこまで、全て覚悟した上での契約だったことを僕は考えていなかった。
勝手に、どん底に落とされた可哀想な奴と自分で決め込んで気取っていた。
「みんな、ごめん。」
格好悪い。
「伊達に裸の付き合いしてないわよ?でも、自分を見つめ直す時間も大事。」
リタさんが僕の頬を両手で軽くはたく。
「さて、エクシル、もう一度聞きますが、どこに行くのですか?」
リタさんの手が頬をぎゅっと押して唇がアヒルのようになる。
「服を買いに。」




