神のお告げ
今回は神様の話です。
神国アシハラ―――
極東に位置する島国であり、この世界で信仰される二柱の神の一柱、アシハラを祀る神殿の存在する国である。
アシハラとはもう一柱の神、世界龍ウロボロスと共にこの世界を創造した創造神であり、万物の霊を司る神でもある。
つまり、アシハラは日本の八百万の神と同じ性質を持つ神なのである。
閑話休題―――
この日、神国ではちょっとした騒ぎが起きていた。
神殿に住まう神、アシハラからお告げがあったのだ。
しかも、只のお告げではない。このお告げを海の向こうの大陸にある国、王国アストラルに届けよというのだ。
神官達は大慌てで準備に取り掛かっている。
一方で神殿の奥、神の座―――
其処には古代日本風の衣服を着た男にも女にも見える中性的な顔の神、アシハラと黒髪に黒い瞳、優しげな笑みを浮かべた巫女姿の少女が居た。
「そうですか・・・、あの子が・・・」
巫女姿の少女が安堵した様な声を洩らす。
その目は少しばかり涙ぐんでいる。
それを見て、微笑みながら頷くアシハラ。
「そうだよ、マイカ。ようやくあの子と会う事が出来るんだ」
そう言ってアシハラはマイカを優しく抱き締める。
マイカもアシハラにそっと身を寄せる。
その光景はまるで恋人同士が寄り添う様であった。
「ミズホ・・・」
テラがこの世界に来てから一週間の時が過ぎた頃。
この日、王国アストラルの王城に使者が来た。
その使者が神国の神官だった事もあり、王城では軽い騒ぎになっていた。
そして現在、玉座の間―――
神官である青年は王の前に立っていた。玉座の間には王と神官の他に、王妃とドラコを含めた数名の騎士達と、そしてテラとマナの姿があった。
神官の名はシラカワというらしい。
古代日本風の衣服に身を包んだ青年で、黒い長髪を後ろで束ねている。
「して、神国の者がこの国に何の用か?」
「単刀直入に申し上げます。神からのお告げがありました」
騎士達がざわつく。
この世界では神の実在が認められており、そのお告げは当然大きな意味を持つ。騎士達が固唾を呑む中、シラカワとテラの目が合った。
「"テラと名乗る者を神国に招け"これが神、アシハラ様のお告げになります」
玉座の間を衝撃が奔る。
特に、直接名を呼ばれたテラは目を見開いて驚愕していた。
シラカワは更に言葉を続ける。
「それとアシハラ様はこうも言っておられました。"テラをこの世界に呼んだのは私だ"と」
「「!!?」」
更に強い衝撃が奔る。
テラは神によって召喚されたと言う。
ならば当然一つの疑問が湧くだろう。
「何故、アシハラと言う神様は僕をこの世界に?」
そう、アシハラの目的だ。
アシハラは一体何の目的でテラをこの世界に呼んだのか?
その問いに対し、シラカワは言葉を選ぶ様にゆっくりと答えた。
「まず、貴方様の本当の名はテラではありません」
「本当の名?」
この神官は一体何を言っているのだろうか?
まるで、テラの本当の名を知っているかの様な―――
「まさか!?」
「貴方様の本当の名はミズホ、アシハラ様の実の子供でございます」
その瞬間、その場は水を打った様に静かになった。
テラが神の子だという事実に全員が愕然とする。
当のテラは顔を蒼白にしている。
「僕が、神の子」
「はい」
「では、両親はこの世界に?」
「はい」
その瞬間、テラは膝から崩れ落ちそうになる。
それをマナが慌てて支える。
マナが心配そうに見る中、テラは力なく笑いながら問い掛ける。
「最後に一つだけ、聞かせてくれないかな?父さんと母さんは僕を愛していたのかな・・・」
「私にアシハラ様やマイカ様の御心を推し量る事など出来ません。只―――」
そう言って一呼吸分、間を置く。
そして、僅かに微笑み、言った。
「どちらも、貴方様の事をとても心配しておられました」
「・・・・・・・・・そうか」
テラは何も知らない。
両親の顔も、何故、捨てられたのかも。
しかし、記憶の中にある母の涙がきっと全てを物語っているのだろう。
会いたい。
少なくとも、テラは両親に会うべきだろう。
「分かった。神国へ行こう」
ざわりっ
騎士達がざわついた。
マナは少し不安そうな顔をしている。
「では」
「ただし、少し待ってほしい。流石にすぐには行けない」
そう言うと、シラカワは苦笑した。
「では、今日は帰る事とします。一月後にまた来ますので」
神官は一礼すると、そのまま玉座の間を去って行った。
その日の夜―――
テラは部屋で両親の事を考えていた。テラは両親の事を何も知らない。
知りたいと思った。
会いたいと思った。
だから―――
コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、其処にはマナが居た。
「マナ?」
「少し、良いでしょうか」
テラはマナを部屋へと入れる。
二人の間に沈黙が流れる。それを破ったのはマナだ。
「テラは神国に一人で行くつもりですか?」
その質問には、暗に自分もテラと一緒に行きたいという思いがあった。
その思いを察したテラは苦笑する。
「マナも一緒に行くか?」
その瞬間、マナはぱあっと花が咲いた様な笑顔を見せた。
しかし、すぐに暗い表情になる。
「しかし、良いのでしょうか?」
「うん?別に良いだろう。僕はマナと一緒に行きたいし。マナは違うのか?」
その言葉に、マナは顔を真っ赤にしてわたわたとする。
「わ、私も、テラと一緒に行きたい、です・・・」
それを聞いて、テラはにっこりと笑う。
その笑みにまた、マナは顔を赤くするのだった。
アシハラとミズホの名前の元ネタは豊葦原瑞穂国です。




