子供達との一日
今回は子供達の訓練の話です。
深い深い森の中。神聖な空気の漂う大森林。
その中の開けた場所に、テラは居た。
テラは此処を知っている。
それもその筈。此処はテラが幼少を過ごした森だからだ。
神域―――
この森はそう呼ばれている。
この土地は神気と霊気に満ちた神霊の聖地なのだ。テラは此処に赤子の頃、親に捨てられたのだ。
テラは親の顔を知らない。只、覚えている中で最も古い記憶の中、母と思しき少女が泣きながら自分をこの森に置いて行く姿だけが自身の脳裏に焼き付いていた。
何故捨てられたのかは分からない。
親に文句が無い訳でも無い。
只、あの少女の泣き顔が頭から離れないのだ。
あの涙を見れば、文句も言えなくなってしまうのだ。
それでもテラは思う。
自分は愛されていたのだろうかと。
自分は望まれて生まれてきたのだろうかと。
吹き抜ける風がテラの頬を撫でる。
(ああ、これは夢なんだ・・・・・・・・・)
ふと、テラはそう思った。
テラの目の前に笑顔を模った蒼白の仮面を被った少年が居た。
白髪に朱い瞳をした黒衣の少年。
「君は?」
「分っているだろう?僕の名はてら、君の仮面<ペルソナ>さ」
ペルソナ―――
社会に適応する為に必要な表面的な人格。
てらと名乗る少年は自分がそれであると言った。
「それで?てらは僕に何の用なのかな?」
テラは自分の鏡像とも呼べる少年、てらに問い掛ける。
それに対し、てらは仮面の奥でにやりと笑う。
「テラはマナの事をどう思っているのかな?」
「・・・・・・・・・」
テラは黙り込む。
自分がマナの事をどう思っているのか。
それは―――
「テラは本当にマナの事を只、生きる為の理由にしか思っていないのかな?」
「そんなの分かんねえよ」
分からない。
自分の気持ちが分からない。
只―――
マナと一緒に居る時の自分は―――
「残念、時間切れか」
てらがそう言った次の瞬間、テラの意識が覚醒した。
「・・・・・・・・・くそっ」
テラはベッドの上で力なく毒づいた。
少なくとも、マナと一緒に居る時の自分は生きている実感があったと思う。
つまりは充実していたのだ。
きっと、テラはマナの事を―――
「俺、城の中に入るの初めて・・・」
そう呟いたのは王都西区に住む三人の子供の一人、ジャックだ。
「俺も」
「私も」
それに続いて、メナスとレイラも呆然と呟く。
今日は国王スカーレットの許可を得て、子供達を王城に入れていた。
その理由は子供達にテラの持つ技術を伝授する為だ。
現在、テラは子供達と一緒に練兵場に居た。
マナは用事があり、一緒には居ない。
練兵場にはテラと子供達のみである。
「君達には今からある事をしてもらう」
「ある事、ですか?」
子供達は一斉に首を傾げる。
そんな子供達に不敵な笑みを見せ、テラは言った。
「かくれんぼ」
「「「・・・・・・・・・はっ?」」」
三人の声が見事にハモる。
その呆然とした顔にテラは苦笑する。
「別に遊ぶ訳じゃない。この王城内に隠れている僕を見つけるだけだよ。どんな方法を使っても良いから昼までに僕を見つけなさい」
そう言って早速テラは練兵場から出ていく。子供達は互いに顔を見合わせ、しばらく放心した。
昼頃―――
結局、子供達はテラを見つける事が出来なかった。
ちなみに、テラはマナと一緒に食堂に居た。がっくりと肩を落とす子供達に、マナは苦笑する。
テラ曰く、情報収集能力と偽の情報を流す技術があればこのぐらいは簡単らしい。
「じゃあ、食事が終わったら早速訓練と行こうか」
「あっ、じゃあこの際に質問して良いですか?」
レイラが手をびしっと上げ、尋ねてきた。
その元気の良さにテラは苦笑する。
「何だい?」
「テラさんとマナさんって付き合ってるの?」
「っ!?」
その質問にマナは一気に顔を赤くした。
ジャックとメナスはにやにやしながら見ている。
三人ともこの手の話には興味が尽きないらしい。
テラは嘆息すると苦笑を浮かべながら言った。
「僕達は別に付き合っている訳じゃないよ」
「テラさんはマナさんが嫌いなの?」
「嫌いじゃないさ」
そう言って、早々に話を終わらせる。子供達は皆、つまらなそうな顔をしている。
他人の色恋話はさぞ興味深いのだろう。それこそ、蜜の味もするのだろう。
しかし、その手の話はされる側からすれば堪ったものではない。
マナは頬を朱に染め、あうあうと言っている。
テラはやれやれと頭を振るのだった。
食後、テラはマナと一緒に子供達の訓練を行っていた。
情報の扱い方の他にも気配の消し方や敵から上手く逃げ切る為のコツなど、様々な事を教えた。
そうこうしている内に、夕刻になった。
「さあ、君達ももう帰りなさい。流石に親も心配しているだろう?」
「親なんていないよ?」
「・・・・・・・・・はっ?」
思わず呆けた声を出す。
話を聞くと、どうやら三人とも孤児らしく、親の顔も知らずに育ったらしい。
三人は赤子の頃、親に捨てられその後拾ってくれた人とも折り合いが付かずに捨てられたらしい。
その話を聞いたテラは苦々しい顔をする。
「テラ?」
テラがこの様な表情を見せるのが珍しかったらしく、マナが不思議そうな顔で覗き込んでいる。
テラは慌てて頭を振り、そのまま子供達を帰した。
その後、テラの部屋で、マナが問い掛けてくる。
「テラは昔、何かあったの?」
「何かとは?」
「孤児と聞いた時のテラ、何だか苦々しい顔をしていたけど・・・」
「ああ、その事か・・・・・・・・・」
テラは少し考える素振りをした後、口を開いた。
「僕は捨て子なんだよ」
「・・・・・・・・・えっ?」
マナは一瞬、呆けた声を出す。
その反応に、テラは苦笑する。
「ほら、初めて会った時に言っただろ?物心が付いた時には既に一人だったと。僕の覚えてる最も古い記憶は母と思しき女性が泣きながら僕を森に置いて行く姿だよ」
「っ!?そんな!?」
マナはとても悲しげな顔をする。
当時まだ小さかったテラは母に捨てられたのだ。
それは余りにも悲しすぎる。
だからなのか―――
気付けばマナはテラを抱き締めていた。
「あの、マナ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
困惑するテラをマナは黙って抱き締め続ける。
やがて、テラは溜息を一つ吐き、マナを抱き締め返した。
そんな二人を月だけが笑いながら見ていた。
孤独は寂しい。




