デート?
口の中が甘い・・・。
「あの、少し私と付き合って貰えないでしょうか?」
朝、起きたばかりのテラにマナは突然そう言った。
テラは寝惚け眼を擦りながら眠そうな声で問う。
「付き合うって、何に?」
「えっと、買い物とか、食事とか・・・、ですか?」
マナは顔を朱に染め俯く。
その言葉と反応に、テラは僅かに目を見開く。
(えーっと、これってデート、だよな?)
そう、これは明らかにデートの誘いである。
マナはデートの為なのか、純白のワンピース姿に、少しだけ化粧をしている様だ。正直かわいい。
しかし、何故いきなりデートなのか?
表情に出ていたのか、マナが顔を赤くしながら説明した。
「兄さんが"偶にはテラと一緒に出かけてみたらどうだ?"って・・・」
「あいつが原因か!?」
テラの脳裏に、不敵に笑うアルフレッドの姿が浮かんだ。
テラはこめかみを押さえて頭を振る。
「テラは嫌ですか?」
「別に嫌じゃないけど・・・」
マナとデートするのは嫌じゃない。むしろ嬉しいと思っている。
けど、アルフレッドの思い通りと言うのがテラには癪なのだ。
考え込むテラの目に、マナの不安そうな顔が映る。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
互いに黙って見詰め合う事数秒。
テラは一つ溜息を吐く。
「分ったよ、付き合うよ」
その言葉に、マナはぱあっと顔を明るくさせるのだった。
王都カイル南区、商業区―――
様々な商店が立ち並ぶ、賑やかな観光名所となっている区画。
その一角にある宝石店"黒猫"に、テラとマナが居た。
ちなみに、この宝石店、嘗て異世界から流れてきた異世界人の商人が開いた店らしい。
現在、テラとマナはこの店で様々なアクセサリーを見ていた。
商品の中には普通のアクセサリーだけではなく、魔力の籠っているという魔道具とか、神の加護の付いた神具なんて物もある。
「凄い品揃えだね」
「そうだね・・・。ん?」
テラの目にとあるネックレスが映る。
それは朱い宝石をあしらった銀のネックレスだった。
シンプルなデザインだが、テラは何故かこのネックレスから目が離せなかった。
「これは・・・」
「これに目を付けるとは、実にお目が高い!」
店主らしき人が嬉しそうな顔でやってきた。
「このネックレスは創造神アシハラ様の加護の付いた神具でして、持ち主の身を守ってくれる力を持っているのです」
「ふむ、アシハラ様ね。その話、本当だろうね?」
「はい!本当ですとも!!」
満面の笑みで答える店主。どうやら嘘ではないらしい。
テラは少し考えてから店主に問う。
「これ、幾らかな?」
「金貨十枚になります」
とても良い笑顔で答える店主。
ちなみに、この世界の貨幣は石貨、銅貨、青銅貨、銀貨、金貨、白金貨の六種類である。
日本円に直すと石貨一枚が十円、銅貨一枚が百円、青銅貨一枚が千円、銀貨一枚が一万円、金貨一枚が十万円、そして白金貨一枚が百万円である。
更に言うと、白金貨は国家間の取引でしか使用されない為、市場に出回る事は無い。
財布の中には金貨が八枚と銀貨が六枚入っている。明らかに金が足りない。
王城に戻ればもっと金があるが、その金は使う訳にはいかない。
その金は子供達への給金だからだ。
テラは溜息を吐き、懐から懐中時計を出す。
「店主、これは幾らで売れる?」
「ふむ?」
店主は訝しげにそれを手に取る。
それは金の細工が施されたアンティークの懐中時計だった。
蓋の表面に金でグリフォンが彫刻されている。店主の目が僅かに真剣な色を帯びた。
「これは・・・、素晴らしい!金貨六枚、いや、七枚で買わせていただきます!」
「じゃあ、それと金貨三枚でそのネックレスを売ってもらえるかな?」
そうして、テラはネックレスを無事に購入したのであった。
・・・・・・・・・
「良かったの?テラ。懐中時計を売っちゃって」
宝石店を出た所で、マナが尋ねてきた。
ネックレスを買うのに高そうな懐中時計を売ったことを気にしている様だ。
テラは僅かに苦笑する。
「大丈夫だよ、あれは昔、僕が暇潰しに作った物だから」
「そう、ですか?」
尚も心配そうにするマナの首に、テラはそっとネックレスを掛けた。
きょとんっとするマナにテラは微笑んだ。
「プレゼントだよ」
「っ!?」
マナは顔を真っ赤に上気させた。
「えっ?あっ、その・・・」
「綺麗だよ、マナ」
「っ~~~~~~~~~」
マナは顔を赤くしたまま、俯いてしまった。
テラはそんな彼女を微笑みながら見ている。
そんな時。
「あっ!?テラさん!マナさん!」
二人に三人の子供が駆け寄ってくる。
ジャック、メナス、レイラの三人である。
「よお、三人とも元気か?」
テラは三人の子供達に挨拶する。
しかし、三人の目はもう一人の方に向いていた。
真っ赤に顔を染めて、俯くマナ。
その首にはネックレスが・・・。
レイラはにやりと笑みを浮かべた。
「もしかして、デートでしたか?」
「・・・・・・・・・」
マナは更に俯いてしまう。
その反応に、ジャックとメナスもにやにやと笑みを浮かべる。テラは思わず苦笑する。
「これから食事に行くんだけど、君達も一緒に行くかい?」
「いえいえ、お二人の邪魔なんてしませんよ?」
そう言って三人はささっと去って行った。
テラは呆然と三人の去った方を眺めていた。
・・・・・・・・・
喫茶"ダイヤモンド"―――
王都でも割と評判の喫茶店である。
コーヒーを飲んで、ようやく落ち着いたマナはテラに頭を下げた。
「本当にありがとうございます。こんなに良いネックレスを」
「良いよ、別に。プレゼントにちょうどいいと思っていたし・・・」
照れ臭そうにそう言い捨てる。
マナはくすくすと笑うと、優しげな笑みを浮かべながら言った。
「それでもお礼を言わせて下さい」
「・・・・・・・・・」
テラは頬を軽く染め、そっぽを向いてしまった。
その反応に、マナはまたくすくすと笑う。
「トーストセット、お待ちどう様です」
喫茶店の店主(マスターと呼ばれている)が二人分のトーストセットを持ってきた。
とろっと溶けたバターの乗ったトーストに、スクランブルエッグが付いている。
去り際にマスターがテラにサムズアップしてくる。
テラは口元をヒクつかせた。
(・・・色々と心配になってくるな)
テラは内心で溜息を吐きたくなった。
夕刻、二人は王都の側にある高台にきていた。
高台から見る王都は夕日をバックにとても絶景だった。
「綺麗だな・・・」
「そうですね」
高台からの景色をじっと眺めるテラに相槌を打つマナ。
テラは景色を眺めながら小さく微笑んでいる。
しかし、その瞳には僅かに悲哀の色が浮かんでいる。
マナの心臓がドキリと脈打つ。
(ああ、やはり私はテラの事が・・・)
自分の気持ちをはっきりと理解したマナはテラを真っ直ぐに見る。
「テラ・・・」
「うん?」
テラはマナの方を向くと、首を少し傾げる。
脈が速くなるのを感じる。
そして―――
「私、テラの事が大好きです。結婚を前提に私と付き合って貰えませんか?」
高台を一陣の風が吹き抜ける。
此処から物語は動き始めた。
マナの告白にテラの答えは?




