魔王アザトホート
気付けば、テラ達は何処かの城の中に居た。
豪奢な城でありながら、何処か不気味な雰囲気が漂っている。そして、城の中には全体的に微かに霧が漂っているが、見通しが利かない訳では無い。
仄かに燐光を放つ光球が所々に浮かんでおり、幻想的だがやはり少し不気味だ。
「こっちだ」
何時の間にか側に居た少年。その少年に連れられ、城の中を進む。
城の中は、不気味な程に静かだった。余りにも生物の気配を感じない。テラ達は自然と冷や汗を流し口数も少なくなっていた。マズイ、雰囲気に呑まれつつある。
「―――さて、此処からが正念場だ」
ぼそりと呟き、こっそり気合いを入れる。マナ達にも聞こえたのか、各々表情を引き締める。
此処からが正念場だ、面白くなってきた―――
・・・やがて、テラ達は巨大な鉄扉の前まで来た。鉄扉にはこれまた巨大な純銀の鎖で閉ざされており、何かを封印している様な気配すら感じる。
封印している?何を?
ふと、テラは疑問を感じた。しかし、今はそれどころでは無い。疑問を心の奥深くにしまった。
テラは扉にそっと触れた―――瞬間、自身の首が跳ぶ幻覚を視た。
「っっ!!?」
テラはばっと後方へ飛び退く。その頬を冷や汗が滝の様に流れ、目は大きく見開かれている。
首は、繋がっている・・・・・・。
そんなテラの姿に、少年以外の全員が驚く。
「テ、テラ!?」
「大丈夫、大丈夫だ・・・・・・」
その言葉は、或いは自身に向けられた物かもしれない。とりあえず、テラは再び扉に触れた。
今度は大丈夫、テラはゆっくりと扉を開く。
・・・中には、玉座に座る一人の青年が居た。その身体からは、単独で世界を覆い尽くさんばかりの濃密で大量な魔力が溢れ出ていた。この青年が―――
「ようこそ、俺の城へ。俺が魔王アザトホートだ」
君達を歓迎しよう。彼は両腕を左右に広げ、言った。顔は不敵に笑っている。
しかし、その魔力はぴりぴりとした感覚と共に、空間を徐々に支配していく。
圧巻。まさに、その光景は圧倒的だ。この男は、正しく魔王なのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「先程は済まない。俺の魔力は、常に封印していなければ世界を壊しかねんのだ」
そう、それが先程の扉の封印だ。この男は自身を玉座に封じていたのだ。そうしなければ、世界が魔王の魔力に耐えられないから。
世界の楔である魔王が、世界を破壊してはならないのだ。それ故の戒めである。
テラはごくりと唾を呑み、覚悟の籠った瞳で魔王を見据える。
「魔王よ、貴方の目的は何だ?何が目的で僕を呼んだ?」
「ふむ、それか・・・・・・」
アザトホートは玉座に深く背をもたれさせ、笑った。不敵な笑みだ。
「俺の目的、それは―――世界のディストピア化を防ぐ事だ」
アザトホートの言葉は、やけにテラの耳に響いた。世界のディストピア化。それは―――
「世界の・・・ディストピア化・・・・・・?」
「そうだ。そもそも、魔王とは世界を律する為の楔、人類が増長しない為の脅威だ」
「っ!?」
その言葉に、テラは愕然とした。しかし、マナは何処か納得した様子だった。
「嘗て、この世界にはセフィラという魔王が君臨していた。世界に脅威を振りまいたその魔王を、勇者と仲間達が倒し、世界はようやく平和になった・・・筈だった・・・・・・」
「けど、そうはならなかった?」
マナはこくりと頷いた。その顔は、何処か悲しそうだ。
「魔王を倒したその後、人類は増長した。魔王の居なくなった世界をより良い世界にしようと、世界は管理社会という名の地獄へと変わったの」
魔王は世界を律する楔。それは、文字通りの意味だった。魔王という脅威を失った世界は、人類は際限もなく増長した。それは、箍が外れたが故の暴走だったのだろう。
「アザトホート、貴方の目的は分かった。けど、それと僕が呼ばれた理由がどう繋がるのか、僕はまだ聞いていない」
「ふむ、そうだな・・・・・・。お前を呼んだ理由、それは―――」
その瞬間、アザトホートの手元に一本の魔法杖が出現した。二匹の白蛇が絡み合った、黄金の杖。
恐らくはギリシャ神話の商業神、ヘルメスの杖であるカドケウスを模した物であろう。
アザトホートはその杖を、テラに突き付けた。
「テラ、お前を取り込みその至高の権能を手に入れる為だっ!!!」
「―――っ!!?」
刹那、世界の法則が切り替わった。テラ達は世界そのものに縛り付けられる。
抗う事を決して許さない、絶対的な世界への干渉力。圧倒的力の差。
そして、同時にテラに異変が起こる―――
「ぐっ、がっっ!!?」
「テラっ!!?」
テラの身体が、光の粒子となってアザトホートに吸収されていく。魔王アザトホートによって、テラの存在が取り込まれていくのだ。
響くマナの悲鳴。最後に、テラは何処か諦めた様な笑顔を浮かべた。
「ごめん、マナ・・・・・・」
その言葉を最後に、テラは完全に消え去った。もう、彼は居ない。それを理解した瞬間、マナの心が音を立ててへし折れた。
「ひっ、いやああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」
魔王の玉座に、マナの悲鳴が虚しく響き渡った。




