名も無き殺人鬼
極西の島、魔国アザトート。世界の果てと呼ばれる、最果ての島。
その意味する所は、絶望の最果て。世界の限界。世界の終着点。
・・・魔王とは世界の楔である。
世界を繋ぎ止める為の楔。絶対的な悪を司り、全ての悪を束ねる事で世界を平定する者。
逆を言えば、魔王という楔を失えば世界は均衡を失うだろう。それほどの危ういバランスの上に、世界は成り立っているのだ。魔王とは抑止力なのだ。
もっと言えば、魔王とは世界と人類を繋ぎ止める枷なのである。それ故、魔王は不倶戴天の敵であると同時に世界にとって、無くてはならない存在である。
星の調停者、魔王アザトホート。悪を統べる絶対者。
「それが魔王陛下、アザトホート様なのさ」
「・・・・・・・・・・・・っ」
現在、テラ達の前には一人の少年が居た。そう、目の前に居るのは間違いなく人間の少年だ。
何かの魔物の皮を使用したジャケットを纏った、14~15くらいの少年。体格は細身。
鮮血の様な赤髪に獣の様な赤い瞳。口元は薄く笑みを浮かべているが、その瞳は細く鋭い。
腰には一本のナイフが差してある。恐らく、かなりの業物だろう。
少年は突然テラ達の前に現れ、魔王の使者を名乗った。名前は無い、無名の殺人鬼との事。
魔王からはそのまま無名と呼ばれているらしい。名前を失ったのでは無く、元から無いらしい。
突然現れた謎の少年に、テラ達は最初は警戒していたが―――
「敵対はしないよ。魔王陛下から、戦闘は控える様にと言われているからね」
と、言った。全体的に飄々として、摑み所の無い少年だ。読めない。
故に、テラは一つ問いを投げ掛けた。少年の内面を探る為だ。
「お前は何故、魔王に忠誠を誓っている?」
その質問自体は何気ない物だ。要は、この少年がどういう人間なのかという事が重要だ。
少年は少し、考える素振りをした後に一つ頷き、答える。
「テラ、お前なら分かるだろう?化物と呼ばれ、忌み嫌われる者の気持ちが。その絶望が」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺も同じさ。化物と呼ばれ、周囲から遠ざけられてきた。そんな俺を唯一理解し、正しく人間として認めてくれたのが魔王陛下だったのさ」
つまりはそういう事だ。テラにとってマナが理解者であったのと同様に、少年にとってアザトホートのみがたった一人の理解者だったという事だ。
要は、この少年も孤独だったのだろう。だからこそ、唯一の理解者であるアザトホートに従った。
それが、例え魔王であったとしても・・・。
「・・・・・・そうか、お前はそういう人間か。お前も孤独だったんだな」
「俺にとって、魔王陛下は唯一であり絶対だ。俺にはもう、あの方しか居ないんだよ」
それは恐らく、依存心の現れなのだろう。しかし、例えそれを正しく理解していたとしても、この少年は魔王に忠誠の全てを捧げただろう。
それほど嬉しかったのだ。理解される事が。理解して尚、全てを受け入れてくれる事が。
だからこそ―――
「魔王は―――」
「うん?」
「魔王は一体、どういう方なんですか?何が目的なんですか?」
マナは少年に問い掛ける。魔王の目的を。その内面を。
少年は少し考えた後、首を左右に振った。
「それは俺が答えるべき事じゃ無いや。魔王陛下に直接聞いた方が良い」
「そう、ですか・・・」
「只、一つだけ言うなら陛下はテラに良く似ている。姿形では無く、その内面が・・・」
「・・・?」
マナは意味を理解出来ずに、小首を傾げる。少年はくつくつと笑い、テラ達の前を歩く。
その背は隙だらけに見えて、その実全く隙が無い。自然体でいて、隙が皆無だ。
体幹がまるで一本の剣みたいに錯覚するほど、綺麗な姿勢だ。そして、その纏う気配。
何処までも鋭く、何者をも断ち切る意志を感じる。かなり出来る。強い。
恐らく、戦闘能力だけならライルにも匹敵するだろう。一目でそれを理解した。
しばらく歩くと、目の前に開けた土地が現れた。その中央には一つの石碑がある。
石碑に近付くと、その石碑に描かれている魔法円が仄かに輝き出した。
その魔法円を見て、テラは驚く。それは、ルーン文字だった。北欧の魔術式だ。
「着いたぞ。此処が、城の入口だ」
少年は石碑を指差す。どうやら、石碑に描かれた魔法円が入口の役割を果たしているらしい。
という事は、この魔法円は転移術式か。この魔法円が城への門か。
「呵々、見た事の無い術式だな。何だ、これ?」
「ルーン魔術だよ。文字の一つ一つに魔術的な意味を持つ、古代文字の一種だ」
アトラの疑問にテラが答える。一瞬、アトラが目を見開いてテラを見るが、すぐに呵々と笑った。
「呵々、異世界の古代文字か?」
「そんな物だ」
魔法円に描かれているのは破壊のルーン。どうやら、時と空間を破壊して別の時空へと空間転移する術式の様である。中々面白い。
テラは石碑に近付くと、そっと魔法円に触れた。輝きが強くなる。
「テラ!?」
「マナ、アトラ、ライル!!僕の側から離れるな!!」
マナの驚愕の声と同時に、テラが叫ぶ。瞬間、時空が砕けた。




