港町からの脱出
深夜零時―――
皆が寝静まった頃、安らかな寝息を立てて眠るマナに忍び寄る影があった。そうっとその影はマナに向かって手を伸ばし―――
「っ!!?」
不穏な気配に、マナは飛び起きた。瞬間、マナの口を何者かが押える。マナは心臓に直接ナイフを突き付けられた様な悪寒を覚える。
身の危険を感じ、じたばたと暴れるマナに、何物かはしーっと静かにするよう指示した。しかし、余りの恐怖心にマナは身を硬くする。
そんなマナの耳に、聞き慣れた声が聞こえた。
「しーっ、静かに。落ち着け、マナ。僕だ、テラだ」
「―――――――――っ」
目をこれでもかと見開くマナ。ようやく目が暗闇に慣れてくると、テラの姿が目に映った。
テラは真剣な瞳でマナを見詰めていた。側にはライルとアトラの二人の姿もある。二人とも準備万端という感じだ。これから行動を起こそうとしている事が一目で分かる。
「さつさと起きて準備をしてくれ。今すぐこの町を出るぞ」
マナは状況を把握すると、表情を引き締めて小さく頷いた。
・・・それからの行動は迅速だった。荷物を纏め、即座に宿を抜け出す。
物陰に潜みつつ、こっそり港町を進む四人組。
「ところで、町を出たらどうするのですか?」
町の入口付近でふと気になったマナは、テラに問い掛ける。
魔王の居る極西の島へは大海を渡るしか無い。アトラの空間転移が封じられている以上、テラ達には大海を渡る手段は船しか無い。
しかし、その船を調達する手段がテラ達には無いのだ。此れではどうしようも無い。
だが、テラは首を横に振った。
「打つ手が無い訳じゃ無いさ。僕達にはマナが居る」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
えっ???
一瞬、マナは意味を理解出来ずにきょとんっと小首を傾げた。うん、かわいい。
思わずテラは苦笑する。苦笑して、優しげに微笑んだ。
「マナには異能がある筈だ。<時空間跳躍者>の異能が・・・」
「え?いや、でも・・・・・・」
空間転移は魔王の領域内では阻害されて使えない筈。実際、アトラがそうだったのではないのか。
マナの言いたい事を察したテラは苦笑しつつ、その疑問に答えた。
「アトラの空間転移は単一の世界という範囲でしか使えない限定的な力だ。それ故、魔力で形成された異界の中では使用出来なくなるんだ。一方でマナの時空間跳躍者には限界が存在しない。望めば世界の境界すら越えて何処へでも行けるだろう。それこそ、魔法遣いの造った異界の中にでも」
そう。マナの時空間跳躍者には限界が存在しない。転移というジャンルにおいて、マナの異能は一切の制限や制約が存在しないのだ。それこそ、世界の境界を越えて何処へでも転移出来、逆に異世界の果てからあらゆるモノを召喚出来るだろう。
故に、神々の領域すらも超える異能なのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
テラの説明を受け、マナは絶句した。何だか自分がとんでも無い怪物に思えたのだ。
そして、ふと不思議に思った。何故、自分にこんな強力な異能が宿ったのか?と。
偶然宿ったにしては強力すぎる異能。そして、その力のお陰でテラと出会った。もし、全てが必然だったとしたら、どうだろう?
ふと、そう思った。
「へーっ、そーうなんでーすか~~~っ」
「「「「っっ!!?」」」」
ぎっくうっっ!!!
突然背後から聞こえた声に、テラ達は跳び上がる程驚いた。何時の間にか、テラ達の背後にはテニエルが立っていたのだ。マナなんか、涙目でガタガタと震えている。
さもありなん。暗闇の中での魚面の魔物はかなりホラーだ。
「こそこそと何をしているのかと思えば~~~、そんな事を考えていたーーーんですね~~~」
「・・・・・・・・・・・・」
怖い怖い怖い。夜の暗闇の中、若干暗いトーンの声で話す魚面の魔物。怖すぎる!!!
そして、徐々に魚人達が集まってきてついには囲まれた。魚人達全員が目をぎらぎらさせている。
正直、かなり怖い。生理的に無理だ。今すぐ逃げたい。
「そんなに怖がらないで下さ~いよ~~~私、傷付きま~すよ~~~」
「―――――――――っ」
「これ以上~怖がるのな~ら~~~」
「っっ!!!」
不穏な気配を感じ取り、テラ達は身構える。瞬間、テニエルの瞳が鋭く光った。
「すみませんっでしたーーーーーーーーーっっ!!!」
「「「「・・・・・・は???」」」」
土下座した。それも見事なまでに綺麗な姿勢の土下座である。
はい???
訳が分からず、テラ達は四人ともに呆然とする。見ると、魚人達全員が土下座していた。
「我々魚人族は~魔王陛下より皆様を丁重にもてなせと言われていたので~すよーーー!!!」
相変わらず、オーバーリアクションかつ芝居がかった口調で話すテニエル。相変わらずウザい。
後、恐らくそのもてなせは意味が違うと思うテラ達。
「もう出ていっても良いか?」
「それはこまりますよ~っ。我々も陛下から仰せられた命があるので~、皆様をもてなさないといけな~いので~すよーーーっ」
歌劇の様に歌い上げるテニエル。超絶面倒臭え。何か、他の魚人達はテニエルに向かって花吹雪の様な何かを舞わせているし。ワケワカラン。
テラはマナやアトラにライルと視線を交わし合い、頷き合う。
「マナ!!!」
「はいっ!!!」
「え!!?あっ、ちょっ!!!」
テニエルが何か言っていたが、テラ達は全て無視して転移した。一瞬の浮遊感と共に、気付けば其処は見知らぬ土地だった。
「此処が・・・極西の島。魔王アザトホートの棲む領地か・・・・・・」
極西の国、アザトートにテラ達は来たのだった。




