進撃と無双
未開の領域、魔王の支配する領域に入ってからテラ達を襲う魔物が増えて来た。
熊の魔物や猪の魔物、狼の魔物ならまだ良い。中には触手の怪物や合成獣など、生態系を大きく逸脱した怪物も存在した。ゾンビとか、明らかに腐っている奴も居る。
合成獣ならまだ良い。しかし、触手の怪物やゾンビなどは流石に駄目だ。先程からマナが、青白い顔で怯えているのだ。身体を小刻みに震えさせ、テラにしがみ付いている。
胸の柔らかい感触とか、女性特有の匂いとか、気にする間もない。次々と魔物達が襲ってくる。
「テ、テラぁ・・・」
「・・・・・・・・・はぁっ」
テラは頭を押さえ、溜息を吐く。現在、テラ達の前には大量のゾンビが居る。
はっきり言って、腐臭が凄い。というか、かなり臭い。こいつ等、身体が物凄く腐っている。
アトラとライルも、顔をしかめて物凄く嫌そうだ。そりゃそうだ。誰も、こんな奴等を相手になどしたくはないだろう。テラも嫌だ。絶対嫌だ。
というか、さっきから腐臭のせいで吐き気が凄い。気持ち悪さが、のど元まで込み上げてくる。
「呵々!こんなモノ、まとめて焼き尽くしてくれる!!!」
そう言うと、アトラは魔法杖を取り出し先端を地面に突き立てた。
瞬間、ゾンビ達の足元から地獄もかくやという程の業火が噴き出した。次々と焼き尽くされるゾンビの群れにテラ達は無感情な瞳を向ける。マナ一人が、がくがくと震えていた。
物の数秒でゾンビの群れは焼き尽くされて消し炭になった。アトラはすっきりした顔をしている。
地面は黒く焼け焦げて焦土と化していた。ゾンビの死体一つ残っていない。
「呵々、さて行くとするか」
「ああ」
「そうだな」
「ううっ・・・もう嫌ぁ・・・」
マナの心はもう、折れる寸前だった。もう帰りたい・・・。
・・・・・・・・・
「何のいやがらせだ?これは・・・」
テラは口元を引き攣らせ、ぎこちない笑みを浮かべる。アトラとライルの二人も口元を引き攣らせて冷や汗を流している。
マナは・・・テラの背後に隠れて震えている。
テラ達の目の前には魔物の群れが。小鬼、巨鬼、豚人の他、ゾンビや触手の群れが居る。
その数はもはや、数えるのも馬鹿らしい。空には飛竜の姿も見られる。
その全てが、テラ達に殺意と殺気を向けている。テラは思わず、深い溜息を吐いた。
小鬼の一匹がテラを指差しアギャアギャと喚いている。何を言っているんだか。
すると、唐突にそのゴブリンが錆びた剣を振り上げてテラに襲い掛かった。しかし、その剣がテラに届くその前にゴブリンの頭をライルが鷲づかみにした。
ゴブリンの頭が万力の如く、締め付けられる。
「アギャアアアァァ!!!」
ゴブリンの悲鳴が響き渡る。その間もきりきりとゴブリンの頭は締め上げられ、やがて潰れた。
どちゃっと頭の潰れたゴブリンが地面に崩れ落ちる。はっきり言ってグロイ。
頭が潰れる直前、マナの目を塞いでおいた。マナにこの光景は見せられない。
まあ、見えなくても物が潰れる音は聞こえたのだろう、マナは小刻みに震えている。
はぁっ。テラは溜息を一つ吐く。
「アトラ、ライル、少し時間を稼いでくれるか?」
「・・・何か策でもあるのか?」
「策という程でも無い。この辺一帯を浄化するだけだ」
「・・・は?」
ライルは聞き間違いかと思い、目を丸くした。アトラは楽しそうに笑っている。
「呵々、この辺を浄化するか。中々面白そうだ」
「いや、面白くはないが・・・そろそろ向こうも待ってはくれないらしい。頼む」
『ゴガアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!』
魔物の群れが一斉に襲い掛かってくる。
ライルは舌打ちをすると、地面が爆ぜる程の踏み込みで魔物の群れに突っ込んだ。ライルの振るった拳で百体程の魔物が一撃で爆散した。
アトラは一言呟くと、魔法杖を地面に突き立てた。瞬間、地面が盛り上がり火柱が幾つも上がる。
その火柱の一本一本が、地獄もかくやという程の熱量がある。魔物達はその火柱に呑まれ、焼き尽くされて消えてゆく。
一瞬で千体近くの魔物達が死んだ。しかし、それでもまだ何万、何千万と魔物はいる。
それを次々と倒していくが、このままではジリ貧だろう。そんな中、テラは目を閉じ、意識の全てを集中して神々の祝詞を唱える。
其れは八百万の神々に、森羅万象の霊魂に捧げる言霊だ。言霊を紡ぐ度、場の空間が純度を増して神気が満ちていく。空間が聖域と化していく。
危険を察知した魔物の群れがテラに襲い掛かるが、アトラとライルがそれを阻む。
そして、一匹のオーガが守りを抜けてテラに襲い掛かる。瞬間、祝詞の詠唱は終わった。
『祓い給え、清め給え』
空間を神聖な光が満たす。其れは魔を祓う光明。浄化の光だ。
光は魔物のみを焼き払い、アトラやライルには一切の被害を与えない。其れは、まさに神の御業。
光が収束し、やがて消えると其処に魔物の姿は一切無かった。文字通りの消滅だ。
浄化の光は魔物を焼いたが、地面に焦げた跡すら無い。この世の不浄を焼き払う光は、大地を焼かずに魔物のみを滅する。その光景に、マナとアトラとライルの三人は呆然とする。
「カッ、呵々・・・。流石にこれは・・・」
「規格外、だな・・・」
アトラとライルはそう呟いた。そして、当のテラはこの光景を見て思う。
(流石にはりきりすぎだよ・・・皆・・・)
先程の光明は八百万の神々、つまり神道の神々の力を借りた物だ。それ故にその規模や威力は神々のさじ加減による部分が大きい。
今回はテラの願いに、八百万の神々がはりきりすぎた為に規模がとんでもない事になった。
その影響で、土地が半分以上聖域と化している。テラは心の中で、深く溜息を吐いた。




