番外9二人の過去<後編>
その後、王城に帰って来たマナだったが。王城では軽い騒ぎになっていた。
当然だろう。何故なら、マナは何時間も行方不明だったのだから。王城に帰ったマナが散々問い詰められたのは、もはや言うまでもない。
余談だが、マナが失踪している間、家臣達の間でマナが誘拐されたのではと割と大事になっていたりするのだが、それをマナは知らない。
マナが帰って来るのがもう少し遅かったら、本気で捜索隊が組まれる所だったのも、マナは全く知らないのである。
王城が騒然とする中、本人はきょとんっとしていた。
王は疲れ切った顔をして、王妃は安堵の息を吐いた。これもマナは知らない事だ。只一つ、帰って来たマナの首には翡翠の勾玉がぶら下がっていた。
これについてはどれほど問い詰められても、マナは友達から貰ったの一点張りだった。これについては王と王妃も困惑した。
マナに友人が出来た事では無い。マナの首に掛かった勾玉に、二人とも困惑した。
この世界に、勾玉は存在しない。故に、家臣達の目には変な形の首飾りに見えた筈だ。
しかし、王と王妃はこの勾玉を一度、目にした事があった。
それは以前、神国に国務で行った時の事―――神殿の奥に居たとある女性が、その首に掛けていた首飾りにそっくりなのだ。
聞いた話によると、その女性は異世界で神、アシハラに見初められたという。その首飾りは女性の生まれ育った世界では、魔除けのお守りであったらしい。
・・・確かに、見ればその首飾りには霊的な加護が宿っている気配が感じられる。只の首飾りでは無いのは明らかだろう。
それよりも、だ・・・。
王と王妃はマナの顔をじっと見る。マナは頬を赤らめ、嬉しそうに勾玉を握り締めている。
その顔は、まるで恋焦がれる乙女の様だ。愛おしそうに勾玉を抱き締め、微笑んでいる。
その姿に、王と王妃の二人は同時に溜息を吐いた。
親の心、子知らず。マナはその日、一日中ずっと嬉しそうに勾玉を握り締めていた。
・・・・・・・・・
一方、葦原中つ国―――
神域の森、中央の開けた土地に一部の神々が集まっていた。一部、とは言えその全員がかなり高位の神霊である事に変わりはない。
天照、月読、須佐之男、大国主、そして伊邪那岐まで居る。その中心に、少年はちょこんっと大岩に座っていた。
少年の首には水晶のネックレスが掛かっていた。少年はそれを嬉しそうに握り締めている。
その様子を、神々は様々な感情を乗せて見詰める。話の内容は、主に異世界から迷い込んだ少女、マナの事だった。
「・・・そうか、ついにこの子に友達が出来たか」
「はい、お父様。友達が出来て、とても嬉しかった様です。貰った水晶の首飾りも、ずっと握り締めていますし・・・」
伊邪那岐の言葉に、天照が答える。少年を見詰めるその顔は優しさに満ちている。
天照の視線に気付いた少年は、にっこりと笑みを返した。天照の鼻から赤い液体が垂れる。
「姉ちゃん、鼻血!鼻血!!」
「おっと、すいません・・・」
須佐之男の指摘に天照は慌てて鼻血を拭い取る。天照、少年を前に完全に駄目な親と化している。
本当に、どうしてこうなったのか・・・。深い溜息を吐く伊邪那岐と月読。
「とりあえず、姉さんは置いておいて―――」
「置いておかないで!!?」
「姉さんは其処ら辺に置いておいて、話を進めましょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
憐れ、天照は月読の一言で完全に轟沈した。もはや神話の主神としての威厳など、欠片ほども存在しなかった。
地面に突っ伏す太陽神を、少年はつんつんと指で突く。かなりシュールだ。
「ううっ・・・」
天照は少年を抱き締め、しばらくしてようやく復活した様だ。・・・何だか以前よりつやつやしている様な気がするが、気のせいだろうか?
深い深い溜息を吐く伊邪那岐と月読、そして須佐之男の三人。話が進まない。
「ごほんっ!と、とりあえず!どうして異世界から子供が迷い込んだのか、その理由を解明せねばまた同じ事が起きかねんぞ」
伊邪那岐が無理矢理話を戻す。確かに、その通りなのだ。異世界から子供が迷い込んだ以上、また同じ事が起きないとも限らない。全て偶然と考えるのは、楽観が過ぎるのである。
三柱の神が考え込む中、その胸元に少年を抱きかかえた天照がそっと手を上げる。
「あの、その理由ならもう見当が付いているのですが・・・」
「・・・は?」
思わず、間の抜けた声を出す三柱。少年も不思議そうな顔で、天照をじっと見詰める。
集中する視線。伊邪那岐は呆然とした顔で問い掛ける。
「知って、いるのか?天照・・・」
「ええ、まあ・・・。あの子は異能を宿していました。それも、とても強力な―――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙り込む伊邪那岐。呆気に取られた訳ではない。彼は今、真剣に考えているのだ。
異能、それも世界の境界を越える能力ともなると、神々に匹敵するか、或いはそれ以上だろう。
月読は緊張の浮かんだ顔で、天照に問う。
「では、また同じ事が起こる可能性が高いと、姉さんは言うのですか?」
「ええ、起こるでしょうね。ほぼ間違いなく・・・」
黙り込む神々。そして、同時にぴしっと小さな手が上がる。少年だ。
「どうしました?」
「もしかして、またあの子が来るの?」
少年は何処か、期待の籠もった瞳で天照の顔を覗き込む。その熱が籠もった瞳に天照は苦笑する。
「ええ、来ますよ・・・きっと」
その言葉に、少年は顔色を輝かせて嬉しそうにネックレスを握り締める。その姿に、神々は皆優しい笑みを浮かべる。
・・・次の日、天照の予測通りマナは再び神域に来た。




