番外7狂気の果て
何も覚えていない―――
・・・気付けば一帯は焦土となっており、建物は綺麗さっぱり消し飛んでいた。何があったのか、全く覚えていない。
不死者ははっと我に返る。側にはぼろぼろになって、もはや息も絶え絶えなアマギ博士の姿が。
死んでいないのが不思議なくらいに重傷だが、どうやらまだ生きているらしい。・・・微かに呼吸している様だ。
「っ!?博士!!」
不死者は慌ててアマギ博士を抱き寄せる。傷口からは止め処なく血が溢れている。血が全く止まらないのだ。
アマギ博士は不死者の顔を見ると、血塗れの顔で笑った。
そして、微かな声で何事か呟く。常人には聞こえない程微かな声。だが、不死者は確かに聞いた。
『生きろ』
そう、言っていた。確かにそう言ったのだ。不死者は泣いた。声を押し殺し、静かに泣いた。
そうして、アマギ博士はその生を終えた。
しばらく後、駆け付けた兵士達十数名が見たのは、跡形もなく消え去った研究施設跡だった。
其処に、不死者の姿は無くそれどころか、死体は一つも見付からなかった。
・・・・・・・・・
あれから不死者は各地を転々とした。国外に逃亡した事もある。しかし、不死者である彼は何処へ行こうと奇異の目で見られ、下手を打てば化物と恐れられた。
時として、悪魔の化身として教会から討伐隊が派遣された事もあった。まあ、聖水をかけられようと十字架にかけられようと、心臓に杭を打たれようと火に炙られようと死なないのだが。
死なないのだが、痛いのは痛い。心臓に杭を打たれ、火で炙られ、剣で斬られ、槍で貫かれ、それでも死ぬ事も出来ない。けど、死ぬ程痛いのだ。
それでも逃げて、逃げて、逃げ続けた。
心が擦り切れ、ぼろぼろになっても、それでも馬鹿みたいに笑い続けた。
死ねなかったからというのもある。けど、それ以上に諦められなかった。生きる事を、ではない。
人と解り合える事を諦められなかった。人と共に居られる日を夢想し続けた。
無様だ。実に無様だと、自分でも思う。いっそ滑稽ですらある。
それでも、不死者は人間の事が大好きだったし期待もしていた。
人間はそれだけでは無いのだと、きっと解り合う事も出来る筈だと。・・・そう信じていた。
信じ続けていた。
不死者は知らない。否、覚えていない。その想いの裏には、幼少の頃に神域の森で出会った少女への想いもある事を。その少女との出会いがあったからこそ、人を信じ続けられた事を・・・。
人を信じて、信じて、信じて、それでも裏切られ続けて。そうしてやがて、本当の意味で人が信じられなくなるその刹那―――
不死者は異世界へと渡った。
そうして、その世界で不死者は少女と出会い、テラという名を与えられた。・・・不死者、テラはその少女に、マナに恋をした。




