ライル
ハザマの都、入口の門の前で砕けたゴーレムの残骸と共に一人の男が立っていた。
がっしりとした体格に赤毛の髪、獅子の様な鋭い双眸、一般的な村人が着る様な軽装をしており武器の類は一切所持していない。
体長は常人の二倍近くある。かなりデカイ。
その男から立ち上る闘気から、ゴーレムを倒したのはこの男で間違い無い様だ。
テラはゆっくりと歩いて、男に近付いていく。それに気付いた男がすっと身構える。
マナとハザマ伯爵は固唾を呑んで見守っている。アトラは・・・相変わらずにやにやと笑っている様だ。
あいつは・・・・・・まったく。
「お前が"ライル"だな?」
「そうだ、お前は何者だ?」
ライルと呼ばれた男は訝しげな顔で、テラに誰何する。立ち上る闘気はピリピリとしており、並の者ならそれだけで怯むだろう。
しかし、遥か永い時を生きたテラは動じない。平然とした顔で答える。
「僕の名はテラという。そう身構えなくても良い。僕は只勧誘に来ただけだ」
「勧誘・・・だと?」
ライルは更に訝しげな顔をする。だが、テラは全く気にしない。このまま自分のペースへと巻き込みに掛かる。
「まあ気にするな。それよりも何処か落ち着いて話せる場所に行かないか?」
「あ、ああ・・・」
何処か得心がいかなそうな顔でライルは頷く。そして一同はライルの家へと向かった。
・・・・・・・・・
ハザマの都から少し歩いた所にある、小高い丘の上―――
ライルの家は木造二階建ての小さな家だった。小さいながらも立派な家だ。
テラ、マナ、アトラはライルを先頭にして家の中に入って行く。
ハザマ伯爵は後始末とかで現場に残った。
入った先でまず、目に映ったのはベッドに横になった少女だった。
純白の長髪に透ける様な白い肌、薄い寝間着に包まれた身体はとても細い。細長い耳を持っている事から彼女はエルフなのだろう。
しかし、そんな事はどうでも良い。とても儚げなこの少女、傍目から見てもかなり弱っている。
生命力そのものが、とても弱々しいのだ。
「あっ、お帰りなさいお父さん・・・。その人達は?」
「ああ、ただいまエリス。こいつ等は客人だ」
弱々しい声で問い掛ける少女に、ライルは答える。それと、どうやらこの少女の名前はエリスというらしい。
エリスは儚げな笑みをテラ達に向けると、軽く頭を下げた。
「初めまして、私の名前はエリスと言います。貴方達のお名前は?」
「初めまして、僕の名前はテラだ。こっちの二人が―――」
「マナです。初めまして」
「儂の名はアトラだ。よろしく」
それぞれ挨拶をする。場が少しばかり和んだ。
しかし、次の瞬間エリスが激しく咳き込む。ライルが慌てて駆け寄る。
エリスの手は血で真っ赤に染まっていた。
「大丈夫か?」
「大丈夫、えへへ・・・、ごめんなさいお父さん、心配を掛けて・・・」
心配そうに声を掛けるライルにエリスは儚げに微笑む。しかし、その顔は青白い。状況はかなり不味いだろう。
マナとアトラは険しい顔をしている。何も出来ない自分が相当に悔しいのか、ライルは歯を食い縛って悔しそうにしている。
唯一人、テラだけが何処か真剣な表情でエリスをじっと見詰める。
「あ、あの・・・、テラさん?」
若干戸惑いながらエリスはテラに声を掛ける。しかし、テラはそれに構う事なくエリスを視る。
エリスの病の原因は至って単純だ。生命力が極端に少ないのだ。
はっきりと分かる程に死相が浮き出ている。
これを何とかする方法はあるにはある。其れは―――
「テラ?」
唐突にマナがテラの顔を覗き込んで来た。その顔は怪訝そうだ。
「ん?如何した?マナ」
「いえ、さっきからぼーっとしてどうしたんですか?」
見ると、アトラとライルも怪訝そうにテラを見ている。少し、考え込みすぎたらしい。
「いや、何。エリスの病を治す方法を・・・ね・・・」
その言葉に反応したのはライルだった。目を剥いて、驚愕している。
「治る・・・のか・・・?」
「ん?ああ、治るな・・・」
その言葉に、ライルの表情が明るくなる。しかし、一方でエリスの表情は暗い。
娘のその顔に、ライルは怪訝な顔をする。
「ん?如何した、エリス?嬉しくないのか?」
「いえ・・・、とても嬉しいのですが・・・」
「?」
ライルは訳が分からずに、首を傾げる。暫く黙っていたエリスだったが、やがてぽつりと呟く様に話し始めた。
「私、本当に治るのでしょうか・・・?いえ、治っても良いのでしょうか?」
「何?」
ライルの顔が更に怪訝そうに歪む。マナとアトラもきょとんっとしている。
一人、エリスだけはとても不安そうな顔をしている。
「私は今までお父さんに散々迷惑を掛けてきました。そんな私が、・・・今更元気になっても良いのでしょうか?」
「エリス、それは・・・」
ライルが何かを言おうとして、口を噤む。急に病が治ると言われて、エリスも不安なのだろう。
病弱である事に慣れてしまった事で、今更病から解放される事が怖くなったのだろう。
「大丈夫だよ、エリス―――」
そんなエリスに声を掛けたのはテラだった。その顔は優しく微笑んでいる。
その優しい微笑みに、エリスは戸惑う。
「あの、えっと・・・、テラさん?」
「君はもう充分苦しんだ筈だ。なら、その分今度は幸せになっても良いんだよ―――もう、解放されても良いんだよ」
「け、けど・・・、良いのでしょうか?」
尚も不安そうにするエリスの頭を、テラは優しく撫でる。
「良いんだ。君はもう病から解放されるべきだ」
その言葉は優しく、とても温かい。エリスの頬を涙が伝う。
「え?・・・あれ?」
止め処なく溢れる涙に、エリスは戸惑う。拭っても拭っても溢れてくる涙に、訳も分からずに戸惑いの声を上げる。
その姿をテラ達は優しく見守っていた。




