表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の不死者<イモータル>  作者: ネツアッハ=ソフ
最強の仲間
31/52

ハザマの都

 次の日―――


 神殿の一室でテラは目を覚ました。隣にはマナが小さな寝息を立てて寝ている。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 テラはふっと笑みを浮かべ、優しくマナの頭を撫でる。


 「んっ、・・・テラ?」


 「目を覚ましたか?」


 薄目を開けて目を覚ますマナ。テラは軽くマナを抱き寄せる。


 マナは幸せそうに、本当に幸せそうに微笑んでテラの胸元に身を寄せる。


 「んっ、・・・・・・・・・ふふっ。大好きですよ、テラ・・・」


 「うん、僕もだ・・・」


 そう言って、二人は抱き締めあう。


 とても幸せな時間。二人は今、幸せだった。


 ・・・しかし忘れてはいけない、此処は他人(ひと)の家であると。


 「いやー、良いねえ。呵々、眼福眼福」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 何時の間に現れたのか、アトラが其処に居た。


 一瞬、思考が停止(ストップ)する二人。それをにやにやと見詰めるアトラ。


 ようやく思考を再開させたテラは即座にマナを放し(マナは真っ赤な顔で、あうあう言っている)、アトラを睨み付けた。


 「お前、無粋な奴だと言われた事は無いか?」


 「呵々、さて何の事やら」


 アトラはにやにやと笑いながら明後日の方を見る。その笑みの張り付いた顔にテラは少しばかりイラッとする。


 「ううっ、見られた・・・、見られた・・・」


 うわ言の様に呟きながら、マナは真っ赤に染まった顔を両手で覆う。


 その左手の薬指には銀に輝く指輪が嵌められている。昨夜、テラが何処からか取り出し、マナに差し出したのだ。


 ・・・当然、マナは大泣きして喜んだ。大泣きしながらテラに抱き付いたのは言うまでもない。


 アトラはにやにやと嫌らしい笑みを浮かべ、マナを見ている。マナは更に顔を赤く染める。


 何と言うか、アトラは中々良い性格をしているらしい。・・・分かってはいたが。


 テラは頭痛に顔を(しか)めながら、溜息を吐いた。


 ・・・・・・・・・


 その後、準備を終えて三人は神殿を出る。空は快晴、雲一つ無かった。


 「ところでテラ、これからどうするのですか?このまま魔王の城へ?」


 「いや、もう一人会っておきたい人物が居る」


 マナの問いにテラは首を横に振り、答えた。その言葉にアトラは「ほうっ」と感嘆の声を上げた。


 「呵々、中々用心深い事だ。して、何処に向かうのか?」


 「西方、ハザマの都。ハザマ辺境伯の治める都にソイツは居る」


 「了解した」


 そう言ってアトラは一本の杖を取り出した。


 材質は樫の木。梟の彫刻があしらわれ、瞳の部分に宝石が嵌め込まれている。


 「それは?」


 「知っているだろう?魔法杖(まほうづえ)だよ」


 テラの問いに、アトラはにやりと笑い答えた。


 魔法杖―――


 魔法遣いが世界の法に干渉するのに使う為の触媒である。


 杖の内部には魔法を簡略化させる為の回路が組み込まれている。魔法の補助装置。


 アトラの魔法杖には魔力、即ち精神エネルギーを蓄積、増幅させる回路が組み込まれている様だ。


 アトラが魔法杖を地面に突き立て、何事か呟くと梟の彫刻が光り輝き出した。


 『gate』


 瞬間、三人は見知らぬ町の前に立っていた。どうやら空間転移の魔術を行使したらしい。


 「着いたぞ、此処がハザマの都だ」


 「・・・相変わらず滅茶苦茶するな。見ろ、周りの人が驚いた顔で見ているぞ」


 見ると、周囲の人達がざわついていた。明らかにかなり目立っている。


 遠くから衛兵達が駆けて来るのが見えた。テラはうんざりとした気持ちで溜息を吐いた。


 ・・・・・・・・・


 詰め所で衛兵達と話をする事一時間、テラ達三人はようやく解放された。


 しかし、解放されたのは良いのだが、まだ問題は残っていた。


 「あの、何故僕達はハザマ伯爵にお呼ばれしてるんでしょうか?」


 「気にするな」


 目の前には燕尾服を着て、黒髪に黒い瞳のがっしりとした東洋人風の男が居た。


 この男がハザマ辺境伯―――ハザマの都の領主である。


 詰め所で衛兵達を納得させる事自体は簡単だった。王国の姫であるマナが居たため、簡単に身分を証明出来たのだ。


 しかし、その後何故か益体(やくたい)もない話をされ、詰め所に引き留められたかと思えば、こうして領主の屋敷に招待されたのだ。全く訳が分からない。


 どうやら全てはハザマ伯爵の命令らしいが・・・。


 ハザマ伯爵はカップの紅茶を一息に飲むとテラをじっと見て言った。


 「しかしまあ、今はテラと名乗っているんだったか?名無しの化物君?」


 「っ!?」


 名無しの化物―――そう呼ばれてテラは目を見開いて驚いた。その隣でマナも驚愕している。


 只一人、アトラだけはきょとんっとしていた。


 「伯爵、何故それを―――」


 「何故それを知っているかって?それは俺が君と同じ世界出身だからさ」


 「!!?」


 テラは一瞬で身構え、僅かに腰を浮かせた。しかし、ハザマ伯爵はそれを片手で制する。


 「落ち着け、俺はお前達と敵対する気は無い」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 テラはまだ若干警戒しながらも椅子に座り直す。そんなテラの肩にそっと触れる手。


 見ると、マナが優しげに微笑んでいた。


 「マナ?」


 「大丈夫です、もしテラに何かあっても今度は私が守りますから」


 その優しい微笑みに、テラの心が安らぐのが感じた。


 「ほうっ」と、ハザマ伯爵が感嘆の息を吐いた。


 「なかなか面白い関係の様だな」


 「・・・・・・・・・」


 にやりと笑うハザマ伯爵にテラは無言で睨み付ける。


 「で?結局何故僕達は伯爵に呼ばれたんだ?」


 「ふんっ、別に大した用がある訳では無い。只お前と話してみたかっただけだ」


 「・・・・・・・・・何?」


 テラは怪訝な顔をする。


 只話してみたかっただけ。意味が分からない。


 ハザマ伯爵は相変わらず薄っすらと笑みを浮かべている。


 「俺も昔は軍部に居た身だ。当時軍が秘密裏にお前を実験体にしていた事も知っている」


 ガタッ。


 ハザマ伯爵の言葉に反応したのはマナだった。


 実験体。そう、実験体だ。


 テラは嘗て、世界大戦(せかいたいせん)の時に人体実験を受けていたのだ。


 その事実に、マナの表情は怒りに染まる。しかし、怒りに震えるマナの拳をテラの掌が包み込む。


 「テラ?」


 「僕は大丈夫。だからマナも抑えて」


 そう言ってテラは静かに微笑む。その微笑みに、マナは怒りを静めて行く。


 椅子に座り直し、マナはテラに笑みを向けた。


 「ありがとう、テラ」


 「良いよ」


 テラはそっとマナの頭を撫でる。頬を赤く染めながらマナは心地良さそうに目を細める。


 それを笑みを浮かべながら見るハザマ伯爵とアトラ。


 「やはり中々良い関係の様だな」


 「呵々、そうだな」


 「少しだけ、安心したかな」


 ハザマ伯爵がぼそりと呟く。


 「安心?」


 「ん?ああ・・・・・・あの人体実験については俺は直接係わってはいなかったとはいえ、多少罪悪感はあったからな」


 遠い目をして語るハザマ伯爵。それを聞いてアトラは呵々と笑う。


 「過去は過去だ。どれ程悔やんだ所で過ぎたものは戻っては来ねえよ」


 「ああ、そう割り切れれば良いんだがな」


 過ぎ去った日々は戻っては来ない。時は流れ続ける。


 人はどんな人生を送ろうと、歩み続けるしかないのだ。


 そんな人生の中で後悔する事もあるだろう。しかし、それでも人は歩み続けるしかないのだ。


 時は流れ続けるものだから。時代は移ろう物だから。


 ハザマ伯爵はふっと静かに笑う。その笑みは少しだけ悲哀の色が浮かんでいた。


 過去は戻っては来ない。分かってはいても中々割り切れるものではないのだろう。


 「呵々、まあ其処は感情の問題かな」


 だからこそ面白い。アトラは薄っすらと口元を歪めて笑った。その笑みは愉悦を含んでいた。


 と、その時―――ドタドタと物音と共に勢い良く扉が開いた。


 「伯爵、大変です!町の入口で巨大なゴーレムが暴れています!!」


 「何だと!?」


 勢い良く椅子から立ち上がり、慌てて部屋を飛び出すハザマ伯爵。テラ達三人もそれに続く。


 町の入口へと走って行く途中、ドゴオッ!!という大きな音がした。


 町の入口に着いたテラ達は愕然とした。


 其処にはゴーレムだった残骸と、がっしりとした体格の真っ赤な髪の大男が居た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ