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最弱の不死者<イモータル>  作者: ネツアッハ=ソフ
最強の仲間
29/52

魔法遣いアトラ

 突然現れたその少年に、テラとマナの二人は同時に身構えた。


 しかし、少年はそんな二人を見て呵々(かか)と笑うのみ。戦意などは全く感じられない。


 「安心しなよ、儂はお前達の敵では無い」


 「・・・・・・・・・ならお前は何者だ?」


 テラはマナを庇う様に構える。マナだけは何が何でも守り抜く、そういう意志が感じられる。


 マナはそんなテラを不安そうに見詰める。これまでテラは幾度もマナを守って来た。


 しかし、その度にテラが代わりに傷付いてきたのだ。それがマナは心配でならないのである。


 そんな二人に少年は再び呵々と笑う。


 「呵々ッ、儂の名はアトラ―――魔法遣いのアトラだよ」


 「アトラ、そうか・・・お前がこの山に住むという魔法遣いか・・・」


 テラは一人、納得した様に頷く。魔法遣いアトラ―――


 魔道の山に千年前から住むと言う、古い魔法遣いである。テラの調べた情報によると、嘗て栄えた都の司祭の一族をその起源に持つとか・・・。


 其処までテラが思考を奔らせていると―――


 「呵々、良く調べた物だ」


 「・・・・・・・・・他人の思考を勝手に覗くな」


 朗らかに笑うアトラと面倒そうな顔をするテラ。そんな二人をマナは若干混乱した瞳で見る。


 「え?どういう事?結局この人は誰ですか?」


 「マナ、こいつが僕達が探していた魔法遣いだよ」


 テラは溜息混じりに説明する。マナはようやく納得したのか、ぽんっと手を叩いた。


 「つまり、この人を仲間にしたいという事ですか?」


 「・・・うん、まあそういう事だよ」


 テラは僅かに苦笑する。そんな二人を見てにやにやと笑うアトラ。


 何がそんなに面白いのか・・・。本当によく笑う男である。


 「まあ、此処で話をするのも何だし、家で茶でも飲みながらのんびり話でもするか?」


 「あー、うん、そう―――」


 そうだな、と言い掛けてテラは絶句した。其処は何時の間にか、山の麓の墓地では無く、山頂の山小屋の前だった。


 これにはマナも愕然としている。アトラは呵々と笑いながら山小屋の扉を開ける。


 「何をしている?早く入りなよ」


 「あ、ああ・・・」


 呆気に取られながらも、テラとマナは山小屋に入っていく。中に入って二度目の驚愕。


 山小屋の中に入った筈の二人は、とても広大な神殿の中に居た。


 「「・・・・・・・・・」」


 二人揃って絶句するテラとマナ。外から覗いた時、中は普通の山小屋に見えていた。


 しかし、中に入った途端、急に景色が変わったのだ。


 正確には、マナはこれに良く似た現象を知っていた。宮廷魔術師であるライラの許に向かった時、ドアを開けた瞬間別の場所に転移させられたアレである。


 しかし、あの時の現象と今回のこの現象は何処か別物の気がマナにはしてならなかった。


 例えばあの時の現象を空間転移とするなら、今回の現象は内部の空間を直接異界へと変えてしまう様な、そんな違いだろうか・・・。


 呆然と立ち尽くす二人にアトラは呵々と楽しげに笑う。


 「何を其処で立ち尽くしている?こっちだ」


 アトラに連れられてテラとマナは神殿内の一室に入って行った。その部屋の奥には一枚の絵画が飾られていた。


 その絵画を見て、テラは硬直する。額縁に飾られたその絵画には、一人の少女が描かれていた。


 テラはその少女の絵から目が離せずにいた。


 「綺麗な(ひと)だね、テラ」


 マナがぼそりと呟く。しかし、テラの返事が無い。


 「テラ?」


 「・・・・・・・・・母さん」


 「・・・え?」


 マナは思わず目と耳を疑った。確かにテラは絵画の少女を見て、母さんと言ったのだ。


 テラの覚えている最も古い記憶。当時赤子だったテラを、泣きながら森に置き去りにした少女の姿と絵画の少女の姿が重なったのだ。


 「間違いない、この(ひと)は僕の母さんだ・・・」


 「・・・・・・・・・テラ」


 マナはテラにどう声を掛けたものか迷う。どんな理由があれ、テラは親に捨てられたのだ。


 その心境は複雑だろう。


 一方、それを見ていたアトラはにやりと笑う。


 「やはり君は神様の子だったんだね」


 その嫌らしい笑みにマナは少しだけむっとする。


 「貴方にテラの何が分かるんですか!あんまり知った風な口を利かないで下さい!」


 「マナ?」


 テラは少しだけ驚いた。テラの知っている限り、マナは他者に対してあまり強い言葉を使わない。


 そんなマナがこうしてあからさまに怒りを見せているのだ。


 ・・・まあ、普段あまり強い言葉を使わないのも、今回こうして怒りを見せたのも、マナが優しいからなのだが・・・。


 ・・・あと、大好きなテラに嫌な笑みが向けられたと感じた事か―――


 アトラは再び呵々と笑うと、素直にマナに謝った。


 「ごめんごめん、別にそんなつもりは無いよ。けど、気に障ったなら謝るよ」


 「・・・・・・・・・」


 しかし、マナは不機嫌そうな顔で黙り込む。テラは苦笑しつつマナを宥める。


 「マナ、僕は大丈夫だから・・・」


 「・・・・・・・・・分かりました」


 マナは未だ不服そうな顔で頷いた。テラは優しげな笑みを浮かべて、マナを抱き寄せる。


 ぽんぽんっと優しく頭を撫でるテラに、マナは悲しげな瞳でそっと寄り掛かる。


 そんな二人をアトラはにやにやと見詰めながら静かに思う。


 "中々色っぽい関係の様だ"と・・・。


 ・・・・・・・・・


 数分後―――


 真っ赤に顔を染めるマナとにやにやと嫌らしい笑みを向けるアトラ。


 「いやいや、中々面白い物を見せてもらったよ」


 「・・・・・・・・・」


 「あの時の君の姿は中々に可愛いものだったよ」


 「・・・・・・・・・ううっ」


 只管アトラにいじられ、真っ赤な顔を俯かせるマナ。そんなマナにアトラは更に笑みを深める。


 テラは痛い頭を押さえ、溜息を吐いた。頭がキリキリと痛む。


 「アトラ、そろそろ話を始めたいんだが?」


 「ん?おお、そうだな」


 呵々と笑い、大きく逸れていた話を戻すアトラ。それを涙目で睨むマナ。


 更に酷くなる頭痛に顔を(しか)め、テラは再び溜息を吐きたくなる。


 (・・・・・・・・・嗚呼(ああ)、何て面倒な)


 もしかしたら、何れテラは胃に穴が開くかもしれない。・・・まあ、開いた所で不死のテラにはどうという事は無いのだが。


 閑話休題―――


 「まあ、君達が此処まで来た目的は大凡(おおよそ)理解している。魔王の許へ行くのに戦力が要るのだろう?その為に儂を仲間にしようと考えていると・・・」


 「・・・・・・・・・ああ、その通りだ」


 テラはやれやれと頭を振る。漸くまともに話が出来る―――


 そう居住まいを正した時―――


 『ギィヤアアアアアアアアアアアアッ!!!』


 「「!!?」」


 神殿の外から獣の絶叫の様な断末魔の音が聞こえた。驚いてテラとマナが椅子から立ち上がる。


 「ああ、如何やら来客が来ていたみたいだねぇ」


 そう言ってアトラはのんびりと椅子から立ち、神殿の外に出る。テラとマナもそれに続く。


 神殿の外に出て、テラとマナは驚愕した。外には全長二メートルは超える黒い大鷲が、傷だらけで絶命していたからだ。


 アトラは鼻歌を歌いつつ大鷲に近付き、その死体をつんつんと(つつ)く。


 「魔王の使者だね、これ」


 「は?」


 テラが間の抜けた声を出す。


 「いや、だからこれ魔王の使者だよ」


 「いや、そうじゃなくて何で魔王の使者がこんな所で絶命しているんだ?」


 それは至極真っ当な疑問だった。その疑問に対して、アトラは大鷲の死骸を無骨なナイフで解体しながら答える。


 「それはこの神殿が"神殿に害を成す者を殺す"という法則に守られているからだよ」


 法則操作―――それは魔法遣いが魔法遣いである所以(ゆえん)であり、真髄である。


 魔術師と魔法遣いの違いは世界の法則を操れるか否かにある。魔法遣いは世界の法に干渉する事で世界そのものを操るのである。


 その能力(ちから)は絶大と言えるだろう。


 つまり、先程の大鷲は神殿を害そうとしたが故に世界に殺されたのだ。


 「ああ、そうそう君達の仲間になるか否かだったね。良いよ、儂は君達の仲間になろう」


 アトラはそう言ってテラとマナに笑い掛けた。

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