魔道の山
現在、テラとマナの二人は王都から北の地に来ていた。北の地は少し肌寒く、空気も若干乾いていて人が住むには少しばかり厳しい。
「ねえ、テラ?私達、今何処に向かっているのですか?」
「ん、この先に魔道の山と言う山があって、其処に居る魔法遣いを仲間にしようと思ってね」
魔法遣い―――
魔術の領域を超え、世界の法則すら操る者。魔の法を操る者、それが魔法遣いである。
世界に魔術師は数居れど、魔法遣いは数少ない。稀少と言っても良いだろう。
「魔法遣い・・・」
マナは思わず息を呑む。
・・・まあ、それはともかく―――現在マナはテラの腕にしがみ付いていた。別にテラが居なくなる事を危惧した訳ではない。
なら、何故しがみ付くのか?
「なあ、そんなに此処が怖いのか?」
マナの身体がビクッと震える。・・・図星らしい。
そう、此処は如何にも何かが出てきそうな雰囲気が出ているのだ。
肌寒い乾いた風、ところどころに崩れかけの墓石が並んでいる。
そう、此処は墓地である。
古くから、魔道の山にはあの世に通じる門が存在すると考えられてきた。その為、この周辺に住む者達は山の麓に墓地を造ったのである。
「あの、そろそろ放してくれませんかね?」
「・・・・・・・・・」
マナは無言のまま、更に抱き付く。腕を通じてマナの体温とか胸の柔らかさとかを感じる。
正直気持ちが良いのだが・・・。テラは一つ溜息を吐く。腕が疲れてきた。・・・腕がだるい。
呆れるテラと、その腕に抱き付くマナ。
異変が起きたのはその時だった―――
『クスクスクス』
「っ!?」
マナの身体がビクッと震える。さあっと青褪めた顔でかたかたと小刻みに震えるマナに、テラは怪訝な顔をする。
明らかにマナの様子がおかしい。
「どうした?マナ?」
「い、今誰か笑いませんでした?」
「何だって?」
テラは更に怪訝な顔を深める。何を言ってるんだ?コイツ―――とでも言いたげな顔である。
しかし、次の瞬間その顔は緊迫した顔に変わる。
『あははははははははははははははははははっ!!!』
『きゃははははははははははははははははははははははははっ!!!』
『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!』
「「!?」」
今度はテラにも聞こえた。複数の笑い声、否、嗤い声が周囲を反響して聞こえてくる。
マナはガタガタと震えてテラにしがみ付いて離れない。
テラはそんなマナを庇いながら周囲を睨む。
すると、何時の間に囲まれていたのか、青白い霊魂の集団が周りを漂っていた。
「亡者の群れか・・・」
そう、此処は死後成仏出来なかった霊達が彷徨い続ける、一種の吹きだまりだったのだ。
死後も己の生に執着し、肉体を求めて彷徨う悪霊である。
『肉、肉、肉、肉、肉が来た』
『活きの良い肉が来た』
『どっちの肉体を奪おうか』
『男の目の前で、女の肉体を奪うのも良いなあ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
狂った様にゲラゲラと嗤う悪霊達。ピクリとテラの片眉が動く。
その瞬間、テラの顔から一切の表情が消えた。
「気に入らないな―――」
『何?』
ぴたりと嗤い声が止まる。悪霊達は訝しげにテラを見ている。
相変わらず、テラの顔に表情は無い。
「気に入らない、僕の前で僕の大切な人を奪うだと?」
地の底から這い上がる様な怒気を前に、悪霊達は僅かに退く。
しかし、退くには僅かに遅かった。
「―――るな」
ピシイッ
一斉に硬直する悪霊達。不気味な威圧感に、悪霊達が動きを奪われたのだ。
そして、ついにテラの怒りが爆発する。
「ふざけるなっ!!!」
怒号一喝。
テラの怒声は可視可能な波と成って、悪霊達を根源から"破壊"する。
その光景にマナは呆気にとられる。
それもその筈、テラの怒号一つで悲鳴を上げる暇もなく、悪霊達は消滅したのだ。
「テ、テラ?」
マナは恐る恐るテラの顔を覗き見る。それほど激怒したテラは怖かったのだ。
しかし―――
「うん?どうした?マナ」
もう怒っていないのか、テラは穏やかな顔をしていた。その優しげな笑みを見た瞬間、マナの心は安堵した。
安堵した瞬間、これまでの不安や恐怖心が行き場を無くし、マナの胸を締め付ける。
「テラ!!」
勢い良くテラの胸元に抱き付くマナ。その勢いに危うく倒れそうになるテラだったが、何とかぐっと踏み止まる。
わんわんと胸元で泣きじゃくるマナに、テラは苦笑しつつ抱き返す。
三十分後、ようやく泣き止んだマナが不思議そうな顔で問う。
「テラ?先程のアレは何ですか?」
「アレ?」
「えっと、テラの怒声一つで悪霊達が消え去った様に見えましたが・・・」
ああ、アレね・・・とテラは納得する。
「僕は只、"大規模破壊魔法"を行使しただけだよ」
「魔法!?」
マナは目を見開いて驚愕した。テラはこくりと頷き、補足説明する。
「まあ、僕の能力も関係しているんだけどね」
「テラの能力って、不老不死ですか?」
完全なる不老不死―――
決して老いる事もなく、死ぬ事も許されない。永遠の時を生きる彼に生死の概念は適応されない。
それがテラの能力の筈。
だが、テラは首を横に振ってそれを否定する。
「不老不死はあくまで僕の権能の上澄みなんだと思う。僕の本当の能力はもっと強大なモノだよ」
「っ!?」
遥か永い時を生き、その中で決して死ぬ事が出来なかったテラ。
その不死性ですら、テラの能力の一端でしか無いのだ。
どう声を掛けた物か、マナが迷っていると―――
「呵々、そうなのか」
何時の間にか、テラとマナの隣に黒い外套を羽織った少年が居た。




