旅立ち
「・・・・・・・・・」
夜の零時頃、テラは自室のベッドに横になりながら考え事をしていた。
―――僕とマナは共に生きられないのではないか―――
そればかりが頭の中をぐるぐると堂々巡りしていた。テラとマナは寿命が違う。
片や永遠を生きる不死者、片や普通の人間―――共に生きるなど不可能ではないのか?
そもそも自分はマナの死に耐えられるのか?
「・・・・・・・・・寝よう」
結局、答えなど出る訳もなく、そのまま眠りに就いた。
・・・・・・・・・
「やあ、中々オモシロオカシク想い悩んでいる様じゃないか」
突然現れ、ゲタゲタと笑いながら仮面のてらは話し掛けてくる。テラは何も言わずに、只真っ直ぐにてらを見据える。
「マナが死ぬのが嫌なら、彼女を不死にすれば良い。テラの能力ならそれが出来るだろうに」
―――・・・・・・・・・―――
テラは黙り込み、目を逸らす。
「自分の能力の正体くらいとっくに気付いているんだろう?」
何も言えない。自分の心の内を見透かされ、テラは何も言う事が出来ない。
「マナに不死の苦しみを与えたくないってか?まだ不死の苦しみを味わうのは自分だけで良いと?なるほどねえ」
てらは仮面越しににやにやと嗤いながらテラを見る。
「まあ、それも何れ杞憂に終わるけどな・・・」
・・・・・・・・・
其処で目が覚めた。
空は白み始めたばかり。まだ、ほとんどの者が寝ているだろう。
「・・・・・・・・・」
確かに、テラの能力ならマナを不死にする事が出来るだろう。マナと永遠に共に居続ける事が出来るだろう。
テラにはそれだけの能力がある。それだけの権限がある。
だが、それが本当に幸せなのか?不死の苦しみをマナに押し付けるだけではないのか?
分からない。解らない。ワカラナイ。
ワカラナイ―――
「僕も、死ねる人間だったら良かったのに」
その呟きは誰に聞かれる事も無く虚空に消えた。
・・・・・・・・・
時刻は七時半―――
マナは朝起きると、服を着替え、身支度を整えた後すぐにテラの部屋へと行く。魔王の遣い、白鴉が現れてからテラは城の一室に隔離されていた。
もちろん理由はテラを守る為だ。それに敵は魔王だけではない。
事実、この前も暴走した一部の貴族達によってテラが襲撃された事もあった。
その一件でテラの護衛がより強固になっている。
(けど、テラも一人では心細い筈。こういう時こそ一緒に居てあげないと)
そう強く決意し、テラの部屋の前に立つ。部屋の前には二名の騎士がドアを挟む様に立っている。
マナは騎士達の許可を取り、ドアを開けて貰う。しかし、部屋の中を見て愕然とした。
部屋の中には誰も居なかったのだ。
・・・・・・・・・
王都の側にある高台にテラは居た。高台から空を見上げながらテラは不意に呟く。
「よお、中々遅かったな・・・。いや、早かったのかな?」
「・・・・・・・・・お前、俺達が来る事を分かっていたな?」
テラの背後にはドラコとマナの二人が居た。ドラコは若干不満気な顔をしており、マナはとても心配そうだ。
マナの手には、テラが部屋に残しておいた書き置きが握り締められている。
その書き置きにはこう書かれていた―――
"魔王と交渉してきます。探さないで下さい"
なるほど、中々ふざけている。これで探すなと言う方が無理な話だ。
「テラ、もうこれ以上無茶はしないで下さい。さあ、もう帰りましょう」
マナは必死に帰るよう諭す。しかし、テラは黙って首を横に振る。
「それは出来ないな。もしも、王国と魔王の間に戦争が起きたら、多くの命が失われる。それだけは避けなければならない」
「それは・・・」
マナは言葉に詰まる。そう、戦争なのだ。
戦争が起きれば多くの無辜の民の命が失われるのだ。それを避ける為には、どの道魔王の許にテラが行かねばならないのだ。
「・・・・・・・・・また、お前は一人だけで行くつもりなのか?」
もしもそのつもりなら、全力で止める。そんなドラコの意志を感じ取り、テラは苦笑する。
「まさか、今回はそのつもりは無いよ。只、ドラコとマナは王都に残ってて欲しいかな」
「っ!?」
その言葉にはマナはショックを受けた様だ。目は僅かに涙で潤んでいる。
その絶望した様な顔にテラは胸が締め付けられる様な気がした。だが、それでもテラは言った。
「ごめん、けど君を連れて行く訳にはいかないんだ・・・。僕は君の死を見たくない」
それこそがテラの本音だった。テラは永遠の命を持つが故に、大切な人の死を極端に恐れる様になっていたのだ。
そんなテラに、ドラコは鋭い目付きで問う。
「テラ、お前まさか魔王との交渉を終えた後、何処かへ消えるつもりじゃないだろうな」
「っ!?」
ドラコの言葉にテラは息を呑む。まさかそれを今、気付かれるとは思わなかった。
"せめて気付かれたのがもっと後なら"
そう思った時―――
「嫌・・・」
「マナ?」
「嫌!嫌!!テラが居なくなるなんて嫌!!テラが消えるなんて嫌あっ!!!」
マナの悲鳴が響く。テラが居なくなると知ってマナの絶望が限界に達したのだ。
これには流石のテラとドラコの二人も動揺した。
「マ、マナ!落ち着け!!」
「嫌っ!!テラが居なくなるなんて、私耐えられない!私、此処から飛び降りて自殺する!!」
「なっ!?」
余りに過激な発言にテラとドラコは一瞬硬直する。しかし、固まっている場合では無い。
マナは今まさに高台から飛び降りようとしているのだ。この高台から飛び降りれば、間違い無く只では済まない。
人間など簡単に死んでしまうだろう。テラは慌ててマナを羽交い締めして食い止める。
「嫌!放して!!此処から飛び降りるの!!」
「分かった!分かったから!僕はもう居なくなったりしないから!!」
「嘘よ!そんなの―――んむっ」
テラは、マナを無理矢理自分と向き合わせ口付けした。深く、長い口付けの末、マナはようやく落ち着いたのか、頬を朱に染めてぼんやりとテラを見ている。
「僕はもう居なくなったりしないから、だからお願いだから自殺だけはしないでくれ」
「・・・・・・・・・本当に?」
「ああ、本当だ」
そう言った直後、マナはテラに抱き付きわんわん泣いた。
・・・・・・・・・
「本当に二人だけで良いんだな?」
「大丈夫だ。其処は一応考えがあるから」
「そうか」
結局、テラはマナと共に旅立つ事になった。と、いうよりマナがテラから離れようとしないのだ。
今も、マナはテラにぎゅっとしがみ付いている。
「じゃあ、王都の方は頼んだ。行ってくる」
そう言ってテラはマナと共に旅に出た。
これがテラがこの世界に来てから初めての冒険である。




