番外6 思わぬ再開
―――テラを魔王陛下に献上しろ。
魔王の遣いの白鴉が現れた事で、城の中は混乱した。今すぐテラを魔王の生贄にするべきだと言う一部の貴族たちと、魔王と徹底抗戦するべきと訴える騎士達が連日言い争っていた。
もちろん、スカーレットとマリアの二人はテラを守る為、徹底抗戦の意を示した。
しかし、その意向に貴族達は納得しない。たった一人の為に国を滅ぼす気なのかと騒ぎだす始末。
・・・要するに、保身に走った貴族達がテラを生贄に自分達は助かろうと言う腹積もりなのだ。
それを理解した王と王妃は貴族達の堕落ぶりに頭を抱えた。
一方のテラは現在、魔王の遣いから守るという名目で部屋に閉じ込められていた。
魔王が何を企んでいるのか分からない以上、テラを奪われる訳にはいかないと言うのがスカーレットの言い分だ。
仮に外に出られたとして、ドラコを含む最精鋭にガッチリと警護をさせるのだから徹底している。
「暇だ」
「我慢しなさい」
そのおかげでテラはかなり暇を持て余していた。暇だとぼやいてみるも、ドラコに適当にあしらわれてしまう。
やる事といえば、偶に来るマナやドラコと会話をするぐらいだ。もはや、ほとんどやる事が無いのだ。
「すみません、テラ。・・・けど、どうか我慢して頂けないでしょうか?」
マナが何とも申し訳無さそうな顔でそう言う。本当に申し訳なさそうに・・・。
「・・・・・・・・・」
テラは苦々しい顔で黙り込んだ。マナにこんな顔で頼まれては断るに断れない。どうも、テラはマナに弱いのだ。
諦めて不貞寝でもしようとした、その時―――
ドアをノックする音が聞こえ、その後ドアの向こうからテラにとって意外な人物が現れた。
「やあ、久しぶりだな名無し君。いや、今はテラと言ったかな?」
白髪混じりの褐色の髪に細くがっしりとした体格、鋭い目付きに白衣をだらしなく着崩した男が騎士達に連れられ、テラに笑みを向けていた。
しかし、当のテラは愕然とした顔で男を見ていた。当然だ、彼は―――
「アマギ・・・博士・・・」
アマギ=エンビ、嘗て不死の研究に携わりながら、不死者であるテラの理解者だった男である。
・・・・・・・・・
王都南の商業区、その一角にある酒屋"バッカス"に彼等は居た。
テラ、ドラコ=ラース、アマギ=エンビの三人である。彼等は現在、酒を飲みながら歓談していた。
マナは現在政務の為、此処には居ない。酒屋は現在三人の貸し切りだ。
と言うか、主にアマギが酒を浴びる様に呑み、爆笑しながらテラの過去を語っていたのだが。
「いやー、酒も美味いし、店の姉ちゃん達も綺麗だし此処は実に良い店だな!!」
「・・・・・・・・・」
先程からアマギは酒を飲んで、店の女性店員にセクハラをして、テラの過去を話して、とかなりのマイペースぶりを発揮している。
・・・こいつ、こんな奴だったっけ?
「いや、それよりもお前何で生きているんだ?確かに博士はあの時死んだ筈だよな?」
「ああ、あの時の事か。確かに俺はあの時に死んだな」
「なら―――」
何故?と言い掛けるテラをアマギは片手で制する。その顔は真剣そのものだ。
その目付きの鋭さに、テラもドラコも思わず息を呑む。
「確かに俺はあの時、お前の目の前で死んだ。それは間違いの無い事実だ」
アマギは其処で一旦言葉を切る。そして目の前のジョッキ一杯のエールを一気に煽る。
「ふうっ、だが俺は此処に居る。俺は輪廻転生と言う物を経験したんだよ」
「輪廻、転生・・・?」
「そう、俺はアマギ=エンビの生まれ変わり、転生者だ」
しんっと店内が静寂に包まれる。誰も言葉を発しない、いや、発せない。
転生者。その言葉に、誰もが愕然とする。女性店員も口元を手で押さえ、驚いた顔をしている。
そんな中、アマギはエールをぐびりと飲み干し、ちらりと店の外に目をやる。
「ちっ、もう来やがったか・・・」
「!?」
その瞬間、酒屋の扉が乱暴に開け放たれ、複数人の男達が雪崩れ込んで来た。
三人は男達に一気に囲まれる。
「お前がテラだな?一緒に来てもらうぜ」
そう言いテラに向かって来る男。其処に女性店員が駆け付ける。
「こっ、困ります!本日は貸し切りで―――きゃっ!?」
駆け付けて来た女性店員を男の一人が突き飛ばす。突き飛ばされた女性店員はそのまま床に頭を打ち付けて気絶した。
「・・・・・・・・・」
テラ、ドラコ、アマギの三人の闘志に火が着く。店内を殺気が満たす。
テラがちらりとアマギの方を見る。
「博士、奴等の事を知っているのか?」
「こいつ等の事は知らん。只、貴族共がテラの事を捕らえたがっているらしくてな・・・」
つまり、この男達は貴族達の差し金らしい。貴族達の堕落ぶりにドラコが舌打ちする。
やがて痺れを切らした男達が動く。男の一人がテラに掴み掛かって来たのだ。
しかし、その男の腕をアマギが掴み、軽く捻る。
「ぐあっ!!」
「貴様っ!抵抗するなっ!!」
「ちっ!殺っちまえっ!!」
男達が三人に向って一斉に掛かって来る。一人がナイフを抜き、テラに襲い掛かる。
だが、テラは其処から微動だにしない。
「死ねえっ!!!」
そのナイフがテラに届く寸前、パアンッという何かが弾ける様な音と共に刃が弾き飛ばされる。
見ると、アマギの手に何か良く分からない物が握られていた。筒状の先端から煙が出ている。
この世界の者が知らなくても当然だ。何故ならそれはこの世界にある筈の無い武器だからだ。
リボルバー式拳銃とオートマチック式拳銃、この世界に在る筈の無いまごう事なき異世界の武器。
「くそっ!何だ、何なんだ!!ソイツはっ!!」
自分達の全く知らない未知の武器、それを前に男達は恐慌状態に陥る。そのまま男達はアマギ一人の手によって鎮圧される。
その後、騒ぎを聞き付けて駆け付けて来た騎士達によって男達は捕らえられた。
余談だが、その後の尋問により男達の背後に居た貴族達は全員爵位を剥奪され、国家反逆の罪で投獄されたと言う。
・・・・・・・・・
現在、テラとアマギの二人は王都の側に在る高台に来ていた。アマギがテラと二人で話したい事があると言ったのだ。
それに対しドラコはかなり渋った物の、テラの口添えもあり何とか許された。
「で、一体僕に何の用だ?」
「・・・・・・・・・」
とは言った物の、先程からアマギは黙したまま一向に話そうとしない。
・・・恐らくはこの話をする為にテラに会いに来たのだろうが、アマギは黙り込んだままだ。
たっぷり半時間は経ったたろうか、ようやくアマギが口を開く。
「マナって言ったっけか?あの姫様。テラは姫様の事が好きか?」
「何だ、藪から棒に」
テラは怪訝な顔をする。しかし、アマギは何処までも真剣な顔で再度問う。
「良いから答えろよ。テラは姫様の事が好きか?」
「・・・大好きさ、愛している」
「そうか・・・」
そう言って、アマギは再び黙り込む。訳が分からずに怪訝な顔をする。
そんなテラにアマギは神妙な目付きで言った。
「なあ、テラ。人間の命は有限だ。けど、人ならざる者の血を継ぐお前は、神の命を持つお前は無限に生き続けるだろう。お前はそれに耐えられるのか?」
「・・・・・・・・・」
テラは其処でアマギの言いたい事に気付いた。つまり、アマギはこう言いたいのだ―――
「テラは大切な人の死に耐えられるのか?」
此れまで、遥かに永い時を生きて来た中で、自分は様々な人と会って来た。しかし、その誰もが自分と共に居続ける事が出来なかった。
はたして自分は愛する人の死に耐える事ができるのか?
愛する人の死に耐えられるのか?
「分からねえよ・・・」
テラはそう答えるしか出来なかった。




