番外4 不死の研究
第二次世界大戦半ば―――
戦争が激化していく中、ソレは密かに行われていた。
日本のとある地方、地下深くに作られた巨大研究施設。表向きは戦争に勝利する為の兵の強化。
しかし、裏は不死の魅力に憑かれた狂気の研究。
そう、これは人間が不死に至る為の研究である。
研究主任はサイトウ=ゴウマ。誰よりも狂気に憑かれた、恐るべき研究者である。
副主任はアマギ=エンビ。研究者として優秀だが、何処かやる気のない研究者である。
そして、この研究の重要な研究資料として彼、名も無き不死者は居た。
「・・・・・・・・・暇」
「気持ちは分からないでもないが、口を慎みたまえ。何処で誰が聞いているか分からん」
「そう言ってもだねアマギ博士、暇な物は暇なんだよ。只々身体をいじくり回されるだけの、そんな日々なんて何処が面白いんだか」
「・・・・・・・・・分かっているよ、名無し君。けど、今は耐えてくれとしか言えんのだ」
不死者の事を名無し君と呼ぶのは、アマギ=エンビ。不死の研究に携わる者であり、不死者の理解者でもある。
見た目は白髪混じりの褐色の髪に、細くがっしりとした体格。鋭い目付きをしており、白衣をだらしなく着崩した中年の男である。
ちなみに不死者は現在、拘束衣を着た上に鎖でがっしりと繋がれている。
万が一にも逃げ出さない様にする為である。
しかし、これでは本当に扱いが酷い。モルモット以下だ。
人としての尊厳など皆無だ。否、不死者である彼の事を人と認識している者など、目の前のアマギ博士以外はいないだろう。
そう、皆彼の事を死なない化け物としか見ていない。只一人、アマギ博士を除いて・・・。
「まあ、感謝はしてるけどさ。僕の事を理解して、こうして話し相手になってくれているんだからね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アマギ博士はぐっと黙り込む。それはつまり、理解はしてても話し相手にしかなれていないという事なのだから。
その一点は申し訳無く思っていた。
理解はしてやれても、何も出来ない自分が歯痒かった。
理解しているだけでは現実には敵わない。そう告げられている様だった。
「大丈夫だよ」
「・・・はっ?」
唐突に掛けられた言葉に、アマギ博士は呆けた声を出す。対する不死者は精一杯の笑顔を向けて言う。
「博士がこうして僕の事を理解して相手してくれる、それだけで僕は感謝しているんだから」
「っ!?」
アマギ博士は思わず言葉に詰まった。悲しくなるくらいに純粋だった。
そう、純粋なのだ。彼は純粋すぎるのだ。
それ故に、とても危うい。
(こいつだけは絶対に守り通す)
この時、アマギ博士はそう誓った。
それ以来、不死者とアマギ博士は毎日の様に話をした。
世界の情勢の話からたわいのない話まで、様々な事を話した。
時は過ぎ、大戦も末期に差し掛かる。更に激しくなる空襲に焦りを募らせたのか、研究は更に非人道的になっていく。
それでも、毎日の様にアマギ博士が話し相手となってくれたから、不死者は耐えられた。
だが、ある日の事。この日はいつもと違った。
何時まで経ってもアマギ博士が来なかったのだ。
「・・・・・・・・・暇」
不死者は不満げにぽつりと呟く。身動ぎと共に、じゃらりと鎖が揺れ動く。
鎖に繋がれている為、僅かな挙動しか許されない。
「・・・・・・・・・」
一つ、注釈を加えておくとアマギ博士に見せた純粋さは不死者にとって処世術の一つでしかない。
嘘を吐いている訳ではない。謂わば生きる為に必要な仮面<ペルソナ>なのである。
生きる為には環境に適応しなければならないのである。
しかし、今は此処には不死者以外に誰も居ない。不意に不死者の顔が純粋でも何でも無い、無機質な表情に変わった。
その瞳はぼんやりと虚ろで、深淵の様に暗い。この顔こそが永い時を孤独に生きた者の本当の貌なのである。
「・・・・・・・・・寂しい」
ぽつりと、不死者の本音が漏れる。と、その時―――
「大変だっ!アマギ博士が裏切ったぞ!!」
「早急に捕らえて射殺しろ!!」
「!!?」
どたばたと慌ただしく駆け回る音と共に、驚くべき話が聞こえる。
アマギ博士が裏切った―――
それは一体どういう事なのか?
しかし、考えている時間など無い。早くしなければアマギ博士が射殺される。
不死者は一切躊躇う事無く、自らの身体を隠し持っていたナイフで引き裂いた。
・・・・・・・・・
何とか脱出に成功した不死者は現在、研究員に見付からない様に隠れながらアマギ博士を探していた。
自分が脱走した事はとっくにばれているだろう。事実、武装した警備兵の数は増えている。
それでも何とか、見付からない様に隠れながら進む。気配を殺し、息を潜めながら・・・。
やがて、不死者は床に血の跡が続いているのを見付ける。
直感で理解した。アマギ博士の血だ。
不死者はゆっくりとその血痕を辿って行く。
これだけの血液の量だ。アマギ博士はきっと無事では無い筈。急がねば。
次第に歩く速度が速くなっていく。
やがて、不死者は広場へと出た。
其処にはアマギ博士の姿が確かにあった。
しかし、博士は全身血に塗れており、ぼろ雑巾のように酷い状態で倒れていた。
その姿を見た不死者は思わず絶叫を上げた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」




