黒幕の存在
夢を見ていた・・・。
かつて自分が小さかった頃、出会った少年と共に森の中を駆け回った記憶。
とても楽しかった。いつまでも遊んでいたかった。
・・・・・・・・・きっと。
きっと、私は彼の事が好きだったのだろう。
「うっ・・・んん?」
「目を覚ましたか?」
マナが目を覚ますと、目の前すぐ側にテラが居た。・・・いや、違う。
目の前にはテラの背中、テラから漂ってくる彼の匂い。其処でマナは自分がテラに背負われている事を理解した。
「!!?」
マナは慌てて起き上がろうとする。それをテラがやんわりと抑える。
「落ち着いて。今は黙って背負われていなさい」
「・・・・・・・・・」
マナは頬を薄っすらと朱に染め、黙り込んだ。そして、黙ってその腕をテラの首に回す。
と、其処ではたと気が付いた。
「あれ?ドラコは?」
「ああ、ドラコなら王へ報告しに、先に帰ったよ」
テラのその何気ない一言に、マナはビクッと震える。・・・まあ、それも当然だろう。
マナ達はスカーレットに黙って森へと来たのだ。怒られない方がおかしいだろう。
「大丈夫だよ、マナ。大丈夫」
そんなマナに、テラは大丈夫だと優しく言葉を掛ける。その時、二人の耳に馬の嘶きが聞こえ、遠くから二頭の馬と、それに乗った二人の人物が駆けて来た。
騎士王、スカーレット=クルツ=アストゥルと王妃、マリア=クルツ=アストゥルである。
「「マナ!!」」
テラとマナの二人を視認したスカーレットとマリアは慌てて駆け寄って来る。二人の視線はマナに注がれている。
「マナ、大丈夫か?」
「はい、お父様。少し疲れただけですから」
そう言い、マナは薄っすらと微笑んだ。その言葉に一先ず安心したのか、王と王妃はほっと息を吐いた。
「本当に、とても心配したんですからね。マナ」
「っ、ごめんなさい、お母様・・・」
マナは顔を伏せて謝る。マリアの目には僅かに涙が見える。
本当に心配したのだろう。
「・・・・・・・・・」
その光景をテラは黙って見ている。その瞳は何処か寂しげでもある。
そんなテラにマリアはふっと笑みを向け、手招きする。
きょとんっと呆けるテラにマリアは優しげに微笑む。
「あなたも、本当に心配したのですよ?本当に、無事で良かった」
「っ!?」
その言葉にテラは思わず息を呑む。見ると、スカーレットもテラに優しい笑みを向けていた。
どうやら、本当に心配していたらしい。
心配、してくれていたらしい―――
「・・・ありがとう」
テラは心の底から安堵したような笑みを零し、そう呟いた。
・・・・・・・・・
極西の孤島―――
地底城サタナエル―混沌の座―
鬼火の揺らめく石造の暗室。
其処に一人の人間、否、魔王が座していた。この者こそ全ての魔を束ねる大魔王、―絶対悪―アザトホートである。
アザトホートは、その右掌に持った水晶玉に映った映像を視て嗤っていた。水晶玉に映っているのはテラの姿である。
先程まで、この魔王はテラ達とネロの戦いを、水晶玉を通してずっと観戦していたのである。
「ふむ・・・面白いな。・・・やはり」
アザトホートが一言発した、それだけで部屋を照らす鬼火が大きく揺らめく。
彼の放つ一言一言が圧力を持っている。常人では彼と会話をするどころか、目の前に立つ事すら不可能である。
そんな魔王の前に、何時の間にか漆黒の騎士甲冑を着た少女が一名、姿を現した。
「マリーか・・・」
「アザトホート様、兵の準備が整いました」
マリーと呼ばれた漆黒の騎士は淡々とした声音でそう告げた。
その言葉に、アザトホートは凄絶に笑う。
「そうか。なら、マリーはそのまま十万の兵を率い龍の国を攻めよ」
「っ!?では、その間のアザトホート様の警護は!?」
「俺は大丈夫だ。それに、此方は此方でやる事がある。だから、龍の国の攻略は任せた」
動揺し、声を荒げるマリーにアザトホートは笑い掛ける。その笑みにマリーは声を詰まらせる。
「大丈夫、俺は大丈夫だから」
「・・・・・・・・・分かりました、アザトホート様」
マリーは尚も不安そうな顔でアザトホートに跪く。
「・・・・・・・・・」
アザトホートは不意に椅子から立ち上がると、マリーの側へと歩み寄った。
そして―――
「!?」
マリーを優しく抱き締めた。突然の事に、マリーは硬直する。
そんな彼女を優しく撫でつつ、アザトホートは言った。
「大丈夫だ。俺は強いから、もしもの事があろうと何とかして見せるさ」
「・・・アザトホート・・・様」
マリーは縋り付くようにアザトホートに抱き付いた。アザトホートはそんな彼女を抱き寄せ、魔王としての覚悟を瞳に宿す。
「必ずや世界を平定し、統一して見せよう」
―――二度とマリーを泣かせない為に・・・。
・・・・・・・・・
事件はその日の夜に起きた。
王城、玉座の間に突如、白い鴉が現れた。
『ぎゃはははははははははぁっ!!魔王陛下からの御言葉だ!心して聞きやがれっ!』
「!!?」
突如現れた白い鴉に、その場は一気に警戒に包まれる。中には剣の柄に手を掛けている騎士も存在した。
しかし、それを白鴉は全く気にも留めずに用件を言った。
『半年以内にテラを魔王陛下に献上しろ!さもなくば全面戦争だ!!!』
その言葉に更に場は騒然とする。しかし、言いたい事を伝えた白鴉はそのまま満足して消え去って行ったのだった。




