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最弱の不死者<イモータル>  作者: ネツアッハ=ソフ
心の闇
22/52

克服

 「・・・・・・・・・」


 迷いの城、その跡地でテラ達三人は立ち尽くしていた。それと言うのも、城へと来た本来の目的を果たせていないからだ。


 そう、テラ達はまだネロを倒してはいない。その肝心のネロが何処にも居ないのだ。


 「・・・・・・・・・もしかして、城と一緒に吹き飛ばしちゃった、とか?」


 「「・・・・・・・・・・・・」」


 マナがぽつりと呟く。その呟きに、テラとドラコは無言で返す。


 もし、それが本当だとすれば余りにも呆気なさすぎる。流石にこれは同情してしまう。


 相手は敵だが・・・。


 しかし、どうやらそれは杞憂だったらしい。


 「やれやれ、まさか城を吹き飛ばすなんてね」


 「「「!?」」」


 突如吹き荒れた突風と共に、黒魔術師ネロは出現した。住処を破壊された為か、その表情は怒りと敵意に満ちている。


 突然出現した敵にテラ達三人は一斉に身構える。


 当のネロは突風を身に纏い、空中に滞空しながら三人を見下す。


 「フンッ、まさか龍の血を引く者が交ざっているとはねえ」


 ネロの薄紫の瞳がドラコの方を向く。


 思わずテラもドラコの方を向く。


 「ドラコ?」


 「今は敵に集中しろ」


 ドラコはそれだけ言うと、片手をネロに向けて掲げる。その手に輝く魔法円が浮かび上がるのと、ネロが動くのは同時だった。


 「させないよ!!!」


 瞬間、ドラコを漆黒の靄が取り囲んだ。


 「こんな物!・・・ぐっ!?」


 黒い靄を無理矢理振り解こうとするも、ドラコは急に力が抜けた様に片膝を地に付ける。


 どうやらこの黒い靄に力を喰われている様だ。


 「ドラコ!?」


 テラがドラコに近寄ろうとした瞬間、ドサッとマナが倒れた。


 見ると、マナの周囲を黒い靄が取り囲んでいる。


 「マナ!!?」


 「そいつは亡者の魂を魔物に変質させた物さ。取り憑いた者の体力や精神力を喰う力を持つ」


 ネロがクックッと笑う。同時に黒い靄からゲラゲラケタケタと嗤い声が響く。


 ネロが得意とする魔術は主に二種類ある。精神に作用する幻覚魔術、そして魔物と契約し使役する使役魔術だ。


 特にネロは亡者の魂を素に新たな魔物を作り出し、これを使役する事に長けている。


 余談だが、この事からネロは仲間達から創作者<クリエイター>の称号で呼ばれている。


 閑話休題―それはともかく―


 「・・・・・・・・・」


 テラの周囲をおぞましい嗤い声と共に黒い靄が取り巻く。この靄に取り憑かれればテラも只では済まないだろう。


 だが、テラはそれでも屈せずにネロを真っ直ぐに睨み付ける。


 そんなテラにネロは一瞬不服そうな顔をするが、次の瞬間にやりと嫌らしい笑みを浮かべる。


 「そうかい、そんなにトラウマを呼び起されたいかい!!!」


 そう言ってネロがパチンっと指を鳴らすと、突如血の様に赤い瞳の一つ目を持つ黒い靄の魔物が一匹出現した。


 その魔物を見て、テラは目を見開く。それは以前、テラを昏睡状態に追い込んだ化物である。


 「行け!!」


 ネロの声に弾かれた様に、一つ目の魔物はテラへと襲い掛かり、一息に取り憑いた。


 テラの脳裏を膨大なトラウマが一気に流れ込む。魔女の嘲笑する声が聞こえる。


 「ぐっ、あ・・・」


 ああ、やはりこれはきつい―――


 人から虐げられるのは嫌だ。


 親しい人が虐げられるのも嫌だ。


 親しい人が先に死んで行くのも嫌だ。


 嫌だ嫌だ、独りは嫌だ。


 けど、だけどそればかりじゃない。


 あの人も。あの人達もきっと、それなりに満足して死んで行ったんだと思う。


 きっと、自身の意地を通して、必死に生きた結果には満足していたと思う。


 だって、皆笑っていたから・・・。


 最後は笑って死んで行ったから・・・。皆、笑っていたから・・・。


 だから、だからこそ僕も必死に生きて行かなければいけないんだ!!!


 「う、あああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 テラは渾身の意地と根性で一つ目の魔物を自身の内から追い払う。


 テラの中から追い出された魔物は苦悶の絶叫を上げた後、そのまま霧散して消滅した。


 「・・・・・・・・・馬鹿な!!!」


 ネロは思わずそう呟いた。


 一つ目の魔物は正の感情に弱い。テラの身体から追い払われる時、恐らくはかなり正の感情を浴びたのだろう。


 その事事態は驚愕に値しない。本当に驚いたのはもっと別の事―――


 以前はあっさりと術中に嵌り昏睡状態にまでなったのに、一体あの短期間の間に何があったと言うのか。


 分からない。分からない。ワカラナイ。


 考えれば考える程、ネロの頭は混乱してくる。


 そして、その混乱している一瞬の隙さえあれば十分だった。


 「ドラゴンブレス!!」


 一条の閃光と轟く轟音。その跡には怒りに顔を染めたドラコの姿があった。


 どうやら無理矢理魔物を引き剥がしたらしい。


 閃光の余波を受けたのか、マナに取り憑いていた魔物も一緒に消し飛んだようだ。


 「有り得ない。そ、そんな馬鹿な・・・」


 わなわなと、身体を震わせながらネロは呟く。


 ドラコとマナに取り憑いていた魔物は体力や精神力を喰う化け物だ。つまり、ドラコは体力と精神力を喰われながらも其処から更に力を振り絞ってあれ程の技を行使した事になる。


 それがどれ程馬鹿げた事かは考えるまでもないだろう。


 「形勢逆転か・・・」


 「くっ、まだだ、召喚―――来い!我が魔の軍勢よ!!」


 テラの呟きに逆上したネロが、大量の魔物を召喚する。それは正しく魑魅魍魎の群れと表現するに相応しい光景だった。


 しかし―――


 「下らねえな」


 ドラコはそれを軽く一蹴し、魑魅魍魎の群れと共にネロをドラゴンブレスで焼き払った。


 ネロは言葉を発する間もなく、静かに閃光の中に消えて行った。

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