覚悟
ナナシの森の奥深く、迷いの城。
この城には森の魔女と恐れられる魔術士が住んでいる。
迷いの城とは、その本来の構造と幻覚、空間魔術により一度入れば二度と出られず、そして決して主の許には辿り着けないと言われる魔の城である。
そして森の魔女ネロ。魔王の手下の中では下っ端だが、精神系魔術を得意とし、その腕は宮廷魔術師にも匹敵すると言われる。
現在、彼女は城の奥で遠見の水晶玉と言う魔道具を前に舌打ちをしていた。
「まさか、あの状態から復活するとはね。まあ良い、次の手を考えるとしよう・・・」
そう言ってネロはその目を閉じ、思考に没入する。水晶玉にはテラの姿が映っていた。
・・・・・・・・・
テラの精神世界、神域の森の中。その開けた場所にテラとてらは立っていた。
「よお、また会ったな」
「・・・・・・・・・てら?」
テラは目の前に立つてらの顔を見てきょとんっとする。そして数秒後、ようやく此処が夢の中だと悟る。
てらは仮面越しでも分かる程不敵な笑みを浮かべる。・・・と言うか、仮面が若干形を変え、不敵な笑みを浮かべている。
テラが若干引いていると、てらは急に真顔になり告げた。
「テラも既に理解しているだろう?あのネロと言う魔女の事を」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの魔女も既にテラが目覚めた事には気付いているだろう。覚悟はしておきなよ」
そう言っててらはすうっと消えて行った。
「覚悟、か・・・」
テラはその瞳に僅かな憂いを浮かべ、呟いた。
・・・・・・・・・
朝、テラが目を覚ますと隣にはマナが静かに寝息を立てて寝ていた。そんなマナの姿に、テラはふっと微笑んだ。
昨夜もマナはテラの部屋に来て、互いに深く求め合った。
・・・恐らく、城の者達は既に二人のこの関係には気付いているだろう。それでも何も言ってこないのは単に、城の皆がテラの事を認めているからだ。
「・・・・・・・・・」
ふと、テラの表情が曇る。しばらく何事か考えた後、テラは静かに立ち上がり部屋を出て行った。
しばらくして、ようやく目を覚ましたマナは隣にテラが居ない事に気付く。
「テラ?」
名を呼んでみても当然何の反応もない。きょろきょろと周りを見回してもその姿は何処にもない。
マナは次第に不安になってくる。
「テラ!!」
マナは焦燥のまま部屋を飛び出す。その後、城の中を探し回ったが何所にもテラは居なかった。
王城を飛び出し、町中を探し回ってもその姿を見付けられなかった。
途方に暮れたマナの脳裏に高台の光景が浮かぶ。マナは一も二もなく高台へ向かう。
何故、其処で高台が頭を過ったのかは分からない。もしかしたら、人ならざる何者かの導きがあったのかも知れない。
はたして、其処にはテラの姿があった。
「テラ!!」
「マナ?」
マナはテラの姿を見付けるとだっと飛び付き、そのまま抱き付いた。その勢いにテラはよろけるが何とか踏み止まった。
テラは困惑した顔で、マナに問い掛ける。
「何故マナが此処に?」
「それは此方のセリフです!テラが急に居なくなって私、心配したんですよ!?」
テラに抱き付いたまま、マナは涙ながらにそう言った。その言葉にテラは苦々しい顔をする。
此処から先にマナを連れて行く訳にはいかない。何よりテラはマナの傷付いた姿を見たくない。
「心配をかけたのはごめん。けど、マナはこのまま王城に帰ってくれないか?」
「そんな!テラは一体何処に行こうとしてるのです!?」
「・・・・・・・・・」
テラは答えない。答えればマナは縋り付いてでも止めようとするだろう。
どうしたものかと考えていると、ふいに声を掛けて来る者が居た。
「テラ、お前もしかして一人で魔女に挑もうと言うんじゃないだろうな?」
声のした方へ振り返ると、其処にはドラコの姿があった。ドラコは鋭い目付きでテラを睨む。
「ドラコ」
「・・・・・・・・・」
ドラコは黙ってテラに歩み寄ると、思いっ切りテラを殴った。
「テラ!?」
マナの悲鳴が響く。だが、ドラコはそれに構う事なくテラを軽々と持ち上げ、再び殴り付ける。
何度も、何度も、容赦なく殴り続ける。堪らずマナは止めに入る。
「やめて!これ以上テラを殴らないで!!」
涙ながらにマナが止めに入るが、ドラコはそれを意にも介さずテラの胸倉を掴み、持ち上げた状態で更に頭突きをする。
もはや息も絶え絶えのテラ。そんなテラにドラコは声を荒らげながら言った。
「前にも言ったよな?本当の強さとは人を頼り、人に頼られる者の事だと!何故人を頼れない?何故其処まで一人で何とかしようとする?」
「・・・・・・・・・」
テラは答えられずに黙り込む。注釈しておくと、テラは人を頼らなかったのではない。頼れなかったのである。
幼少の頃からこの世界に来るまでの遥か永い時を、誰にも頼れず過ごしてきたテラには誰かに頼るという事が出来なかったのだ。
それを察したドラコは軽く舌打ちをする。
「分かった、なら俺も付いて行こう」
「「!?」」
その言葉に、テラとマナは目を見開いた。呆然とする二人を他所にドラコはふんっと鼻を鳴らす。
しばらくして、真っ先に正気に戻ったマナは慌ててテラの方を向き、頭を下げた。
「で、では私も連れて行ってください!!」
「マナ!?」
驚き、思わず声を上げる。しかし、マナは頭を下げたまま必死に頼み込む。
やがて、テラは溜息を一つ吐く。
「本気か?マナ」
「はい、本気です」
テラとマナは互いに見詰め合う。どうやら本気で付いて来るつもりらしい。
テラはまたもや溜息を吐く。
「分ったよ、連れていくよ」
そう言ってテラはやれやれと頭を掻く。そして、心の中で密かに誓うのだった。
(マナは絶対に守り抜く。この身に代えても)




