束の間の安息
未だに短い話しか書けない自分にかなり呆れます。
朝、目を覚ました。
窓の外では鳥のさえずりが聞こえる。清々しい程に晴れ渡る空。
ぼーっとした顔で横を見ると、其処にはマナが寝ている。テラは僅かに目を見開いた。
徐々に意識が覚醒してくる。昨夜の記憶が蘇ってくる。
二人が結ばれたあの夜、二人は互いを求め合った。互いを愛し合った。そして・・・。
うん、完全にアレだな。テラは静かに溜息を吐き、額を手で押さえる。
自分自身に呆れ返っていると、マナがゆっくりと目を覚ました。
「・・・・・・・・・テラ?」
「あ、ああ。おはよう・・・マナ・・・・・・」
歯切れの悪い返事にこてんと首を傾げるマナ。しかし、次第に記憶がはっきりしてきたのか、目を見開き顔が紅潮していく。毛布をかき抱き、恥ずかしげに俯く。
「あの、マナ?」
「っ!?」
マナは肩をびくりと震わせる。その顔はとても赤い。
思わずテラは苦笑する。
「まあ、その、なんだ・・・、これからもよろしく」
「は、はい・・・」
マナは顔を紅潮させつつも、それでもうっすらと微笑んだ。
テラとマナは現在王都の南、商業区に来ていた。
テラは長い間昏睡状態であったにも拘わらず、体力の低下も見られない。
その為、こうしてデートの続きと称して、町を歩いている訳だ。
マナはとても嬉しそうにテラの腕に抱き付いている。そのせいでかなりの視線が集まっている。
主に男からは嫉妬の視線が、女からは羨望の視線が集まっている。正直、視線が痛い。
そんな時―――
「テラさん!?」
テラに三人の子供達が飛び掛かってくる。ジャック、メナス、レイラの三人だ。
テラは驚いて三人のタックルをまともに受ける。
「ぐほうっ!!」
「テラ!?」
マナが悲鳴を上げる。タックルを受ける直前、ほぼ反射的にマナを突き放した為、マナは無事だ。
タックルの思わぬ威力にテラはよろける。そんなテラに、子供達は物凄い剣幕で話し掛けてくる。
「テラさん、身体の具合はもう良いんですか!?」
「テラさんが魔女にやられたと聞いて!!」
「私達、皆心配したんですよ!!」
「お、お前等・・・とにかく落ち着け・・・」
テラは息も絶え絶えにそう言った。その声でようやく子供達は落ち着いた。
一時間後―――
「とまあ、そんな感じで僕は助かったんだよ」
「へー、そうなんですか(もぐもぐ)」
テラはこの世界に来てから今に至るまでの話を簡単に纏めて子供達に話した。
ちなみに、子供達はその話を串焼きを食べながら聞いている。串焼きはテラのおごりである。
「それにしても良かったじゃないですか。お二人が結ばれて私達も嬉しいですよ」
「・・・・・・・・・」
レイラがからかう様に言うと、マナは顔を真っ赤に染めて黙り込んだ。思わずテラは苦笑する。
「では、俺等もそろそろ帰るとします」
そう言うと三人はとても良い笑顔で帰って行った。テラとマナは二人揃って思わず苦笑する。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
二人は再び歩き出す。それから二人は色々な店を見て回った。
服屋ではマナにどんな服が似合うのか意見を求められ、喫茶店でケーキに舌鼓を打ったり、宝石店ではマナに似合う宝石を探していた。
後、マナは宝石店の店主と何かを話していたみたいだったが、何を話していたのかまでは教えてはくれなかった。
少し残念に思いつつ、店を出る。店を出る時、店主の表情がやたらにやついていたのがかなり気になったのだが。
・・・・・・・・・
「あれ?あれあれ?其処に居るのはもしかして、前に一度ウチで花を買いにきた人ではないかな?」
とある街角に差し掛かった時、かなりアッパーなテンションでテラに話し掛けて来る人が居た。
その声に聞き覚えがあったテラはややうんざりとした顔で振り返る。
其処に居たのはやはりと言うか何と言うか、あのテンションの高い花屋の店主だった。
「はいはいはーいっ!おひさしぶり!って、おやおや?其処に居る女性はもしかしてもしかしなくても彼女さんかな?ん??」
相変わらずのテンションの高さである。少し、いや、かなり疲れる。
横を見てみると、マナが呆然としていた。さもありなん。
「あの、テラ、この人はどなたですか?」
「あー、花屋の店主だよ」
マナの問いにそう答える。余りに簡潔な返答にマナは少し不満げだ。
テラは苦笑しつつ、マナの頭を撫でる。花屋の店主はそれをにやにやしながら見ていた。
「良いねえ。これは眼福だよ!君達に月の加護があらん事を!」
「つ、月の加護?」
聞き慣れない単語に思わず問い返す。目を丸くする店主。
「あれ?もしかして知らない?じゃあ月の王国は?それも知らない!嘘おっ!?」
店主は凄く驚いたのか、目をこれでもかと見開いている。
話を聞いてみると、彼女は元々月の王国で巫女をやっていたらしい。
巫女が花屋の店主。世の中分からない物だ。
「月の王国はね、月の王チャンドラ様の治める国だよ。月の裏に存在する大国で巨大な結界に囲まれているの。チャンドラ様はね、いつも月から世界を見守っているんだよ」
店主は昔を懐かしむ様に言った。先程までの高すぎるテンションは何処かに行ったらしい。
テラとマナはその事に苦笑しつつ話を聞くのだった。
・・・・・・・・・
王都の西側にある高台に、テラとマナは来ていた。
そろそろ日が沈み始める時刻。二人は向かい合う様に立っていた。
「マナ、一体何の用だ?」
「・・・・・・・・・」
テラの問いにマナは黙り込む。
高台まで来たのはマナが望んだからだ。マナがテラをこの場所に連れて来たのだ。
マナはしばらく黙り込んだ末、ポケットからある物を取り出した。それは・・・。
「っ、それは・・・」
それはグリフォンの彫刻がされたアンティークの懐中時計、以前マナのネックレスを買う為に手放した物だった。
「なん、で・・・」
「大切な物なのでしょう?テラにとって、これは・・・」
「・・・・・・・・・」
テラは黙り込む。間違っている訳ではない。正しいからこそ黙り込んだのだ。
マナは優しく微笑みながら言った。
「嘘ですよね、これをテラが作ったと言うのは。これは嘗て、テラの理解者だった人がくれた物、違いますか?」
「っ!?」
テラが驚きに目を見開く。
マナは知ったのだ。以前、テラの心の中に潜り込んだ時にその懐中時計をくれた人の事を。
テラにとって当時、その人が唯一の理解者だった事。その人がくれた懐中時計をとてもとても大切にしていた事。そして、マナの為にそれを泣く泣く手放した事。
そして、テラは理解した。マナが宝石店の店主と話していたのはこの事だったのだ。
懐中時計を買い戻す為、わざわざマナは店主と交渉していたのだ。
それを理解したテラは目頭が熱くなる思いがした。テラは涙が溢れそうになるのを堪え、満面の笑みでマナに一言だけ伝える。
「ありがとう」
次回、ついに不死者が動く。かも?




