宮廷魔術師ライラ
第二章の始まりです。
どうしてこうなった?
死ね。
僕はどうすれば良かったんだ?
死ね、死ね、死ね。
僕は生きてちゃいけなかったのか?
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。
もう、何も分からない。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。
イヤダ、モウシニタイ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
オマエナンカシンジマエ・・・
「テラ!テラっ!!」
王城に運び込まれるテラに必死に声を掛けるマナ。しかし、テラは一向に反応を示さない。
精神に甚大なダメージを受けた事により、昏睡状態に陥っているのだ。
「っ、テラ・・・」
マナは悲しくなってくる。テラがこんな状態なのに、自分には何も出来ないのが悔しかった。
テラは最後まで自分を守ろうとしてくれたのに、自分はこんな事になるまで何も出来なかった。
そもそも自分に何が出来たのか?只テラの側で寄り掛かっていただけではないか。
テラを救いたかった。テラの事が好きだから。愛しているから。
なのに・・・。
どうしてこうなってしまったのだろう。マナには分からなかった。
結局、その日はテラは目を覚ます事は無かった。
その日からマナは毎日テラの世話をし続けた。
マナは決意したのだ。テラを絶対に救ってみせると。テラが自分を守ってくれた分、自分もテラを守ってみせると。
その献身は周囲の者達をして、涙を誘う程であった。
そんなある日の事。
「ミズホ様っ!?」
再び王城へとやって来た神官のシラカワはテラの惨状を聞き、テラの許に慌てて駆け付けた。
ベッドに眠るテラは何の反応も示さない。その姿にシラカワは息を呑んだ。
テラの側では、マナがお湯で濡らしたタオルでその身体を拭いている。
目元にうっすらと隈が浮かんでいる事から、寝る間も惜しんで看護しているのだろう。
シラカワは思わず閉口した。その健気さ、献身に心を打たれたのだ。
ところが、その時―――
「あっ・・・」
マナの足がふらつき、その場に倒れる。
「っ!?」
シラカワは慌ててマナに駆け寄る。マナの顔は青褪めている。
どうやらかなりの疲労を溜め込んでいたいたらしい。
マナはすぐに自室のベッドに寝かされた。
疲れが溜まっている為か、すやすやと眠っている。
その側で、シラカワとアルフレッドが話していた。
「かなり疲れていたみたいですね・・・」
「テラの事が好きなのさ、マナは・・・。自分の事が見えなくなる程に」
「・・・・・・・・・」
苦々しい顔でマナを見る二人。余りにも純粋で深い愛情に、二人は何とも言えない気分になった。
一途な愛は時として人を盲目にさせる・・・。それは周囲からすれば余りに悲しかった。
・・・・・・・・・
次の日の昼頃、マナはようやく目を覚ました。しばらくぼーっとしていたマナだったが、意識がはっきりしてくるとがばっと飛び起きた。
「テラ!テラは!?」
「テラならまだ目覚めていないな」
声のした方を見ると、其処にはアルフレッドの姿があった。
マナを見詰めるアルフレッドの瞳は苦々しい物だった。
「マナ、そんなにテラの事が心配か?」
「当然です!兄さんは分かっている筈でしょう!?私は―――」
「分っているさ・・・。マナの気持ちは、想いはこの城の皆が知っている事だ」
そう、マナがテラに恋慕の念を抱いている事は城に居る皆が知っている。
それこそ、両親であるスカーレットやマリアも知っていた。
だが、だからこそ心配なのだ。マナが自分の事を省みずに身体を壊していく事が。
「テラを救う方法が無い訳じゃない」
「っ!?」
突然告げられたその言葉にマナは目を見開く。
それはマナが今、一番知りたかった事だ。
「お願いします!テラを救う方法を教えて下さい!!」
思わず勢い込んで尋ねるマナ。
対するアルフレッドは何処か悲しげだ。
「その前に一つ、約束して欲しい。これからはもっと自分を大切にしてくれ」
「・・・・・・・・・」
「これが守れないなら俺はテラを救う方法を教えない」
そう言ってアルフレッドはマナの瞳をじっと見る。
マナもアルフレッドを真っ直ぐに見据える。
見詰め合う事数秒後。
「分りました。ですから、テラを救う方法を教えて下さい」
マナは静かに頭を下げた。
只、テラを救う為に。その想いを分かってもらう為に。
アルフレッドは少し考え込んだ後、口を開いた。
「・・・・・・・・・地下実験場」
「え?」
「地下実験場に宮廷魔術師のライラという婆さんが居る。その方なら、テラを救う方法を知っているかもしれない」
「っ!?ありがとうございます!!」
そう言って走り去っていくマナの後姿をアルフレッドは苦々しい顔で見ているのだった。
地下実験場―――
その、扉の前にマナは居た。
ゆっくりと呼吸を整え、扉を開いた。その瞬間。
「・・・え?」
目の前には辺り一面の草原が広がっていた。
周囲を見回しても草原が広がるばかり。先程通った筈の扉すら無い。
空間魔術により、強制転移させられたのだ。
だが、それを知らないマナは混乱する。そんな彼女の耳に不思議な声が聞こえた。
『こっちだよ』
声の聞こえた方を見てみるが、誰の姿も見えない。
マナは意を決して、声の聞こえた方へと進む。
しばらく進むと、目の前に一軒のログハウスが見えて来た。
『入りな』
また声が聞こえた。
マナは恐る恐る扉を開く。
「やあ、良く来たね姫様」
中に居たのは薄紫色の髪に同色の瞳、濃紺のローブを身に纏った老婆だ。
「貴方がライラさんですか?」
「そうだよ、私が宮廷魔術師のライラ=クリスフォードだよ」
そう言ってライラはにやりと不敵に笑った。しかし、その瞳はまるで全てを見透かす様な鋭さがあった。
その視線に射竦められ、マナは一瞬怯む。だが、マナはなんとか勇気を振り絞り、ライラに頭を下げる。
「お願いします。テラを助けて下さい!!」
「私は助けないよ。助けるのは姫様、アンタさ」
その言葉にマナはきょとんっとする。その呆けた顔に、ライラは思わず苦笑する。
「何を呆けているんだい。それよりも聞きたい事がある」
「は、はいっ!何でしょう!」
何とか我に返ったマナが、慌てて返事をする。
そんなマナに、ライラは真剣な目を向け言った。
「命を賭ける覚悟はあるかい?」
「っ!?」
命を賭ける。それはつまり、これからやる事に危険が伴うという事だ。
先程、兄であるアルフレッドから自分を大切にしろと言われたばかりなのに。
しかし。それでも。
それでもマナはテラを救いたいのだ。テラを守りたいのだ。その為なら。
「はい、覚悟はあります」
その瞳に万感の覚悟を宿し、そう答えた。
次回、マナはテラの心に触れます。




