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最弱の不死者<イモータル>  作者: ネツアッハ=ソフ
不死身の男
12/52

番外 不死者の起源

番外です。

 「・・・暇」


 それは神代の昔の事。神国アシハラの主神、アシハラは退屈していた。


 「はあ、そう言われましても・・・・・・・・・」


 若い神官は苦笑する。


 この世界を創造してから既に幾星霜。神としてやる事は大体やり尽くした。


 後は世界の、人類の行く末を見守るだけだ。


 しかし、これが中々退屈である。


 退屈は神すらも殺すのだ。


 「・・・・・・・・・駄目だ、本当に暇すぎて死ぬ」


 どうしたものかと考えるアシハラ。死因が退屈など、洒落にもならない。


 退屈を紛らわせる為に、脳をフルで稼働させる。そんな彼の脳裏にある考えが過る。


 「そうだ、旅に出よう」


 「はっ?」


 何言ってんだ?コイツ・・・。


 若い神官はそんな顔をしていた。


 ぶっちゃけて神に対する顔では無い。無いのだが、そんな顔もしたくなるだろう。


 しかし、アシハラは気にしない。ばっと立ち上がり、実にすがすがしい笑顔で若い神官に告げる。


 「少し異世界まで行ってくる。しばらくは帰らないのでよろしく!」


 そう言って、アシハラは消えてしまった。


 その場には呆然と立つ、若い神官だけが残された。






 神域―――


 地元の人からそう呼ばれている森の開けた場所に、アシハラは立っていた。


 「ふむ、随分と神気と霊気に満ちた森だな。聖地か何かか?」


 その森は神聖な空気に満ちており、一目で聖地か霊場の類だと分かった。


 その時、木陰の方からがさっと音がし、一人の少女が出てきた。アシハラと少女の目が合った。


 アシハラの脳内で衝撃が奔る。


 鴉の濡れ羽の様な黒髪に、同色の瞳。ほっそりとした、小柄な身体。まだ幼さの残る小顔。着ている服装から、彼女は巫女だろうと思われる。


 ちなみに、アシハラは純白の髪に朱い瞳。長身の引き締まった身体に、純白の衣を着ている。


 少女はきょとんっとした顔でアシハラを見詰めながら、問い掛けて来た。


 「あの、どちら様でしょうか?」


 少女に問われてようやく我に返るアシハラ。


 「あ、ああっ・・・私の名はアシハラ。此処とは違う世界の神をしている。君の名は?」


 「私はマイカ、この神域の管理をする一族の巫女をやっています」


 ・・・・・・・・・


 それから、小一時間ほどマイカと話をした。


 この国の名は葦原中つ国、或いは豊葦原瑞穂国と言うらしい。


 この国の主神は天照大御神。太陽を司る女神らしい。


 そしてこの国は八百万の神。即ち万物の霊性を信仰する国である。


 万物の霊。


 それはつまり、自然や先祖の霊を崇拝すると言うこと。


 つまり、この国の民族は自然と共に暮らす民族と言う事である。


 この森は中つ国でも有数の神域であり、神霊の聖地とよばれている。


 マイカの一族はこの神域を代々守り続けてきたらしい。


 マイカはとても楽しそうに話をしている。


 アシハラもとても楽しい気持ちになり、退屈を忘れていた。


 アシハラとマイカはそれ以来毎日会う様になった。それは両者にとってとても楽しい日々だった。


 そんなある日の事。


 マイカが妖魔に襲われた。


 妖魔とは、悪霊の一種であり、怨念の集合体である。膨大な恨みを抱えた霊が周囲の怨念を引き寄せて変質するのだ。


 不定形の怪物に襲われ、それでも逃げ続けるマイカ。


 ―誰か、助けてっ!!―


 そう心の中で叫んだ時。


 「マイカああっ!!!」


 叫び声と共に現れたアシハラが一瞬で妖魔を倒してしまった。盛大に吹っ飛び、消滅する妖魔。


 慌ててマイカの方へ向くアシハラ。


 「マイカ!大丈夫か!?」


 そう言い、マイカの身を心配するアシハラ。


 その瞬間、アシハラの胸元にマイカががばっと抱き付いた。


 「マイカ?」


 「怖かった、・・・怖かったよぉっ」


 胸元ですすり泣く少女の姿に、アシハラは苦笑しながら優しく抱き締める。


 夜の帳が下り始めた頃、ようやくマイカは泣き止んだ。顔を朱に染め、頭を下げる。


 「あの、ど、どうもありがとうございます・・・」


 そんなマイカの姿を見て、アシハラは思う。


 (・・・そうか、やはり私は――)


 アシハラは何かに気付いたのか、ふっと笑みを零す。


 未だに顔を赤く染め、頭を下げ続けるマイカにアシハラは語り掛ける。


 「マイカ」


 「はっ、はいっ!?」


 アシハラに話し掛けられ、マイカは思わず上擦った声を出す。


 そんな彼女に優しく微笑みながら、アシハラは言った。


 「私はマイカの事が大好きだ。どうか、私と結婚して欲しい」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」


 しばらくの間、きょとんっとしていたマイカだったが、やがて顔をぼふっと真っ赤に染めた。


 また、しばらくの間わたわたとしていたが、ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと返答した。


 「私も、私もアシハラ様の事が大好きです。よろしくお願いします・・・」


 こうして、アシハラとマイカは結ばれたのだった。


 それから半年後、両者の間に一人の子が生まれる。赤子はミズホと名付けられ、幸せは何時までも続く物と思われた。その筈だった。


 一族の中で、神の子であるミズホをこの国の王として祭り上げようという声が急激に上がった。


 そして、神の子を輩出した一族が裏で国を牛耳ろうと、密やかに計画されたのだ。


 それを偶然聞いてしまったマイカは青褪めた。


 このままでは我が子が政に利用されてしまうだろう。


 アシハラは今は出掛けて居ない。ミズホを守れるのはマイカ一人だけなのだ。


 マイカはまだ赤子のミズホを抱き抱え、家を飛び出した。


 向かう先は神域である。マイカは全力で走り続ける。


 息を切らせ、それでも立ち止まらずに走り続ける。そうして、ようやく辿り着いた神域の森の中に入り、真っ直ぐにある場所に向かう。


 初めてアシハラと出会ったあの開けた場所である。


 開けた場所に出たマイカは、その中心にそっと我が子を寝かせる。


 「ごめんなさい、私じゃ貴方を育てる事が出来ないの。本当にごめんなさい」


 堪え切れずに涙が溢れて来る。


 しかし、泣いてなど居られない。


 マイカは早口で祝詞を唱える。これで、ミズホは八百万の神々によって守られる筈。


 マイカは溢れる涙を拭いもせずにその場を去る。


 もう既に追っ手は迫っているだろう。


 なら、自分がなるべく追っ手を引き付けねばならない。


 我が子を守る為に。


 しかし、その想いも虚しく森を出た所で背中に激痛が奔り、マイカの意識は途絶えた。






 神域の森の前、少女の亡骸を前に男達は立っていた。


 その少女、マイカを殺したのはこの男達である。


 「おい、神の子はまだ森の中に居る筈だ。何としてでも探し出せっ!!」


 男の一人がそう命じる。他の男達が森に入ろうとする。


 しかし―――


 『させないよ』


 「っ!?」


 突如、響き渡る声に男達の身体が硬直する。


 その声には抑え切れない怒りが滲んでいる。


 『よくも、よくもマイカをっ!!』


 その刹那、男達は何をされたのか理解できぬままに消滅した。


 ・・・・・・・・・


 「・・・此処は?」


 「目が覚めたか?マイカ」


 薄暗い空間の中、マイカは目を覚ました。


 目の前にはアシハラの姿がある。


 少しの間、ぼうっとしていたマイカだったが、やがてはっと目を見開いた。


 「アシハラ様!あの子は、ミズホは!!」


 思わず声を大にして叫ぶ。


 それに対し、アシハラは悲しげな瞳で首を横に振る。


 「ごめん、君を助けるので精一杯でもうほとんど力が残っていないんだ」


 「そっ、そんな・・・」


 アシハラは男達を殲滅した後、すぐにマイカを蘇生させたのである。


 無茶な力の行使をしたせいでアシハラはほとんど力を失ってしまった。


 力の回復にはかなりの時間がかかるであろう。


 マイカは泣いた。


 アシハラの胸に顔を埋めて泣き続けた。


 「約束しよう。何れまた皆で一緒に暮らそう。きっと、必ず・・・」


 アシハラはそう宣言する様に言った。


 その瞬間、視界は開けた。其処は異世界、神国アシハラだった。


 ・・・それから幾星霜。ミズホはアシハラによって異世界に流れ着く。


 しかし、召喚する時に座標が狂うという失敗が起きる。


 それ故にミズホはナナシの森に流れ着き、其処でマナ達と出会うのだった。

次回は魔王誕生の話です。お楽しみに。

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