⒊よつば丘
「勉強はやったの?」
お母さんの声がした。
今、開けたばかりのスマホを隠すように閉じた。
「今からするね」
そう言っても、結局はしてない。
自分でも嫌になる。
やろうとすれば一つ一つが不安になる。
「えっと…これはいつ提出だっけ」
「これはノートでやるのかな…?それかプリント?」
そんな小さなことが気になって、毎回なにも進まずに1日が終わる。
やり方を変えたり、スマホを見なかったり、色々試した。
でも、全部上手くいかない。
それなのに、お母さんは何も知らないまま口を出してくる。
「忘れるならいっぱい書いたら?」
お父さんも便乗する。
「もっと忙しい友達だっているんだから」
悔しかった。
十月に入ったからテストが近くなったのだ。
僕より親が焦る。
もう全てをやめてしまいたい。
なにもしたくない。
現実を見なきゃ生きていけない人生を捨てたい。
涙が溢れもう家に居たくなかった。
ベランダから飛び出した。
気付けば、猫神様に初めて合った丘にいた。
でも前とは違う。
丘は四ツ葉のクローバーで埋め尽くされた。
綺麗だった。
「おっ!来たの?」
猫神様の声は、優しくて暖かかった。
少しだけ、心に余白ができるような気がした。
「ねぇ、猫神様」
「んー?どーしたの」
僕は猫神様の隣に座った。
「どうして最初会ったとき四ツ葉をくれたの?」
口元がにこっと笑ってるのが見えた。
「四ツ葉って花言葉に復讐、幸運とか、そういう意味があるの知ってる?」
「そうだっけ?」
僕は少しだけ聞いたことがある気がしたけど、思い出せなかった。
「そうなの。でも僕は、良い意味も悪い意味も捨てずに、全部ひっくるめて約束をしたいんだ」
初めて聞いた。
悪い部分も除け者にしないのは珍しいと思った。
「君にこれからも会うための、約束のきっかけになったでしょ」
沈黙が続いた。
でも、嫌な沈黙ではなかった。
「時間だ」
猫神様が小さく呟く。
そして僕の目を、優しくふさいだ。
「また会いに行くから」
気付けば、自分の部屋にいた。ベランダの鍵は、空いたままだった。
四ツ葉はどこにも見つからなかった。
あれから数日。
猫神様と会うことはなかった。
テストが終わり、帰ろうとした。
ふと、あのよつば丘が気になった。
帰ってから、調べてみる。
スマホの光が顔に当たる。
そして、僕は驚いて目を見開いた。
よつば丘は、九年前から立ち入り禁止になっていた。
「じゃあ猫神様と出会ったあの丘はいったい…」
僕は、無意識のうちにあの場所へ行っていたことになる。
よつば丘の写真を調べると、
「よつば丘の四ツ葉が全て枯れてしまっている」
そんなニュースの切り抜き写真を見つけた。
僕は、そのニュースを探した。
「あった」
そう呟いて、動画を再生する。
『よつば丘の四ツ葉が全て枯れてしまっていると問題になっています。専門家によると、丘自体の状態が悪く、いつ崩れてもおかしくないとのことです。そのため、数週間前からよつば丘は立ち入り禁止となりました。』
まだニュースは続いていた。
でも、僕は動画を止めた。
「……九年前のニュース」
「あの時は確かに見た…四ツ葉がいっぱいあるのを…」
これをきっかけに、僕はよつば丘をより詳しく調べた。
12月上旬。
僕は、よつば丘を調べることを諦め、好きなことばかりしていた。
学校にはずっと行けてない。
逃げてるだけってのは、わかってる。
寝る前は学校に行く気でも、朝になると体がいうことをきかない。
自分が腐ってしまったように感じた。
そんなある日。
スマホを眺めてるとスマホケースが汚れていることに気がついた。
めんどくさかった。
でも、
こんなのでも動けなくてどうするんだ。
そう思って僕は動いた。
スマホケースを外す。
すると、紙が挟まっていた。
中には、四ツ葉が挟まっていた。
「どうやったら会えるのかな」
久しぶりに、夜更かしをした。
「僕って、生きる意味あるのかな…」
そんな言葉が漏れた。
学校を休む。
宿題をしない。
絵ばかり描く。
学校を休んでおいて歌う。
ずっと寝る。
本当に、ただのサボりじゃないか。
あの日みたいに泣きたいのに、泣けない。
「どうして生きなきゃいけないのだろう」
人生のマニュアルが欲しい。
わからないまま生きるから、怖いんだ。
正しいかわからないから、不安なんだ。
そもそもの正解の基準って…。
頭がごちゃごちゃしてうまく考えられなかった。
この日からしばらく、ベッドから動かない。
前よりも腐った日々が続いた。
朝になる。
「美菜~朝だよ~」
お父さんの声だ。
でも、今日も動けない。
「ん…」
ため息のような、苛立ちの混じった声が聞こえた。
「わかった、休みな。弁当リビングにあるから。
…行ってきます」
お父さんはそう言って、部屋を出た。
リビングから、親の会話が聞こえた。
優真はもう学校に行ったらしい。
「今日も休むってさ」
「好きなことはしているのにね」
その会話を聞くたび、毎日悲しくなる。
僕だって、こんな自分が大嫌いだ。
やり直せるなら、死んでやり直したい。
自分が輝ける世界線に、生まれ変わりたい。
まぁ、できるわけないけど。
猫のはっくんとハグしながらベッドでだらだらして、一日がまたボツになる。
そう思っていた。
ベランダで、前に見つけた四ツ葉を見つめながら風にあたっていた。
「久しぶり」
懐かしい、あの声が響いた。
次がラストです!
クライマックスだぁぁ!




