⒋猫神様が繰り返す問いかけ
「久しぶり」
懐かしい、あの声が響いた。
もしかして、と思い見上げる。
いつもの面を付けてなかった。
「ね、猫神様…?」
「そうだよ」
服装で男性だと思っていたが中性的な人だった。
「お面は…?」
猫神様はいつもより真剣だった。
「今日は付けてないの。君に聞かなきゃならないことがあるんだ。」
僕は頭の中が追い付かなかった。
急に会えなくなったのは?
よつば丘で会えたのはなぜ?
どうしてスマホケースに四ツ葉が入っていたの?
僕だって聞きたいことが山ほどある。
でも、猫神様の声があまりにも真剣で話を遮れなかった。
そして、猫神様は僕に問いかけた。
「君は、未来と過去どちらに行きたい?」
この質問に聞き覚えがあった。
学校や友達とも話したのかもしれない。
でも、もっと前から知っているような質問だった。
「未来に行きたい」
そう答えると猫神様は微笑んだ。
「君はいつもその答えだね」
「え?」
確かに聞き覚えはあるけど、猫神様から聞いたのは今日が初めてだ。
「どういうこと?」
猫神様は黙った。
そして、ゆっくりと話し出す。
「時期的にはもうよつば丘のことは調べたでしょ?」
「時期?まぁ調べたけど…」
「九年前、僕と君は一度あの丘で会ってたんだよ」
九年前だから記憶もはっきりとは残っていない。
でも、嘘とは思わなかった。
「君が未来に行きたい理由、教えてよ」
「未来に行って、未来の僕に聞きたいことあるの」
そう迷わずに答えた。
「じゃあ何を聞くの?」
猫神様にこんなこと言ってもいいのか、迷ったが今まで助けてくれた人だから大丈夫だろうと答えることにした。
「まだ死にたい?って聞きたいの」
「だって…そもそも大人になってるかもわからないから聞くんだ。」
少しだけ言いづらかったがそう答える。
「理由は変わったんだね」
「じゃあもう一つ聞かせて」
なんだろう、そう思いながら質問を待った。
「もし未来の美菜に会えたならどうする?」
猫神様は袖を捲り、僕に腕を見せた。
驚いた。
「この傷に見覚えはあるかい?」
猫神様の腕に傷跡がある。僕の腕にある傷と全く同じ傷。
「………ねぇ、僕も聞いてもいい?」
「あなたは誰?」
初めて会った日と同じことを聞いた。
「未来の君だよ」
猫神様はそう言った。
そして僕に四ツ葉を握らせると、僕の手を引いた。
そのまま、ベランダから飛び出した。
すると、強い風が吹き気付けばあのよつば丘に居た。
「ここは九年前のよつば丘だよ」
辺りを見回せばあの日見た四ツ葉のクローバーに埋め尽くされた綺麗な丘だった。
そこに小さな少女が歩いてくる。
「わぁ!よつばだぁ!」
四歳ぐらいの女の子だった。
目をキラキラさせて笑っていた。
僕は立ったまま動けなかった。
猫神様は面を付けて少女の方へ向かった。
「ねぇ君」
少女は振り向いて
「なぁに?」
と不思議そうに猫神様を見る。
「未来と過去どっちに行きたい?」
少女は「んー」と考えた。
そして、「あっ!」と思いついたように答えた。
「未来!未来に行きたいの!」
「どうして?」
猫神様はもう答えを知ってるような口振りで聞いた。
「未来はきっとワクワクするから!」
猫神様は微笑んで、「そっかぁ」と答えた。
一瞬だけ僕の方を見てから、少女に問いかけた。
「そういえば、名前聞いてなかったね。何て言うの?」
「みな!」
え、とさっきより固まる。
そこでようやく理解した。
あの少女は昔の僕だ、と。
聞き覚えがあったのも、この時の記憶だったんだ。
「美菜~おいてくよ~」
お母さんの声がした。
「あっお母さんだ!またね!」
そう言って少女は帰っていった。
「またね~!」
猫神様の明るい声が丘に響く。
「ここは特別な場所でね、四ツ葉の幸運が詰められた空間なの。」
猫神様はまた面を外して、笑った。
「もうわかったんじゃないかな?」
「もう一度言うね。僕は君の未来の美菜だ。」
僕はぽろっと涙が溢れた。
ずっと助けてくれた。
ずっと見てくれてた。
ずっと守ってくれていた。
泣きながら僕は問いかけた。
「猫神様は生きててよかったと思いますかっ」
絞り出すような声だった。
ぽん、と僕の頭に猫神様の手がのる。
「君が今頑張って生きてくれたから幸せだよ」
優しい笑顔で猫神様と僕は暖かい風に包まれた。
目を開けるとベランダに戻っていた。
そして猫神様が居た場所には四ツ葉と一つのメモが置かれていた。
"頑張ってね"
そう描かれていた。
「今日からもう少しだけ頑張ってみるね」
そう呟いて部屋に戻った。
学校には行ける日が増えてきた。友達と過ごす時間が、前よりずっと大切なものだと気付けたからだ。
学校に行けなくても前を向くだけでもいいと思えた。未来の僕にちゃんと聞けたから。
絵も歌も本気でやろうと決めた。好きなことはとりあえず続けて少しでも聞いた未来を越える幸せを見たいと思えたから。
数年後。僕は家を出た。
辛いことがないと言えば嘘になる。
でも、今までの辛いを含めて今の幸せがあるって今はそう思える。
未来と過去どちらに行きたいか、こんな質問がたまに飛んでくる。
僕は、未来よりも過去に行きたいと今なら答える。そしてあの時の僕に伝えるだろう。
「今が幸せ」だってことを。
完結です!
ありがとーございました!




