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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
最終章 民主期編

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第十二話 謝罪

 状況が動いたのは蚤の市初日が終わる夕方のことだった。

 一日目終了の合図の鐘が鳴るのと同時に開催本部にキンゲルが数人の男女を連れて入ってくる。


「革命政府の代表者、商業ギルドの新ギルド長、それに前期移住者の商人の代表者を連れてきました」


 キンゲルが紹介した革命政府の代表者、商業ギルドの新ギルド長は肩身が狭そうにきょろきょろと周りを窺っていた。彼らからしてみれば敵の本拠地に等しいので仕方がない。

 だが、前期移住者の代表商人は違う。

 顔見知りのチトセと目があって、代表商人は笑顔で手を振ってきた。

 以前、宿り木の庭に訪ねてきた酒保商人の女だ。


「帝都の住人との間を取り持ってもらいたい。まぁ、早い話が仲良くしたいって話さ」


 敵地であることは変わらないはずなのに、酒保商人は堂々と胸を張っている。戦場で荒くれ者の兵士や軍隊を相手に商売をしてきただけあって、流石に肝が据わっている。

 だが、度胸が足りない新ギルド長がハラハラしながら酒保商人の腕を掴んで引き留めた。


「前に出ないでください。あなた方はすでに失敗してるんですから、交渉は私共に任せて――」

「失敗しているからこそさ。仲良くしたいって気持ちは本物なんだから」

「ねぇ、意見をまとめてから来てくれない?」


 チトセが口を挟むと、酒保商人が肩をすくめた。


「悪者が誰かを知ってもらわないと、仲直りはできないだろう?」


 自分が空気を読まずに前に出て見せることで前期移住者の商人たちが問題の発端だと印象付ける狙いらしい。

 酒保商人は続ける。


「そして、悪者は責任を取らないと仲良しの輪に混ぜてもらえないんだ。こっちも必死ってこと」

「悪者に責任を取ってもらうのは、間を取り持てるかどうかの協議の後のお話だし、責任の取り方を私たちに相談されるのも困るよ」


 ここで責任の取り方を決めてしまうと、博護会が許したという大義名分を与えかねない。この騒動は博護会とは直接の関係がない商人たちも怒りの声を上げており、「勝手に許すな」と博護会まで睨まれる恐れがある。

 チトセの肩の上でティ・キーが耳打ちする。


「あまり時間を掛けると、蚤の市参加者が不信感を持つ。早めに話を聞いて追い返すが吉だ。せめて、衆目の場で協議すべきである」

「そうだね」


 小声で返したチトセは革命政府の代表者に目を向ける。


「間を取り持ってほしいというのでしたら、商業免許の件や土地代の件など、常識的な対応をするべきだと思います。そして、その協議は私たち博護会ではなく、各地の商業ギルドとそこで営業する商人たちとすべきであって、ここに来るのは順序が違います。私たち博護会はあくまでも中立的な団体ですから」


 既存の商人たちへ喧嘩を売ったのは革命政府とその傘下だ。間を取り持てと言われてもまずは売った喧嘩を買い戻すのが先。買い戻し金は高くつくだろうが、その交渉に博護会を巻き込もうとするな。

 丁寧に包装した言葉で拒否すると、代表者が気圧されたように後退る。


「ど、道理ですね……」

「では、お引き取り願います」

「ま、待ってください。緊急で商談がありまして」


 この流れで商談を持ち掛けて成立すると思うのか、とチトセは思わず代表者の顔を見つめてしまった。

 見かねたようにキンゲルが口を挟む。


「チトセさん、実は革命政府と独立各国政府で平和条約を結ぶ話が出ています」

「帝室と交わしたのは?」

「あれはディッセラ帝国としての講和条約です。喫茶店があった土地に新しく書店ができたとしても喫茶店の契約を持ちこせないのと同様です」

「……あぁ、各国政府の重鎮を招いて対応できるような家具も食器もその他諸々全部ないから、革命政府の威信がピンチ?」


 今朝まで検問を張るなどして妨害に動いていたのに頭を下げに来るのがずいぶん早いと思えば、かなり追い詰められているらしい。

 いくら革命政府とはいえ、帝国時代の調度品くらいは接収しているだろう。しかし、周辺各国を侵略し続けて独立戦争を招いた帝国政府所縁の品は平和条約締結の場に出すと角が立つ。


 チトセは酒保商人を見た。視線の意味に気付いた酒保商人の女は両手を肩の上にあげて降参のポーズを取った。


「食料、水、酒、人間、武器なら商品として扱ってるよ。国賓に出す皿はこの状況じゃ無理だね」


 酒保商人はもちろん、革命政府の意向を借りて横暴な態度を取っていた商人は市場からの締め出しを受ける。高級品の皿や家具などを売る店はない。なにしろ、そういった品を取り扱っている商人の多くは貴族や大物商人との付き合いがあり、革命政府のやり方に煮え湯を飲まされてもいる。

 平和条約の話が表沙汰になれば、革命政府の足元を見て値段を吊り上げるのも目に見えている。だから、革命政府の代表者は焦っているのだ。


 さらにはちょうどいいことに、この蚤の市には各地のアンティークショップも集まっている。一気に買い集めるには都合がいい。ここにいる商人なら高級品を扱う工房や商店との付き合いもあるだろう。

 チトセはため息をついた。


「話は分かったけど、時間制限があるならなおさら、やるべきことをやってください」


 結論は変わらない。

 国家レベルの話、それも自分が住む国の威信がかかっているとはいっても、国民からの支持を失っている現状で威信もなにもありはしない。国民に対して無茶苦茶をやって協力してもらえず他国からの信用を勝ち取れませんでしたというなら自業自得でしかないのだから。


「信用は、時間はかかっても大事にしていけば自然とついてくるものです」


 チトセは会場を手で示して続けた。


「ここは蚤の市ですよ?」


 大事に使われてきた家具が、大事に読まれてきた古書が、大事に鑑賞されてきた美術品が、大事に育まれてきた人間関係が形になって、この蚤の市が開かれた。

 騒動に気付いたらしい参加者が十数名、開催本部のテントを見守っている。

 刺すような視線に居心地が悪そうにしている代表者たちにチトセは言った。


「もしも明日、お時間があれば見て回ってください」


 皮肉ではない。時間制限の提示だ。

 さっさと帰って、無茶苦茶やってきた後始末を付けてこい。

 そうすれば、商店との個別交渉には目を瞑る。そういう宣言だ。

 成り行きを見守っていた参加者たちがチトセに拍手を送った。

 これ以上の交渉は無意味と悟り、革命政府の代表者たちが頭を下げる。


「あ、ありがとうございます。明日の朝までに公布しますので」


 バタバタと慌ただしく帰っていく代表者たちを見送って、肩の上にいたエティが笑う。


「明日には参加者全員にチトセの啖呵が広まってるだろうね」

「広まってくれないと、あの人たちが明日ここに来ても門前払いされるでしょ」


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― 新着の感想 ―
おやおや。流石に商人だけに損得勘定ぐらいはできたか。 縮み上がるくらいならやらなきよかろうにねぇ。 酒保商人の姉御のほうがよっぽどしごできっぽいが……まぁしごできだからこそ、まだ不安定なとこで針までは…
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