第十一話 帝都蚤の市
帝都の外、主要街道と河の間で行われた博護会主催蚤の市は、開始前から予想を上回る客でごった返していた。
革命政府からの妨害も予想されたため、各出店の間を広く取って警備員を多数配置している。エルタたち両替商が身辺調査までして選りすぐっただけあって責任感を持って警備にあたってくれている。
チトセが頼んで各所を見回っている孵化精霊たちもいるため安全性は非常に高い会場だ。
警戒した革命政府が派遣した軍が遠巻きに見守っている。帝国の人間だけでなく、博護会が招いた各国のアンティークショップや古書店なども参加しているため迂闊に手出しができずにいるのだろう。
チトセは開催本部で精霊たちからの情報を聞きつつ、オーミーと話していた。
「ようやく開催日。長かった……」
事前の準備や調整が予想以上に大変で、開催日当日だというのにすでに疲れている。
むしろ今日が一番忙しいというのが信じられない。
オーミーが買ってきてくれた果実水を飲んでいると、開始を知らせる鐘の音が響いた。
各所から歓声と拍手があがる。待ってましたとばかりに客がぞろぞろと入場してきた。
オーミーがチトセに聞く。
「お客さん何人ぐらいいるんだろうね?」
「シャンジが上空からざっと数えてくれたけど、現段階で七百人」
入場前に列を作ってもらっているので大きな誤差はないはずだ。
初開催のイベントで入場待機の人数が七百人だ。これから一気に増えてくる。
一万までは届かないはずだが、数千人は見込める初動だった。
「すでに予想をはるかに上回ってるよね?」
オーミーが心配そうに会場を見る。
通路幅はかなり余裕がある。警備も多い。大きな混乱は起きないと思うが、商品在庫は別だ。
午後には在庫切れを起こす店が出てもおかしくない。
「チャリティーイベントだから在庫切れになるほど収益を上げる店が出たって情報を好意的に伝えていくしかないね」
入場無料なので大きな不満も出にくいと予想している。
その時、開催本部にしているテントに大柄な男が入ってきた。運営スタッフであることを示す名札を首から下げている。
帝都の河港で人足親方を務めるドーマールだ。
「チトセちゃん、帝都の港で革命政府が抜き打ち検問を始めた。商品の搬入が遅れる」
「動きが遅いね」
「俺もそう思う。嫌がらせってのは先手を打たなけりゃ効果がねぇのにな」
チトセとドーマールはニヤニヤと笑い合う。
革命政府があの手この手で妨害や嫌がらせをしてくるのは目に見えていた。当然、対策は打ってある。
今日の蚤の市に合わせて帝都住人は一致団結しており、古くから港を利用している船商人も協賛している。
検問が行われるのを読んで、今日の船荷の大部分は独立各国からの荷で構成されている。検問を行うのは自由だが、過剰に荷を検めれば外交問題になる。しかも、蚤の市を覗いてみようと遠方から来る客を優先して載せているので、足止めをすればするほど各国にこの話が拡散する。
「元侯爵様だけあって絡め手が上手いね」
開催本部で優雅に紅茶を飲んでいるサクーミにチトセは声をかける。
サクーミはくっくっく、と肩をゆすって笑った。
「権力の使い方は心得ているからね。ひよっこ政府の嫌がらせなんてお見通しだとも」
開催本部に新しく入ってきた連絡係から話を聞いていたムタージュが報告を共有する。
「当初予定通り、食品の輸送隊が出発したようです。昼前には到着するでしょう」
蚤の市に隣接する形で食事の提供をする出店が多数出店している。多くは帝都の飲食店の出張店舗で、昔から営業する店だけでなく後期移住者の店もある。温室で喫茶店を始めた老婦人も参加してくれていた。
それら飲食店の食材を開催本部が一元管理し、戦争時に無人になった廃村を集積所として、荷馬車で会場に運び込む形だ。
食品の多くは教会の持ち物として登録してあり、チャリティーイベントに合わせた炊き出しの一環として輸送する。検問などでこれを止めれば、革命政府は炊き出しの邪魔をするのか、と糾弾されるおまけ付きだ。
気を抜くつもりはないが、後手に回っている革命政府に勝ち目はほぼない。
「――ちょっと休憩」
開催本部に入ってきたエルタが額に浮かんだ汗をタオルで拭う。警備員の様子を見回りつつ、会場端に設置した融資相談窓口を覗いてくるといっていたが、ずいぶんと早い帰りだ。
チトセはエルタの分の果実水を渡しながら聞く。
「様子はどう?」
「警備員はまじめにやってくれてる。迷子が出ないよう、自主的に呼びかけてくれてた」
「融資相談窓口は?」
蚤の市にはややそぐわない存在だが、大事な窓口だ。
今回のイベント収益の一部は戦争被害の補填に使われ、その内訳も各地の教会で掲示するなどして公開する。
融資相談窓口はこれらの戦争被害の補填が受けられない存在、例えば革命政府と商業ギルドの横暴で店を潰されたり事業が傾いている商売人に向けた窓口だ。エルタを始めとした両替商や金貸しがまとまって開設した一種の出店である。
この蚤の市には宿り木の庭などのアンティークショップや古書店、骨とう品店が揃っており、鑑定や担保の預かりもできる。各地から来ているので依頼さえもらえば後日に出張鑑定もできるように準備が整っている。
エルタは果実水を一気に飲み干した。
「どうもこうも、大盛況だよ。ほとんどは出張鑑定の依頼だからお金はほとんど動いてないけど情報なら山のように入ってきてる」
エルタ曰く、帝都以外の町でも革命政府と蜜月関係にある商人が幅を利かせているらしい。癒着商人などと陰口を叩かれ一部では反発の声が大きくなっているとのことだ。
「このイベントで情報共有が進めば、癒着商人は一斉に市場から締め出される。目端の利く奴はもう身の振り方を考えて動いてるんじゃないかな」
各地の個人商店を理不尽に潰したことで両替商や金貸しからも酷く恨みを買っている。帝国各地の商人が団結して癒着商人を締め出しにかかるのは時間の問題だ。
チトセは帝都の方角を振り返る。
「あとは向こうの出方次第だね」




