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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
最終章 民主期編

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第五話  寸借詐欺

 商業免許の再取得に向けてお金を準備しながら、チトセは情報を集めていた。

 近所の商店主が集まる会合に出席したチトセは暗い雰囲気の店主たちに気を使いつつ、静かに席に座る。

 少し離れたところに座っていた裁縫店のラルチがチトセに疲れた顔を向けた。


「チトセちゃんのところにも商業免許の話、来たでしょう?」

「来ましたよ。皆さんの顔色を見る感じ、金額は同じでしょうね」

「十倍?」

「はい」


 あちこちからため息が聞こえてきた。

 エルフのアシエラが営むアンティークショップ宿り木の庭は帝都でも最古参の店だ。店の規模に比較して影響力は大きく、帝都の様々な店が世話になっている。

 そんな宿り木の庭に対しても手心を一切加えてないという事実は、帝都商業ギルドひいては革命政府の本気度が窺える。

 ラルチがトントンとこめかみを叩き、チトセに言う。


「僕は――僕たちは、チトセちゃんが立ち上げた博護会を応援している。それを先に言っておくよ」

「……どういうことですか?」


 商業免許の再取得の話でこの会合が開かれたのかと思っていたが、ラルチの前置きは別の問題を話し合うつもりに聞こえた。

 ただでさえひょろひょろの体格のラルチが不景気でこけた顔に精一杯の笑みを浮かべる。


「おそらく、今回の件は博護会主導の革命を警戒して力を削ぎに来ていると思う」

「あっ……」


 思わず出た短い声に、チトセ自身も驚いて口に片手を当てる。

 指摘されて初めて、気付いた。


 流石に博護会を警戒した締め出しだけが目的ではないと思うが、目的の一つとしてなら十分あり得る。

 戦時中でも人、物、金の安定した流れを精霊という不可視の戦力で作り出し、今や各地の教会を拠点に避難民と行商人の支持を集めている博護会。

 教会が博護会を私物化できれば、樹立して日が浅い革命政府と正面から対決できてしまう。


 だが、博護会を支えるのはあくまでも精霊だ。不可視の戦力である精霊がいるからこそ迂闊に手出しができない。

 その精霊は一般人には視えず、意思疎通も難しい。


 チトセさえいなければ、博護会は瓦解する危険性を孕んでいる。

 しかし、エルフのアシエラが後を引き継げばそれだけで博護会は存続する。そもそも、チトセを排除しようにも守護する精霊が多すぎて手出しできない。

 だから――政治権力で排除する。


 ラルチは続ける。


「僕たちは博護会の理念にも行動にも賛同している。実績には喝采を送る。別に媚びているわけでも、助けてほしいわけでもない。この会合に出席しているのは曾祖父かそれよりも上の世代から帝都で店を構えているから、蓄えも当然ある。だから、これだけは会合の、帝都にあるすべての商店の総意として言わせてほしい」


 ラルチは貧相な体に決意をみなぎらせて言い切った。


「――負けるな」


※


 宿り木の庭に帰ってきたチトセは落ち着くために紅茶を淹れながら、肩の上のエティに相談する。


「かなり不味い流れだよね」

「だねぇ」


 ラルチの激励を一緒に聞いていたシャンジが首を傾げる。


「なんでだ? 応援してくれてるんだぜ?」

「応援はありがたいけど、旗頭にされたくない」


 理不尽な要求をする帝都商業ギルドと革命政府に対して、帝都の商店主たちは憤っている。

 ラルチはあの場でチトセに伝えたのだ。このままでは帝都の商店主が革命の旗を揚げかねないと。


 裏町で見てきた、傘下組織が牙を剥く直前の空気感だ。大体は革命が失敗し、旗頭は土か水の中に直行する。

 会合でラルチがこっそりと手渡してきた紙を見る。


「商業ギルドの金利……四割」

「十日で一割(トイチ)よりは遥かにマシか」


 シャンジが呆れた声で言うが、何の慰めにもならない。

 こんな奴隷契約を提示されれば、商店主たちがブチ切れるに決まっている。それでも、商業ギルドはこの年利を設定した。

 店を畳むか奴隷になるか、選べと数字で突き付けた。


 金を自前で工面できるから知らなかったが、チトセはこの事実に改めて革命政府への警戒心を強める。

 その時、窓辺でリペ・アルシュに遊んでもらっていた宿り精霊がぱっと窓の外を見て、チトセの方へ飛んできた。


「アノネ! アノ! ヒト、キタ!」


 宿り精霊が多い店舗側と違い居住スペースの方は孵化精霊が訪問者を知らせる。それに憧れてずっと粘っていた宿り精霊はご満悦で報告した。


「ありがとう」


 チトセは笑いながら宿り精霊に礼を言いつつ、立ち上がる。

 同時に、リペ・アルシュが窓を開け、エルフの里からの伝言役を招き入れる。

 入ってきた伝言役の孵化精霊を見て、宿り精霊が焦る。


「アッ! チガウノ! ヒトモキタ! オシラセシタノー!」

「大丈夫、分かってるよ」


 伝言役が微笑ましそうにチトセと宿り精霊を眺めつつ、伝言を口にする。


「アシエラからじゃ。商業免許の再取得に必要な経費に糸目は付けるな、とのこと」

「分かった。準備してあるから、明日にも再取得しておくって伝えて」


 伝言役に返事をお願いしつつ、チトセは裏口の扉を開ける。

 扉の向こうに立っていたのは最近、河の近くでハッテの後を継いで両替商を始めたエルタだった。


「夜分遅くに悪いな、チトセ」

「別にいいよ。中に入る?」

「そうだな。あまり聞かれたくもねぇし」


 精霊がいることを知っているのもあって遠慮なく上がり込んだエルタは後ろ手に裏口の扉を閉めた。


「商業免許の再取得の話、問題になってるだろ?」

「なってるよ」


 ついさっき、会合で話したばかりだ。

 エルタは裏口の扉に背中を預け、真剣な顔で続ける。


「師匠が長期で貸していた客も多くてさ。こんな理不尽に潰されると困るって、両替商も金貸しもそれぞれ動き始めている。ちょっと荒れるかもしれないから気を付けとけ」


 疎開先だった西方の山岳地帯で活動している師匠のハッテに代わって帝都で両替商を営むエルタは、ハッテの客を引き継いでいる。その中には、ハッテの魔法の師匠であるアシエラから紹介された客もいるだろう。

 チトセは少し悩みつつ、エルタに質問する。


「他所から帝都に店を出したいって客、きてる?」

「客の情報は渡せない……なんて意地悪はしねぇよ」

「ごめん。ありがとう」


 虫のいい質問なのは分かっているので素直に謝罪と感謝をエルタに捧げる。

 エルタは肩をゆすって笑い、質問に答えてくれた。


「まず、金を借りに来た客は帝都で店を構えてる人だけだ。俺たち両替商や金貸しはさっさと帝都を出て川下でバーベキューをしてるが、そんなに身軽な奴はそうはいないから」


 帝都を出れば、帝都での商業免許は必要ない。ただバーベキューをしていたら見覚えがあるようなないようなどっかの誰かが来て金を貸してくれというから貸してしまった。寸借詐欺だ! 詐欺師の顔は覚えてないし、空の上かもしれないけど、詐欺被害に遭ってしまった両替商や金貸しを哀れんだ見覚えのあるようなないようなどっかの誰かがお金をくれることもあるかもしれないね。

 という論理で帝都の外で資金を貸しているらしい。


「ずるくない?」

「ずる賢いんだよ」


 ぎりぎりのことをしている自覚はあるらしく、エルタは背中で押さえている裏口の扉の外を気にした。


「商業ギルドよりも低金利で貸してる。ただ、商業ギルドも今は金利を下げる大義名分がないだろう? だからか、いち早く地方から帝都に店を出して先行者利益を得たいって輩がバーベキューに参加してくる」


 やはり、帝都の外から商人が店を出しに来るらしい。

 エルタは疑いを晴らすように付け加えた。


「貸さないからな?」

「知ってる。貸したら帝都中から恨まれるもん」

「恨まれなくても貸さないんだって。信用と義理は似て非なるモノなれど似てるんだから」


 師匠ハッテの教えらしい格言を口にしてから、エルタは表情を暗くする。


「貸したくても貸せない場合もあるんだ。貸したくない奴には貸さない」


 エルタはため息をついて、チトセに警告する。


「帝都中の店が潰れる。貸しはがしも始まる。荒れるぞ」


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― 新着の感想 ―
敗者側だしなあ。荒れて当然至極。 むしろ、略奪やら無理な徴収受けてないのが不可解な位だったし。 帝都所在の商店側にしても、何故事前に何もかも捨てて逃げ出すでもなく居座っていられたのか、図りかねてた。 …
革命政府の支持母体って商業ギルドの中核のブルジョア階級じゃないのか……?
ギルドなんて互助組織でしかないのに、大多数の組合員敵に回して存続可能なんだろうか 革命政府のお墨付きとはいえ乗っ取られて憤ってるギルドの人いそうだし、役立たずのギルド脱退して新ギルド立ち上げてしまおう…
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