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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第一章 帝政期編

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第七話  暗殺容疑

 マティコ工房の職人たちに見送られて、チトセはアシエラと共に通りへ出た。


「アシエラさんって慕われてるね」


 いまだに手を振って見送ってくれているマティコ工房の人々を振り返り、チトセはアシエラに話しかける。

 アシエラは工房に手を振り返してからチトセに応える。


「長い付き合いだからね。マティコが生まれる前から取引をしているから、自然とこうなる」


 親戚のお姉さんみたいなもの、とアシエラは言うが、工房長が生まれる前からなら親戚のお祖母ちゃんではないかとチトセは思う。


「アシエラさんは今年で何歳なの?」

「エルフの中では若い方だよ」


 答える気はないらしい。

 途中で屋台を見つけ、昼食を買う。小麦粉とそば粉で作った薄い生地で葉野菜や薄切り肉を挟んだものだ。辻馬車が来るまでの間に食べることにして、停留所へ向かう。


「雨が降るかもしれないね」


 アシエラが空模様を気にしながら呟いた。

 チトセも空を見上げる。暗い灰色の雲が東から流れてきている。雷の音はしないが、雨の気配を伴っていた。


「停留所に屋根があったよね?」

「あるね。ただ、この時間だと人で混雑するんだ。広場でこれを食べちゃおうか」


 アシエラが昼食の入った紙袋を持ち上げる。大勢の人がいるところで食べるのは少々憚られる匂いがしていた。

 土地勘がないチトセは素直にアシエラの言うことを聞くことにして、頷く。


「そうしよう――」


 アシエラに案内を任せようとした直後、肩に座っていたエティが飛び立った。

 同時にアシエラが足を止め、チトセを庇うように腕を伸ばし、道の先を見つめる。

 チトセは反射的に一歩後ろに跳んで、アシエラの腕で阻まれた視界を確保した。


 道の先に見慣れた男が立っている。ポケットに両手を入れ、退屈そうに片足に体重をかけてこちらを見ていた。

 バジガンファミリー若頭、ルマンだ。


「……何の用?」


 チトセはアシエラの腕を押しのけてルマンに問う。

 エティが臨戦態勢を取り、チトセの頭上に浮かぶ。さらに、アシエラの周囲に五体の孵化精霊が現れ、周囲の警戒を始めた。

 ルマンが慌てたように両手をポケットから出して顔の横に掲げる。


「待てよ。争うつもりはない。手下もつれてない」

「信用できると思う?」


 チトセの問いかけに、ルマンは苦々しそうに顔を歪める。

ルマンは周囲の人の気配を探った後に、チトセとアシエラに聞こえるぎりぎりの音量で言った。


「……その精霊たちで周囲を探ってくれても構わん」

「おや、視えてるの?」


 意外そうな顔をするアシエラ。

 ルマンが精霊を視る目の持ち主というのは、チトセも初耳だった。それなりに面識があり、数年来の付き合いだがエティに反応したこともなかったはずだ。

 ルマンはやりにくそうにため息をついた。


「視えてるよ。だから、チトセ相手に荒っぽいことをしたくねぇんだ」


 ルマンはそう言って、チトセから視線を外してエティを視る。エティが試しとばかりに左右に揺れ動くのに合わせて、ルマンの視線も動いた。

 本当に見えているらしい。


「いままで、視えてるなんて言わなかったくせに」

「言って得になるものでもないだろうが」


 ルマンの周囲に精霊はいない。裏町はあまり物持ちが良い人間がいないため、必然的に宿り精霊も少ないからルマンも精霊との交流がなかったのだろう。

 ルマンはアシエラを気にしながら、敵意がないことを示すように距離を保ったまま話を切り出した。


「そこのエルフも聞いてくれ。チトセ、ボスの死因が分かった」

「バジガンの死因?」

「毒殺だった」

「まぁ、そうだろうね」


 チトセが修理した煙管に口をつけた直後に苦しんで死亡したとの話もあり、突発的な病死か毒殺のどちらかだろうとはチトセも思っていた。

 ルマンが続ける。


「問題は毒の方だ。チトセが直した煙管にも少量付着していたようだが――まて、臨戦態勢を取るな。話を最後まで聞け」


 エティとチトセが同時に構えたのを見て、ルマンが慌てた様子で両手を前に突き出して制止する。


「毒はボスが直前に飲んでいた紅茶の茶葉から見つかった。うちの若手が一人、ボスと同じ症状で死んで判明した」


 アシエラが納得した様子で口を挟む。


「紅茶を飲んだ口で煙管をくわえたから毒が付着したって話だね?」

「そういうことだ」

「それをチトセちゃんに話す理由は? ボスのバジガンとやらが暗殺されたって話は、あなたたちの面子に関わるでしょう。秘密にしておくものじゃないの?」


 アシエラの質問にルマンは一つ息をついた。やっと本題に入れたと言わんばかりに肩の力を抜いている。


「チトセ、お前の容疑は晴れた。だが、裏町には戻るな」

「一応、家があるんだけど?」


 容疑が晴れたのなら着替えなどを取りに帰りたいところだ。貴重品は逃げ出すときにあらかた持ち出したが、生活用品は足りないものが多い。

 ルマンの目が険しくなる。


「もう一度言う。戻るな。デポッサ老について嗅ぎまわっている奴がいる。ボスを殺した犯人かもしれねぇからこっちで追いかけてるんだ。邪魔になるから隠れてろ」


 アシエラがチトセに問うような視線を送る。

 チトセは短く答えた。


「私の育ての親のデポッサはバジガンと仲が良かったんだよ」


 ルマンはバジガン殺しの犯人がデポッサに関係していると考えているらしい。

 チトセにはいまいち、デポッサと殺人が結びつかない。ルマンが何らかの情報を隠しているのだろう。

 アシエラがルマンに質問する。


「それを言うためだけに、わざわざ帝都から出てきてここで待ち伏せをしてたの?」


 チトセが宿り木の庭に居候をしていることはルマンも知っているはずだ。

 わざわざここに一人で来たのは、ファミリーの人間に知られたくない事情があるのではとアシエラは想像しているらしい。

 だが、ルマンは何も企んでいないと、付き合いが長いチトセにはわかった。

 案の定、話は終わりとばかりにルマンが踵を返す。


「デポッサ老には世話になったからな。ボスもチトセのことは気にかけてた。チトセはそのまま表で暮らしとけ。裏の始末はこっちでつける」

「始末をつけるも何も、私はとばっちりくらってるだけなんだけどね」


 ふっと笑ってルマンは歩き去る。……停留所の方へ。

 チトセはアシエラと顔を見合わせた。


「なんか、格好つけて帰っていくけど停留所で鉢合わせたらどんな顔をするかな?」

「チトセちゃん、良い性格してるよね」


 アシエラの提案通り、広場で昼食を取ることになった。


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