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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第三章 革命期編

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第二十一話 博護会

 帝都の高級宿トラレスホテルの支配人キンゲルはチトセの話を聞くなり商売人の顔となった。


「精霊という不可視の戦力、教会という拠点、元ハウンドープ侯爵という頭脳、実働部隊として活動資金をねん出する商人ですか」


 キンゲルはチトセの計画がほぼ形になっていることを理解し、損得勘定をしながら腕を組んで悩む。


「実働部隊の指揮官が私ということになりますよね?」


 支配地域も含めた帝国全土を管轄する実働部隊の長。仕事量は想像に難くない。

 利益は膨大だが仕事量を考えると即決はできない。

 だが、チトセはキンゲルなら引き受けると思っていた。


「宿の経営、どうですか?」

「分かっていて言ってますよね?」


 独立軍、革命軍、治安悪化に伴う盗賊の出現。旅行などできる情勢ではなく、帝都では暴動も起きた。

 高級宿トラレスホテルといえども、客足は遠のいている。

 暴動の発生時に避難所として開放できるほどに警備も設備も充実したトラレスホテルですら、この状態。


 キンゲルは帝都にある宿屋たちの顔役だ。そんな彼が同業の宿屋の苦境を知らないはずがなく、帝国全土の宿屋の経営が苦しいことも分かっている。

 避難民や商人の移動には教会という避難所、終着点までに立ち寄る宿がある。その利益はどれほどになるのか。

 不可視の護衛、精霊に守られた安全な旅路。その客が泊まっている間の宿も精霊に守られる。

 利益は大きい。


 キンゲルは盛大な溜息をついた。


「同業の仲間を思えば断るという選択肢がないんですよ」

「別に人質にしたつもりはないですけどね」


 チトセは肩をすくめて言い返す。

 キンゲルに話を持ってきたのは有力商人で顔見知りだからだ。しかも、トラレスホテルの名誉を傷つけようとすれば怒りだす孵化精霊ニトンがいる。信用度が他の商人たちとは一線を画しているのだ。


 だが、別の人間に話を持っていくことも可能ではある。

 キンゲルも自分に対する評価はよくわかっているのだろう。断る選択肢がほぼないことも。


「……引き受けましょう。しかし、私一人では無理ですから、何人かの同業者に声を掛けます」


 帝都から各地の宿屋と細かい連携を取るのは難しいため、教会との関係性に注意しつつ各地の有力者にいくらかの権限を渡したいらしい。

 主要な避難経路上に宿を経営している方がいいとのことで、ムタージュやサクーミと協議の上で決めることになるだろう。


「ムタージュ枢機卿やサクーミ氏と直接話し合いたいですね。教会では不味いでしょうし、当宿も人の目があります。ご迷惑でなければ宿り木の庭にお邪魔しても?」


 発起人であるチトセが断れるはずもない。中立性という面でもサクーミが足を運べる場所は限られる。

 チトセは了承する。


「構いません。それから、二人とも今日と明日は予定を空けてくれると言っていました」


 協議が必要になるのは織り込み済みなので事前に話し合って決めてある。計画の内容を詰めることになるのでかなりの長丁場になるだろう。

 すでに日も没して時間が経つ。夜明けまでまだずいぶんと時間があり、密談をするならちょうどいい時間帯ですらあった。


※


 日付も変わる頃、アンティークショップ宿り木の庭は帝都の有力者が揃った協議の場となっていた。

 チトセが淹れた紅茶を飲んで三人ともが目を丸くして感動する。


「美味しい。我が家の執事長も相当な腕前のはずだが、遜色ない」

「当ホテルの給仕でもこのレベルはいませんね……」


 サクーミとキンゲルが感動しているのを見て、ティ・キーがチトセの後方で腕組みをして誇らしそうに頷く。


「お嬢の紅茶はもはや、どこに出しても恥ずかしくない。否、誇らしいほどよ」


 美味しい紅茶のおかげというわけでもないが、協議は円滑に進んだ。話を持ち込んで半日経っていないというのに、かなり詳細に内容を詰めている。高位貴族と枢機卿、帝都を代表する宿屋の支配人。三人ともが非常に有能で経験豊富だからだろう。

 計画の発案者はチトセだが、三人の話についていくだけで精一杯だった。そんなチトセを気遣って三人が時々説明してくれる。


「大まかに話を詰められましたね。後は声をかける隊商と教会からの返事待ちでしょうか」

「孵化精霊による情報網の構築は、精霊が視えない我々三人ではどうにもできませんから、チトセさんに任せます。何か相談があればいつでも」


 残った課題の振り分けもして話をまとめたキンゲルとムタージュに、サクーミが待ったをかける。


「後二点、取り決めておかねばならないことがあるね」

「二点ですか? ……あぁ、組織の名前と紋章ですか」


 全員が考えていなかったが、組織名とそれを示す紋章は重要だ。特に紋章は避難民も掲げて移動することになる。早く決めて紋章入りの旗などを各教会や宿に配布しておく必要がある。


 自然と、発起人であるチトセに三人が目を向けた。

 チトセは白ウサギたち孵化精霊を見る。そんなチトセに、肩の上からエティが声をかけた。


「チトセが考えるべきだろうね」

「……センスがないんだけど」


 孵化精霊や宿り精霊、所持者を守るための組織。あれこれと考えると迷走してしまいそうで、チトセは適当に思いついた単語を紙に書き出し、精霊たちに選んでもらう。


「――では、組織名は博護会。紋章はティーカップを運ぶ精霊で」



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