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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第二章 混乱期編

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第十五話 答えのない問い

 客が一通り捌けてチトセはカウンターに戻った。


「……この店って、本当に特殊だよな」


 エルタがチトセに同情するように呟いた。

 一般人には視えないが存在そのものは知られている宿り精霊。そんな宿り精霊がついている可能性があるアンティーク商品を扱う宿り木の庭は確かに特殊だ。

 しかし、チトセは肩の上に座るエティを横目に見て呟く。


「賑やかで楽しいよ」

「その賑やかさの何割くらいを俺は感じ取れとれてるんだろうな」


 精霊が視えないエルタは片手を服のポケットに入れて肩をすくめる。

 チトセはポケットに入れられたエルタの手を指さした。


「時々ポケットに手を入れるけど、癖?」

「わ、悪かったな、育ちが悪くて!」


 育ちの悪さで言えば裏町育ちの自分を凌ぐとも思えず、チトセはエルタの言葉に取り合わなかった。

 それより気になるのは、エルタが持ってきた担保の方だ。

 アシエラが木箱から取り出して包み紙を丁寧に開いていく。


 包み紙の中から現れたのは赤や青の原色が鮮やかな派手な陶器の皿だった。かなり癖が強い色合いながら、原色の釉薬が描きだす艶やかな絵の主張に息が詰まる。


「飾り皿? でも、これ、なに?」


 アシエラから色々と教え込まれたチトセでも、芸術性は理解できるのにどこでいつ製作されたのか分からない。

 エルタに目を向けてみるが、師匠のハッテから何も聞いていないらしい。感心しながら「やっぱすげぇな」と呟いている。


 そう、チトセもエルタも予備知識なしでわかるほどに、見る者を圧倒する芸術性がある。ある種の法則性が読み取れる線を重ねているだけの絵だ。なにを描いているのか、題材すら分からないのに、何かの法則性が見えてくる《《絵》》。

 アシエラが皿を見て盛大な溜息をついた。


「これは担保にならないって、弟子にしていた頃に言ったでしょうが」


 アシエラの言葉に疑問を抱いて、チトセはエルタの反応を窺う。なにが書かれているかは分からないが芸術性や法則性が読み取れるナニカだ。このナニカを評価する界隈が両替商なら察せるのかもしれない。

 しかし、エルタも同じようにチトセの反応を窺っていた。少なくとも、ハッテに何かヒントになる情報を聞いたり両替商界隈で話題になっているわけではないようだ。

 アシエラがチトセとエルタの表情を見た後、いたずらっぽく笑いながら唇に前に人差し指を当ててティ・キーに口止めする。


「担保にはならないけど、弟子の教育にちょうどいいってことかな。二人で散歩して考えておいで」


 アシエラが店の出入り口を指さす。

 そこに、チトセは確認を込めて質問を投げた。


「これって、言葉で表せるような答えがあるの?」


 何かの法則性は見えている。だが、テーマ、題材があるようには見えない。

 ならば、見えないか、視えても言語化できない何かが題材ではないか。

 チトセは右肩のそばをゆっくりと飛んでいるエティや落ち着いた様子でカウンターに腰かけるティ・キー、店の宿り精霊が興奮しないよう見守っているシャンジを順番に視る。常人には視えない彼らの存在は視えない相手に伝えるのが難しい。


 ――言葉で表すのが難しい。


 チトセの質問を聞いて、アシエラはエルタへと意味深な視線を向けた。


「言葉は情報を伝える道具だけど、言葉で矮小化されてしまう情報を伝えるのが芸術かもね」

「それって答え合わせできないよね」

「それが芸術の長所だよ。周りを見てごらん?」


 アシエラに言われて、チトセは即座に胸元に隠している白光螺鈿の短剣に手を当てた。


「――それで?」

「おやおや、もう私からは教えることはないね……」


 アシエラが歓迎するように笑いながら両手を広げ、チトセの肩の上で、エティが楽しそうに笑った。

 思い出には、他者の答え合わせなどないのだから。

 そのチトセの横、エルタはポケットに手を入れて眉をひそめていた。


「俺だけ話についていけてないっぽいけど?」

「そうだね。人の答えを流用できる問いではないからね」


 アシエラが目を細めてエルタの表情を窺う。

 アンティークショップの店員であるチトセは、思い出という他者に共有できない答えを示すことができる。


 しかし、両替商の弟子であるエルタの答えは何か。担保として預かった品に思い出も何もない。

 仕事が違うからこそエルタの考えが気になったチトセは興味津々でエルタを見る。

 エルタは飾り皿を真剣に見つめて言葉を選ぶ。


「……分からない」


 その言葉は決して、逃げではない。

 真剣に向き合って、導き出した答えが『分からない』のなら、分かる部分はあっても核心に迫ることができなかったのだ。

 問われている観念的な部分において、チトセにとっての『主観的な思い出』のような答えを持ち合わせていないという発言でしかない。


 ならば、アシエラの返事は予想できる。

 チトセはいち早く店の出入り口へ爪先を向けた。


「――エルタ君、散歩に行っておいで。チトセちゃんは相談役としてついていきなさい。ティ・キー、チトセちゃんには答えを教えていいよ」


 アシエラに許可を出されて、ティ・キーが飛び立つ。


「デュバ族という悪魔崇拝者による品だ。いまとなってはさしたる影響力もない集団である。だが、昔は貴族相手に暗殺を繰り返した故、いまでもこの手の品を嫌う貴族や商人は多い。価値以前に買い手がつかぬよ」

「それって――」


 とんでもない厄ネタと言いかけて、エルタにヒントを与えないように口を閉ざす。

 ティ・キーはチトセの肩に降りる。


「だが、熱心な信仰であることに変わりない。見る者を惹きつける魅力はそこから来るのだろう。己が信仰を原色の線で描き出すのが特徴でな。一目でわかる」


 厄ネタではあるが、製作者にとっては確かな信仰心、形のない観念的な概念を描き出しているのだろう。それも、かなりの情熱をこめて。

 厄ネタであることを知っていて、アシエラも丁重に紙に包んで箱の奥に仕舞いこんでいた。


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― 新着の感想 ―
歪んだ対象だろうが目的だろうが、こと芸術に於いては熱意と腕前に関係ないものなぁ……。 まぁ担保というか金になるかどうかは、温情以外では需要と供給しかモノサシは無いのだけどw
人間とは違う時間で生きてるエルフにとって、人間の宗教なんてほとんど新興宗教なのかなぁ、となんとなく思いました。 そう見ると悪魔信仰も主流派もエルフからしたら大差ないのかも?w
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