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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第二章 混乱期編

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第十四話 詐欺まがい

 エルタは宿り木の庭の客から向けられる視線にやや不快そうな顔をしながらもカウンターに荷物を運んでくる。


「ちょっとここに置かせてもらっていいか?」

「そこだとお客さんの邪魔になるからカウンター裏に入って」

「そう? わかった」


 エルタが荷物を置けるように、カウンター裏に置いているホコリ取りなどの掃除道具を退かす。

 丈夫そうな合せ板の箱を持ち込んだエルタが慎重に床に降ろす。一抱えもある見た目ほど重くはなさそうだが、大事な担保となれば扱いも丁寧になる。

 箱の中には緩衝材の藁や木くずが詰められ、紙に巻かれた担保がいくつか入っていた。


「形からして、皿に盃かな?」

「他にもいくつか、底の方に埋めてある。ビンテージのワインか何かを担保に出されたけど、それは師匠が管理できないって断った」

「温度とか湿度とか、管理が大変らしいね」

「貴族の家なら執事が全部管理してるらしいけどな。たまに酔っぱらう執事もいるって」


 雑談しながら、チトセは箱の中を眺めた後、椅子から立ち上がる。

 いまだに店内の客から質問攻めにあっているアシエラと交代するためだ。担保の話なら店主であるアシエラが確認する方がいい。


「――ペズナーク調の重厚感がある彫刻の入った椅子が欲しいのよ。本当にないの?」

「この辺りでは見ないね。七十年くらい前に少し扱ったけど、北方兄弟国のどちらかの客が買って行ったよ」


 アシエラが記憶を手繰るように思い出しながら話しても、客は疑いの視線を向けている。

 あの客は同業だな、とチトセは近付くのを躊躇った。アシエラがうまくやり過ごす様子を勉強させてもらおうと言い訳も用意する。

 しかし、客の方はチトセを見逃さない。言質を取るつもりか、ぎろりと目を向けてきた。


「精霊の視える店員さん、プレペズナーク調でもいいの。椅子か、キャビネットはない?」


 ペズナーク調は、北東の海を越えた別大陸の国家に影響を受けた建築や家具、ファッションのスタイルだ。

 建築や家具であれば暗色の下地に上から下に行くほど太くなる彫刻を施し、ファッションにおいては黒絹を用いたレースで落ち着いた雰囲気を演出する。


 だが、プレペズナーク調は少々趣が異なる。なにしろ『海原荒れる北東の大陸から来た、意味不明』という当時の嘆きがあるほど。


 荒れた海を越えて伝わる情報だ。生き残った船乗りは凄い発見をしたとことさらに強調し、盛りに盛った話をする。

 別大陸の情報は高く売れる。しかも関心が高いとなればなおのこと。……詐欺師が出てくる。

 盛りに盛られた現地の話、船に乗ったこともない詐欺師の話、冷静に報告する船長や航海士の話。意味不明なのが逆に災いして即物的な夢と幻想と現実的な報告が入り混じった。


 そんなプレペズナーク調とは、空想上の生物を象った置物や嘘か誠か分からない別大陸の地図を天板に彫った机や、金銀を所定の位置に埋め込んで大地の力を得ることを目的にした椅子という意味不明な品物が大量生産されている。

 ペズナーク調の椅子が欲しい人間は絶対にプレペズナーク調で妥協しないのだ。


「えっと、帝国流ジョークですけど、頭の中にあるのでは?」


 反帝国であろう支配地域の他の客たちが「くふっ」と笑いをかみ殺す。

 笑いをこらえた客は軒並み同業者だ。


 プレペズナーク調のアンティークには精霊がついていることが特に多い。

 空想や幻想を伴うからこそ独特の魅力があるため、濃いファンが多く大事にする持ち主が多いせいだ。

 現在、ディッセラ帝国は支配地域を含めて政情が不安定になっている。そんな中で、限られた人間にしか見ることができない精霊がついている商品は大きなアピールポイントになる。

 精霊に気に入られたなら、先の老紳士サクーミのように一般的には不可視な護衛を得ることができるからだ。


 悪質なアンティークショップでは精霊がついていると偽って販売している事例があるほど、一般的な詐欺手法でもある。

 エルフのアシエラが営む宿り木の庭で仕入れたプレペズナーク調の商品と謳えば、それだけで客を騙せる。


 全部を見透かしたうえで「あなたに視えない精霊はあなたの頭の中にしかいませんよ?」というチトセの返しは悪質ではない同業者が笑いをこらえられないほどに完璧な対応だった。

 悪質な同業者ではあっても場の空気は読めるらしい。顔を強張らせながらも、「無いなら諦める」とだけ言い残し、ほとんど駆け足で店を出ていった。

 近くにいた宿り精霊がしきりに首を傾げている。


「じょーくハ、ワラウ、ハズダヨー?」

「余裕がないとジョークで笑えないんだよ」

「ヤスメー!」


 宿り精霊は少し怒った顔で窓の向こうにちらりと見えた走り去る客に叫ぶ。


「笑えない自分に気付いて休みに行ったのかもね」

「ン? オォ! ネナサイ!」


 より効率のいい休み方を叫ぶ宿り精霊の声は当然ながら届かない。

 精霊が視え、声が聞こえるならプレペズナーク調の商品があるかを聞く必要などないのだから。

 チトセはアシエラを見上げる。


「交代して」

「ありがとう。でも、皮肉は禁止だよ」


 アシエラの言葉を聞いた客たちに緊張が走る。

 店から逃げ出した客に照らし合わせれば、チトセに皮肉を言われる時点で同業者から笑いものになる。


「モノを大事にするお客さんには言わないよ」


 言外に物を大事にしない人間は客ではないと言い切るチトセにアシエラは笑顔で頷く。

 宿り木の庭の客は人間とは限らない。

 大事にされた物に宿る精霊もまた、客なのだから。


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