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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第二章 混乱期編

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第十三話 ギミックステッキの修理

 宿り精霊から根気強く話を聞き、チトセはギミックステッキの不具合箇所を特定した。

 改めてギミックステッキを見る。


 赤褐色で木目が詰まったマホガニー材の柄に真鍮製の柄頭がついている。柄頭は狼の頭を模しており、柄との接合部分はいくつかの細かいパーツを組み合わせた幾何学模様を描いていた。

 このギミックステッキは柄頭を右回りに二回転させた後、狼の頭を頷かせるように倒し、細かいパーツ部分を正しい順序で動かすことで柄頭が分離する。これで中の物が取り出せるようになる仕組みのようだ。見た目で察しが付く上、サクーミというらしい老紳士からも証言を得られた。


 不具合は幾何学模様パーツを動かしていく際に本来の手順では動くはずのパーツが動かないこと。この不具合のせいで杖の中身が取り出せなくなっているらしい。


「曾祖父の代からの品だからね。こういうこともあるかと思っていたが、どうにか修理できないだろうか?」

「タノムワヨ!」


 なぜか胸を張って自信満々に修理を頼んでくる宿り精霊曰く、動かないパーツは内部構造に砂が噛んでしまっているとのこと。さらに、正規の手順でパーツを動かした後に出てくるダイヤル錠にも錆があり、おそらくは動かないらしい。

 問題点を紙に書き出し、内部構造も簡単な図に起こしていると居住スペースから木目調の翼が生えた猫のような孵化精霊が飛んできた。いつもアシエラが連れている孵化精霊だ。


「ただいま帰ったぞ、小娘。大事ないか?」


 先日、暴力を振るおうとした客がいたのもあって確認に来た孵化精霊はサクーミを見て「ふむ」と呟いた。


「すぐにアシエラを呼ぼう」

「お願い」


 空中でくるりと猫ひねりをした猫精霊が居住スペースに戻っていく。

 アシエラが店に出て来ると、店内の客が一斉に振り返った。すぐにアシエラに声がかかり、商品の説明などを求められる。

 帝国人のチトセよりもエルフのアシエラから話を聞きたい、と言ったところだろうか。帝国貴族風のサクーミと話しているのもあるだろう。


 助けはいるかと視線で問うアシエラに、チトセは無言で首を横に振る。店内の他の客を相手してくれれば、サクーミの対応はできる。

 チトセはサクーミを見た。


「幸い、自壊する仕掛けもありませんからここで中身を取り出せると思います。工房に依頼した方が確実ですが」

「ここで取り出せるのなら頼みたい。早めに中の物を確認する必要があってね」


 そういえば中身については聞いてなかったと思いながらも、中身を知られたくない場合もあるので口には出さない。


 チトセはカウンター横に棚から工具類を取り出し、滑り止め代わりのフェルト生地をカウンターに敷いてギミックステッキを乗せた。

 くるくると柄頭を回し、細かいパーツを動かして問題の砂が噛んで動かないパーツにたどり着く。親指の爪ほどの大きさがある五角形のパーツを押し込むのが正規の手順らしい。

 工具類を差し込む隙間もないが、押し込んだ際のパーツの沈み方で砂の位置は分かる。


「手伝って、エティ」

「いいけど、どうするんだ?」


 肩の上から飛び立ったエティがチトセの手元に降り立って首を傾げる。


「中にこういう形の空間の遊びがあるから、そこに砂を転がしたいの」


 紙に内部構造を書き出して、念のためにギミックステッキの宿り精霊に確認する。宿り精霊のお墨付きも得られたことで、チトセは具体的な手順を説明する。


「私がこのパーツを押さえたまま下に向けるから、こっちのパーツを私の方に向かって押し出してくれる?」

「これか? いいぞ」


 チトセだけでは手が足りないが、エティが手伝ってくれれば問題はない。

 チトセが指示する通りにエティがパーツを動かす。パーツが外れて、チトセが抑えている五角形のパーツが自由に動くようになった。

 迂闊に手を離すと他のパーツが分離してしまうので慎重にギミックステッキを傾ける。すると、柄頭の狼の口からさらさらと白い砂が零れ落ちた。

 パーツを元通りに戻し、チトセはギミックステッキの柄頭を外しにかかる。


 柄頭を外すと、柄の中の小物入れとシリンダー錠が現れた。ステッキの柄の中に入っているだけあって太さも大したものではない。指輪や万年筆くらいしか入らないだろう。

 チトセはダイヤル錠の錆を虫眼鏡で観察してから、隙間の邪魔な錆だけを器用に落とした。


「これで回せると思います」

「ずいぶんと手際が良い。本職顔負けだ」


 チトセの手際の良さに感心したサクーミはダイヤルをくるくると回して解錠する。

 筒状の小物入れを傾けると、コロコロと中身が出てきた。

 手の込んだ意匠のカフスボタンとリングが細い金の指輪。折りたたまれた紙が数枚。


 サクーミが真っ先に手に取ったのは数枚の紙だった。手早く紙を開いたサクーミは真剣な目つきで中身に目を通し、再び折りたたむ。


「ありがとう。本当に助かったよ」

「どういたしまして。ダイヤル錠の錆は専門の工房で落とした方が良いです。錆止めも一緒にしてくれるので、ここでやるより長持ちします。それから、柄頭のギミックですが軸が少し歪んでいるパーツがあるようです」


 パーツを動かした際の違和感が確かなら、という条件付きだが、おそらく間違いない。


「工房を紹介しますので、早めに持ち込んであげてください」


 工房への紹介状を書き、シーリングスタンプを押す。枝の先にティーカップが吊り下がっている絵柄にサクーミが不思議そうな顔をした。

 紹介状を受け取ったサクーミから修理代金に銅貨三枚を貰う。宿り精霊の証言がついた修理箇所や内部機構の説明書きも添えてあるので妥当な料金だ。


「ありがとう。本当に助かったよ」


 自分がいると店内の空気が悪くなることには気付いていたのだろう。サクーミはギミックステッキを手に取ると軽く頭を下げて足早に店の出入り口へ歩き出す。


「オセワニ、ナッタワ」


 宿り精霊はチトセに手を振ってサクーミが持つギミックステッキの柄頭に座り込む。床に突かず片手持ちしている上に周囲に配慮してか腕を振らないため、ギミックステッキの上は揺れが少なく座りやすそうだった。

 カランと出入り口の鈴を鳴らしてサクーミが扉を開ける。


「……どうぞ」


 工具を片付けていたチトセはサクーミの言葉を疑問に思い、顔を上げる。

 サクーミと入れ違いにエルタが入ってくるところだった。師匠である両替商のハッテから預かった荷物かおそらくは担保の品を抱えて手が塞がってしまっている。


「どうもありがとうございます」


 エルタがサクーミを見上げて礼を言う。


「どういたしま――」


 エルタに返事をするサクーミが不自然に口籠り、エルタの金の眼を覗き込むように目を細めた。

 サクーミの無遠慮ともいえる視線にエルタが一歩下がる。


「なんですか?」

「……いや、お仕事頑張って」


 サクーミは誤魔化すように言って、エルタに道を譲る。出入り口から店に入るエルタの背中をしばし見つめていたサクーミは扉を閉めると振り返ることなく帝都に消えていった。


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― 新着の感想 ―
猫ひねり!
チトセは帝国人かもだけど、どう見ても侵略戦争を直接は知らない年齢の子供なのに… 侵略された国のお客達、心が貧しい奴しか居ないなぁ
おっ、エルタにも出生の秘密が?
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