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物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第二章 混乱期編

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第五話  倉庫の貸し出し

 ハッテが宿り木の庭にやってくる頃にはすっかり日も落ちていた。


「エルタが迷惑をかけてない?」

「宿り精霊に遊ばれてるよ」


 裏口からやってきたハッテに、アシエラはエルタの様子が見えるように体をずらす。

 髪を持ち上げられ、服を引っ張られながらバックギャモンに付き合わされているエルタがいた。

 宿り精霊の玩具になっているエルタを見てハッテが懐かしそうに目を細める。


「ここの洗礼は変わらないね」


 ハッテは裏口の戸を閉めて中に入り、エルタの隣に腰かけた。宿り精霊たちが新たな玩具の来訪に沸き、さらに騒がしくなる。

 チトセは食器を用意しつつエティに声をかけた。


「エティ、みんなを大人しくさせて。食器を出すから、事故が怖い」

「はーい」


 軽い返事をしたエティが飛んでいき、宿り精霊の中でひときわ元気な数体を捕まえる。ティ・キーやシャンジなど他の孵化精霊も協力してくれた。


「ほら、お客さんが困ってるだろ。夕食の邪魔をするな」

「ツカマッター!」

「ニゲロー!」


 きゃっきゃと笑いながらエティから逃げ回る宿り精霊たちをティ・キーが諭す。


「彼女らは大事な話をするようだ。これ以上は迷惑になる故、離れるようにな」

「ハーイ!」

「店に戻るぞー。ついてこーい」

「モドル」

「ナニスルー?」


 シャンジが引率して宿り精霊たちを店に連れて行く。

 精霊が視えないエルタは突然気配が消えたことに気付いて周りをきょろきょろ見回した。

 チトセはエルタの前に料理を乗せた皿を配膳しながら声をかける。


「孵化精霊が店に連れて行ってくれたんだよ」

「もっと早く連れて行って欲しかったな」

「適当に遊ばせておかないと余計に絡まれるよ」


 適度に構ってあげればいいのだが、視えないエルタには無理な話。

 ほぐした川魚の身と数種の野菜が入ったパスタを各人の前に並べて、チトセも席に着く。

 アシエラとハッテが簡単に近況を話し合った後、本題に入った。


「うちの倉庫を借りたいって話だったね」


 アシエラが切り出すとハッテが静かに頷く。

 ハッテからアシエラへの返信には、宿り木の庭が所有する倉庫を借りたい旨が書かれていた。

 ハッテはパスタをフォークで巻きながら説明する。


「アシエラさんからの手紙にもあったけど、やっぱり融資してくれって相談が増えてるんだよね」


 イベントの中止とダブついた在庫による価格低下。イベントへ商品を前もって発送していた店は短期的な赤字を出してもいる。

 借り手が増えれば金利も上がる。それなら今のうちに運転資金をいくらか借りて商機を逃さずに動けるようにしよう。そんな心理が働くらしい。

 ただし、ここまでは余裕のある商店のお話だ。


「イベントそのものの設営とかをしている業者が割を食ってんだよ。人手を集めたのにいきなりイベント中止、補助金が出ないないから支払いもなしってね」

「やっぱりそうなったか」


 ハッテの話はアシエラも予想していたらしい。チトセは人足親方ドーマールを思い出す。

 帝都船着き場の人足は需要が途切れないため従業員として雇われているが、イベントのような突発仕事では日雇いを雇う。それへの支払いができなくなって資金難に陥ることもあるだろう。

 こんな形で影響が出るのかと、チトセは不思議に思う。


 ハッテが話を続ける。


「そんなわけで、融資をしてくれって親方連中がいてね。仕事振りは確かとはいえ返済能力は高くない。あたしも心情的には助けたいが、帝国の行く末がどう転ぶか分からないからね」


 ハッテが懸念しているのは皇太子の急死に伴う貴族たちの政治闘争だろう。

 今はイベントの中止で済んでいるが、さらに影響が大きくなる可能性がある。

 アシエラは水を一口飲んで考えをまとめたようだ。


「担保がないとお金を貸せないけど、ハッテは担保を保管する場所がないからうちの倉庫を貸してほしい、と」

「そういうこと。親方連中も安心できるだろうからね」


 宿り木の庭の倉庫は他の倉庫とは安全性がまるで違う。宿り精霊がついたアンティークが保管され、孵化精霊が定期的に様子を見に行く。アシエラの精霊魔法で結界も張っており、侵入はほぼ不可能だ。

 宿り木の庭の倉庫に多数の精霊がいるのは人足を中心に噂が広まっている。親方たちも担保が盗まれる心配がなくなるはずだ。


 ハッテが商談用の顔付きになる。


「それで、いくらでどれくらいのスペースを貸してもらえる?」

「いいよ。無料で」


 さらっと無料貸し出しを決めてしまうアシエラにハッテは拍子抜けしたように苦笑する。


「張り合いないなぁ。あいかわらず儲け度外視なんだから」


 ハッテの隣でエルタも同じような顔をしていた。両替商のかたわら金貸しもする彼らは無料の貸し出しというのは想像していなかったらしい。

 ただ、倉庫の状態を知っているチトセからするとアシエラの決定は予想できたことだ。


 イベントで買い込むこともあるだろうからといつもより倉庫に空きスペースを作っていた。イベントの中止で持て余している空きスペースだから貸し出すことに躊躇がないし、大型の家具などの運搬で何かと世話になる人足に恩も売れる。

 アシエラは穏やかに笑いながらハッテを見る。


「金銭的な利益はないけど、金貸しに貸しを作るのは長い目で見て利益になるよ」

「エルフの長い目はあたしが死んでるよ」


 ハッテはそう言って豪快に笑った。


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