表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物に宿る精霊が見えるのでアンティークショップで働きます  作者: 氷純
第二章 混乱期編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/49

第四話  弟子のエルタ

 ハッテからアシエラへの手紙を受け取る。アシエラ同様、低級紙に書かれた返信だった。

 チトセが受け取った低級紙を見て、エルタが一瞬硬直する。


「師匠? 紙はこれで大丈夫なんですか?」

「うん? あぁ……」


 一瞬怪訝な顔をしたハッテは説明する。


「アシエラさんはあたしの魔法の師匠でね。四十年近い付き合いだ。正式な依頼ならともかく私信に高級紙は使わないよ」


 ハッテは少し考えた後でエルタの背中を押す。


「ちょうどいいや。チトセちゃん、エルタを連れて店に戻ってアシエラさんに紹介しておいて。あたしも後から行く」

「わかった」


 チトセはハッテの手紙をポケットに入れて、夕焼けに染まり始めた空を見る。


「夕食は食べた?」

「まだだね」

「アシエラさんに伝えておく」


 聞きたいことは聞いた。チトセはハッテに背中を向けて歩き出す。エルタが隣に並んだ。

 こうして並んで歩いてみるとエルタの方が若干背が高いことに気が付く。


「エルタさんって何歳?」

「さんはつけなくていいよ。今年で十三歳」

「同い年だね」


 特に感慨もなく言って、チトセはエルタの頭のてっぺんを見る。十三歳ということは成長期だろう。次に会う時には見下ろされていそうだ。

 自己紹介をしていなかったのを思い出して、チトセは続ける。


「私はチトセ。アンティークショップ宿り木の庭で働いてる」

「宿り木の庭って……。確か、エルフが経営してるんじゃなかったか?」


 どう見ても人間のチトセを見てエルタは不思議そうな顔をする。ハッテから何も聞いていないらしい。

 チトセの肩でエティが手を振っているが、エルタに視えている様子がない。ハッテ同様、精霊が視えない一般的な人間のようだ。


「私は精霊が視えるから、店主のアシエラさんに捕まったの」

「捕まったって、穏やかじゃないな」


 実際に穏やかな出会いではなかった。チトセを追いかけていたマフィアをアシエラが蹴散らしたのが初対面だ。

 懐かしくなって小さく笑ったチトセは大通りで足を止める。


 帝都のここ最近の事情を、情報に聡い両替商の弟子が知らないはずもない。エルタもチトセと同様に足を止めて馬車が来ていないか見回した。

 安全を確認して揃って歩き出す。


「チトセは弟子入りしてどれくらい?」

「弟子じゃないよ」


 あくまでただの従業員の立場は崩していない。エルフのアシエラはチトセよりもはるかに長生きで、宿り木の庭を継ぐ日が来るはずもない上、独立して店を持つ気もない。


「宿り木の庭で働き始めてだいたい三年くらい」


 仕事も大部分を覚え、取引先への顔合わせもしてある。各工房への修理依頼などもチトセの権限で出来るようになってきた。

 答えを聞いてエルタは驚いた様子でチトセの横顔を見る。


「三年って、十歳から働いてるってことか?」

「ちょっと事情があってね」


 宿り木の庭で働き始める前から、裏町で家具などの修理をして働いていたことは話さない。裏町と表では環境が違うのだから。

 とはいえ、表であっても十歳から働くのは珍しい。古書店主の孫オーミーのように家業ならともかく、チトセとエルフのアシエラに血縁関係がないのは明らかで、エルタは働き者を見るような目でチトセを見つめていた。


「エルタは弟子入りしてどれくらい? 半年とか?」


 最後にハッテと会った半年前にエルタの姿はなかった。それを踏まえて当たりをつけるチトセにエルタは頷く。


「おおよそ半年ってとこ。店に出るようになったのはつい最近」


 計算や商慣習をしっかりと教わってからでないと危なくて店先に出せないと言われて勉強漬けだったらしい。

 初日から店のカウンターでアシエラの講義を聞かされたチトセとは違う。宿り木の庭は基本的に客入りが少なかったのもあるのだろう。


「金貨や銀貨の種類を覚えたり贋金の見分け方を勉強したり……。頭に詰め込めるだけ詰め込まれたよ」


 本当に覚えることが多いのだろう。エルタはうんざりした顔でため息をつく。

 基本的に帝都では帝国貨幣しか流通していないので、チトセは貨幣の種類なんてほとんど覚えていない。イベントで遠出する時にアシエラから注意として聞かされる程度だ。

 それを話すとエルタは少し羨ましそうな顔をした。だが、すぐに別の苦労があることに気付いたらしい。


「アンティークショップって家具の年代とか相場も覚えるんだよな?」

「そうだね。ほかにも材質とか、辺境キャビネットだと隠し棚があるからその位置とかも。鍵がかかるタイプの棚や引き出しがついている場合もあって、簡単な鍵開けの技術も必要。お客さんが鍵をなくしたって持ち込んでくることがあるんだよ」

「……アンティークショップの方が大変じゃね?」


 簡単な仕事はないってことだね、と結論を出し、二人で笑い合う。

 夕日が沈みかける頃、二人は宿り木の庭に到着した。

 チトセは店の入り口に店じまいの掛け看板を出して、エルタを中に案内する。


「アシエラさん、ただいまー」

「おじゃまします」


 エルタがチトセに続いて挨拶すると、居住スペースからアシエラが顔を出した。聞き慣れない声の正体が気になったのだろう。


「いらっしゃい」


 エルタを歓迎しつつ、アシエラはチトセに目線で紹介を求める。

 チトセはエルタを手で示し、説明した。


「ハッテさんの弟子のエルタ。後からハッテさんも来るって。夕食、用意できそう?」

「四人分かぁ。魚が足りないね」

「買ってこようか?」

「いや、メニューを変更するよ」


 チトセがハッテからの返信を渡すと、アシエラはざっと目を通して何かに納得したように頷いた。


「チトセちゃん、料理を手伝って。エルタ君は中に入って、いまお茶を出すから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どっちも偽物を掴まされたら堪ったものじゃないから師匠も気が抜けないですね、片方は師匠扱いしてくれませんが。でも精霊魔法の師匠ではあるか?w そうなるとチトセの立場も微妙。識字と計算なんかの知識や実務経…
辺境キャビネット! なんか良い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ