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俺は、ドアを開けて部屋の中に入り後ろ手で静かにドアを閉めた。
目の前にはベッドと本棚、小さなクローゼットしかない。
俺は窓を開けると部屋の空気を入れ替えて風魔法でやさしくほこりを外に出す。
昔からこの部屋は俺が掃除担当だった。
この部屋は今は使われていない師匠の部屋。
師匠がいつ戻って来ても大丈夫なように気がついた時に掃除だけしている。
本棚にはいくつかの本と、ロケットペンダントが置いてある。
ロケットペンダントの中身はとても大事なもののようで開かないように封印されている。
師匠の大事なものを見てはいけないと思っているから封印は解いてない。
いつも首から大事そうにさげていたのに、あの日だけはこのロケットペンダントを師匠はここに置いて行った。
さびしくなった時はこの部屋に来て、このロケットペンダントに語り掛けてしまう。
今日もロケットペンダントに近況報告をした。
師匠に弟子入りしたいロッテが魔術師見習いに登録できたこと。
ロボ丸がいきなり魔術師になったこと。
ロボ丸が魔術師になったことを知ったジェイコブ兄さんがクロエを魔術師にしようと考え始めたこと。
ワンコロが魔力注入しすぎてユグドラシルが復活したこと。
魔術師協会に報告したら厳重な結界を張り巡らされた上で禁足地とされ、管理はやっぱりジェイコブ兄さんになったこと。
最近、うちに通い始めたやつが俺にだけ嫌味を言うこと。
これはただの愚痴か。
師匠だったらなんて返すかな。
そんな嫌味なやつはクソだ、その分私がお前を好きだから気にするな、とか言って俺の頭をガシガシ撫でてくれるに違いない。
「師匠に会いたいな……。」
俺はロケットペンダントを棚に戻そうとしたがチェーンが脆くなって切れそうになっているのに気がついた。
さすがにここだけは修復しようとロケットペンダントをやさしく掌の上に置いた。
俺は窓を閉めて外からわからないように微弱な魔力で隠ぺい魔法をかける。
多分、ロボ丸あたりは気がついているだろう。
ロッテ達がこの家に来た時から、この部屋には誰にも見つからないよう隠ぺい魔法をかけている。
誰にも知られたくない。
誰にも邪魔されたくない。
俺と師匠だけの空間を残したかった。
俺もまだまだガキだな。
綺麗になった変わらない部屋からロケットペンダントを持って後にする。
廊下の気配を確かめる、誰もいない。
検知魔法にもなにも引っかからない。
俺は、音を立てないように静かにドアを開けた。
確認したはずだった。
廊下の端に無表情の(仮)が立っていた。
俺の頭が混乱する。
確認を忘れた?
驚いて動けない俺に向かって(仮)がどんどん近づいてくる。
ロケットペンダントを俺の掌から奪うと、(仮)は俺の顔に手を当てて雷魔法をぶっ放してきた!
こいつ、俺がどうなるか分かってぶっ放しているのか?
師匠の部屋のドアを急いで閉め、部屋と俺に保護魔法を掛けながら俺はヤツのいない方向に向かって廊下を走る。
今の威力だと、完全に頭が黒焦げになってしまうレベルだ。
なんで助かったか分からないが、ロッテからもらったアクセサリーから魔力を感じたからそれが起動してくれたんだろう。
生きていたらロッテにお礼を言おう。
家の中で魔法をぶっ放すのは危険だ。
俺の背中に向かって何かが飛んできているのか何度も保護魔法にはじかれている音がする。
俺は廊下の端の窓ガラスを突き破って、2階から外に飛び出した。




