31-1
目の前に(仮)がいる。
手には宝石の原石らしきものを持って店の|ドアの前に立っている。
「カイ君は器用だから彫金の道具とかいろいろ持っているでしょ?
使わせてもらいに来たよ。」
えっ?こいつ、なにを言っているんだ?
貸してやるとも言っていないのに使わせてもらいに来たよ、だと?
待て、優しいロッテとかよく分かっていないワンコロとか勘違いしたロボ丸が貸してあげるとでも言ったのかもしれない。
「誰かが道具を貸すと許可したのか?」
俺は、落ち着いた態度を装って(仮)に尋ねた。
(仮)はずかずかと店の中を通って居住スペースまで侵入する。
「君みたいな|タイプは多分この辺りに作業スペースを作っていそうなんだよね。」
と(仮)が勝手に|ドアを開ける。
おぉぉい、無視かい!
なんだこいつ、しかも合っているし!
(仮)が作業机の前の椅子にドカッと腰を下ろす。
もう我慢ならん。
「俺は、貸すとは言ってない。」
俺は作業机をドンっと叩き、強めの口調で(仮)に言い放った。
「あー、叩くと壊れちゃうよ。
大丈夫。借りないよ、使わせてもらうだけだから。」
瞳と口元を緩ませたような笑みで(仮)が答えた。
あぁぁ?お前は一休さんか?
ここで解説をしよう。
一休さんとは、旧時代の僧侶。
とんちというものを使って性格の悪いやつらの難問を解決していくスーパー坊主だ!
いや、それだと俺が悪くなる。
訂正しよう。
一休さんとは、とんちというひねくれたものを使って純粋無垢な人(俺)の日常を壊していく破壊神(仮)なのだ!
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから(仮)に言った。
「使わせるとも言っていません。」
えっ?!と(仮)が驚いた表情で俺の顔を見て固まっている。
なんなんだ。
もしかしてこいつは本当に一休さんの生まれ変わりなのか?
だから自分のとんちが効かないことに驚いているのか?
沈黙が続く。
「なんで?」
(仮)が口を開いた。
なんで?
こちらが聞きたい。
こいつはなんで許してもらえると思ったんだ?
理由なんてない、俺が嫌いだからだ。
こいつが不審者だからだとか、図々しいからとか、そんなことより俺が嫌いだから。
ただ、それを直接言うのは人として違う。
だから、
「俺の作業場には危険なものも置いてある。
だから、よく分かっていない人は立ち入り禁止にしてあるんだ。
悪いがここを使わせることは出来ない。」
(仮)はぐるっと部屋を見回すと、
「確かにここには一般的な人たちにはわからない危険なものがたくさん置いてあるようだね。
例えば、あの棚の上から2番目に置いてある魔獣の皮。
あれは毒を帯びたカエルの魔獣のものだ、触れると痙攣してしまう。
でもここには解毒剤が無い。
つまりは、解毒魔法を使用できるものしか扱えないってことだ。」
あの毒ガエルの皮を見ただけで分かったのか?
こいつは一体何者なんだ?
「ってことで、分かるから大丈夫だよ。
ありがとう!
じゃあ、使わせてもらうね!」
くっそ。断れなくなった。
溜息を一つ吐いて、俺は諦めた。
「余計なものは触るなよ。
あとは、作業場は綺麗に使え。
あとは、うるさくするな。
あとは、……。」
わかった、わかったと言って(仮)は宝石の原石を作業机の上にやさしく置く。
なんだか負けた気がするが俺は大人だから気にしない。
もやもやした気持ちをぶら下げて、俺は武御名方様のところへ気分転換に行くことにした。
俺は、武御名方様のところで雑念を払うように一心不乱に刀を振る。
「なにかあったのか?
剣先が少々ぶれている。」
武御名方様が俺の背後から現れた。
俺は、最近現れたおかしなヤツについてご報告をする。
「怪しいヤツか。
私の妻ならば占いが得意だから危険人物かわかるのだが、今、喧嘩、いやご機嫌斜めでな。
聴くことが出来ないのだ。」
謝まんな、と武御名方様が答えてくださった。
武御名方様の奥様は、ロボ丸特製の小豆粥を贈ったのにほだされなかったのか。
めちゃくちゃグルメな方なのかもしれない。
武御名方様は頬を少し緩めながら続けた。
「私の妻は気立ても良ければ見た目も美しい、どこに出しても恥ずかしくない三国一の美人でな。
皆に平等にやさしいが私にだけ少し厳しいのだよ。
身内ということもあって恥ずかしさから厳しくしてしまうのであろうが。」
めちゃくちゃ惚気るよ、この人。
うわぁ、見てみたい。
武御名方様と奥様が並んでいるところ、すごく幸せそうなんだろな。
俺は喧嘩の原因が何か、武御名方様に聴いてみた。
「心当たりが無くて困っておるのだ。
最近、獣臭いと言われてな。
毎日風呂にも入るし身体もきちんと洗っておるのに。」
その獣臭いって、ワンコロの事では……。
あいつは昔いろいろやんちゃだったみたいだから武御名方様の奥様にも何かやっちゃったのかもしれん。
帰ってワンコロに聴いてみよう。
俺は武御名方様のところを後にした。
ワンコロに聴いた俺がバカだったかもしれない。
「おくさん?っていうのがししょーにいるの?」
と返された。
俺はロボ丸並みに奥様とは何かをワンコロに説明したし、なんなら武御名方様のそばで大変美人な方がいらっしゃっただろうと聴いてみた。
でも、全く心当たりが無いらしい。
では、物理的に獣臭いのかもしれない。
ワンコロは精霊だからなのか俺は獣臭くはないと思っていたのだが、神様ともなるとほんの少しでも臭うのかもしれない。
「これから毎日お風呂に入ろうな。」
俺は、ワンコロとお約束をした。




